サプライヤ分析 4(牧野直哉)
前回に続いて、サプライヤ分析を考えます。今回述べるサプライヤ分析は、いわゆるサプライヤのQCD分析だけではない分析の手法をお伝えします。
【5つの競争要因分析】
ビジネスパーソンであれば、一度は耳にした経験がある「5つの競争要因分析~5 Force Analysis」です。えっ今更?調達・購買で、と思われる方もおられるかもしれませんね。この分析方法は、業界の競争環境を分析して、自社が市場で優位性を確保するためには、どのような戦略を採用すべきかを導くためにおこないます。どちらかと言えば、企業戦略や、企画/営業部門でおこなう分析ではないかと疑問をもたれたかもしれません。調達・購買部門でサプライヤ分析に「5つの競争要因分析」を活用するためには、少し工夫した活用方法が必要です。
まず、調達・購買視点の分析内容です。5つの競争要因分析~5 Force Analysisを、調達・購買の実務で活用する見方です。前回に引き続き、4つのポイントを解説します。
(6)規模の経済以外のコスト面でなにか不利な要素があるか
この内容は、サプライヤ選定でもっともキーになる項目です。サプライヤから供給を受ける製品に、次の様な特徴がある場合は、それだけサプライヤ固有の優位性が高い可能性があります。
①独自の技術による製品やサービス~特許や非公開技術
②独自の原材料供給ソースを持っている~原材料供給企業との共同開発品
③自社からみた立地の優位性~近いか遠いか
④政府や地方自治体からの援助の有無~経済特区や租税の減免処置
⑤経験曲線効果の存在~同一製品の生産履歴
こういった特徴がない場合は、別のサプライヤの存在が確認できるかもしれません。逆に、こういった点がサプライヤの事業に有利に働いている場合は、他のサプライヤからの購入を志向して、競合体制の確立に制約要因となる場合があります。
(7)新規参入で法的な規制があるか
日本国内の市場は、規制緩和が進んでこういった規制は少なくなっていると見る向きもあります。しかし、海外では導入され普及が進むビジネスが、日本の規制によって導入されないケースがあるのも事実です。例えば、Uberは安全な運行管理の観点で、日本では導入が難しくなっています。またAirbnbに代表される民泊にしても、現時点では旅館業法を順守して、旅館業許可を取得しなければ合法とはなりません。
ここまで、参入障壁の大きさについて述べました。現在取引をしているサプライヤを、QCD以外のポイントで評価する場合は、(1)~(7)の質問を用いて、参入障壁が高いのか、低いのかを確認します。
(8)新規参入時、既存企業からの報復は大きいか
報復か大きい場合、また大きいと予想される場合は、新規参入者への報復は大きく、既存のサプライヤが有利と判断できます。代表的な報復行為は、次の3点です。
①価格設定による報復
②販売キャンペーン実施による報復
③販売チャンネル管理による報復
もっとも一般的な報復行為は、①、②のいずれかです。こういった報復行為は、購入者にはメリットです。しかし、新規参入をバイヤー企業から提案した場合は、報復行為によって既存のサプライヤから購入しては、そもそも新規参入を決断したサプライヤとの信頼関係が崩れます。この点は、次の項目で事前検証を十分に行う必要があります。
(9)参入した企業は、コスト<収益の見通しが立つか
調達・購買視点の場合、これはサプライヤで行う取り組みです。既存サプライヤからの購入価格が、不条理に高いと判断できる場合は、新規参入者にコスト面での期待をもつでしょう。もし、バイヤー企業側から、新規参入を持ち掛ける場合、妥当性のある購入価格の見通しをサプライヤに伝える必要があります。
調達・購買部門でサプライヤが存在する業界の新規参入者を想定する場合の分析方法をお伝えしました。もし、取引条件や購入価格に、何らかの問題意識を持った場合、前回と今回でお伝えした内容で、対象となるサプライヤを分析しましょう。各質問に対して、バイヤーがもちうるサプライヤや業界の知識を持って回答します。回答の結果、参入障壁が低いと判断できる場合は、他のサプライヤの探索を始める価値があると判断します。
また、こういった分析に正解はありません。なぜなら、市場における情報をすべて100%バイヤーが網羅できないためです。だから、こういった分析に価値がないと考えるのは間違いです。こういった分析は、発注しているサプライヤの選択の正しさを継続的に検証する取り組みに必要となります。サプライヤ選定は、最初に選定した瞬間のみ、最適な選択だったとすべきです。一度おこなった選択が、継続して正しいと判断するためには、継続的な検証が不可欠なのです。問題は、まったく問題意識をもたずにおこなう、漫然と継続的に発注です。それでは、バイヤーの存在意義がないとは思いませんか?
<つづく>