二社購買のリスク(牧野直哉)

先日、「この5年間で調達・購買は強固になったのか、変わらないのか、情報交換会」が開催されました。多くの企業にとって年度末、かつ開催5日前の告知にもかかわらず満員でした。御参加くださった皆様、ありがとうございました。

情報交換会に先だって、同じテーマでアンケートをおこないました。アンケートの冒頭の質問は「東日本大震災以降、自社のサプライチェーン・調達網のリスク対策(事前策)についてどのような変化や新施策を実施していますか」です。回答には「二社購買体制を採用」が非常に多かったのが印象的でした。また、サプライヤの所在地を「見える化」したとする回答も多数ありました。

坂口と私は、震災直後の2011年9月「大震災のとき!企業の調達・購買部門はこう動いた―これからのほんとうのリスクヘッジ」を日刊工業新聞社から出版しました。お持ちの方は80ページを御覧ください。東日本大震災直後の調達・購買の現場で二社購買体制が機能しなかったと紹介されています。原因は二つありました。

一つ目は、直接購入するサプライヤは二社であっても、サプライヤが購入する原材料や部品のサプライヤが1社だったケース。その1社が被災して供給がストップしました。これは、自社の購入先を増やしても、その先のサプライヤが限定されれば、実質的な一社購買と変わらない現実を我々に突き付けました。日本の産業構造が、ピラミッド=下の階層ほど広いと思っていたらダイヤモンド=下の階層で狭くなっていたのです。結果、震災後に供給構造を明らかにするサプライヤのサプライヤ、更にその先のサプライヤといった調査が活発におこなわれました。

もう一つは、二社購買体制であったにもかかわらず、どちらのサプライヤからも供給再開が早期におこなわれなかったケースです。これは、一社購買だったサプライヤの方が早期に再開したとコメントした多くのバイヤーが語る理由から原因を類推しました。早期に供給が再開された一社購買のサプライヤには、①長期的な購入と、良好な企業間関係 ②一社購買状態をサプライヤ側も認識、この2つがありました。大規模な災害の発生によって、良好な関係でかつ自社からしか購入していない顧客への供給優先度を高める判断をおこなったのです。二社購買体制といっても、それは平時に構築された体制であり、供給力が限定された状況は、優先度を高める要因にはならなかったのでした。

今回おこなわれたアンケートで、震災後に二社購買体制を強化したと回答されたバイヤーは、東日本大震災後の混乱で顕在化した現実を直視しなければなりません。一社購買から二社購買へと移行した場合、一社購買と同じ関係をサプライヤと構築するには、サプライヤに対して、時間的にもコスト的にも従来の倍の関与が必要になるはずです。二社購買体制へ移行しただけでは安心など絶対にできません。二社購買体制は、災害による物理的な影響からは確かな回避策です。しかし、直面した事態で、どの顧客を優先するかを決めるのはサプライヤで働く人の意志です。この意志決定を自社に有利におこなわせて初めて、有事における二社購買は有効に機能する、これは東日本大震災後の混乱から、日本の調達・購買部門が学んだ一つのセオリーです。

情報交換会では、二社購買への移行に際して、リスクヘッジを理由に社内調整が成功し、他部門が動いた事例が披露されました。不適切な表現ですが、こういった取り組みは、使えるモノはすべて活用して目標を達成したすばらしい事例です。しかし二社購買体制を整えたからといって、万事安心はできません。平時と有事の双方で二社購買体制が有効に機能させられるかどうかが調達・購買部門の手腕の見せ所です。有事の際に「二社購買体制を構築しましたが、今回は機能しませんでした」と言い訳に使わないためには、どのように二社(それ以上)と関係を作るかが課題です。

有事における供給継続は、契約による縛りが効きません。先日の東日本大震災も、典型的な不可抗力=当事者の合理的な支配を越えて発生した事象でした。サプライヤとの売買契約、あるいは取引基本契約で、「不可抗力」(Force Majeure)を規定している場合は、金銭債務以外の契約の不履行は免責になります。したがって、サプライヤに「不可抗力」(Force Majeure)を主張させず、一刻も早く供給を再開させる取り組みが必要です。二社購買体制なら、双方とどのように有事に供給を維持するかを、平時にこそ確認しなければなりません。工場所在地の想定される災害リスクはなにか。これは所在する地域の地方自治体のホームページのハザードマップで確認可能です。また、工場建屋の耐震性能を評価しており、適切な耐震性能を確保しているか。これは工場建築の時期と、該当する建築基準法の関係で、ある程度は予測できます。阪神淡路大震災や、東日本大震災でも旧耐震基準の下で建設された建築物の被害が多いとされています。建築基準法に基づく現行の耐震基準は、昭和56年6月1日に導入されていますので、昭和56年以前に建築されている場合、注意が必要です。こういった細部の積み重ねを、二社購買をおこなうサプライヤにおこなって、かつ良好な取引関係を構築して、初めて供給継続される可能性が高まります。こういった取り組みがともなわなければ、二社購買体制は有事にかえってリスクを高める可能性すらあるのです。

(了)

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