いま中小企業の事業継承で起こっていることを、ぼくが3分で解説する(坂口孝則)
新聞等で騒がれているように、中小企業の事業承継がうまくいっていません。これまで調達していたサプライヤが中小企業であるとすれば、彼らが潰れることと同義ですから、調達担当者としても何が起きているのかをはっきり把握しておく必要があります。
なぜ中小企業事業承継が難しいのか--。このところいろいろな社長さんと会う機会が多く、実態が掴めてきました。私がコンサルの立場だからかもしれません。現場の調達担当者だった時代よりも、よく把握することができました。
まずこういうことが起きます。不吉ですが社長が死ぬとします。そうすると専務が、その社長の株を譲り受けたいところですが、なかなかその専務は株を譲り受けることができません。
2つの理由があります。1つ目は奥さんが反対することです。なぜならば社長になったら、個人保証を銀行につけなければいけないからです。そうすると多くの奥さんは、これまでのようにサラリーマンとして定額の給料入ってくることを望みます。そして2つ目は株を買い取るといっても、最低でも数億円はかかるわけで、そのような現金をそもそも用意できないことにあります。
そこで、相続税はかかるものの、経営にはこれまで関わってこなかった息子さんが継ぐことになります。専務と息子が仲良い時代はまだ良いのですが、株を持っている息子が経営のことはわからないわけですから、これは困ります。したがって多くの場合、息子は株式を売ろうとします。
そこでA社を見つけてきて、そこのA社に息子は売ろうとします。例えば4億円としましょう。それを専務に相談すると「そのどこかわからないA社に売られるのは困る」と言われます。勝手に売れれば良いのですが取締役会の決議が必要なケースが多く、息子としても従うしかありません。
そして専務が連れてきたのがB社です。しかしB社は「1億円でしか買うことができない」といいます。株主の理屈からするとA社に販売するべきです。だから息子は取締役会を説得して、A社に売却しようとします。そうすると突然、専務が息子のところにやってきます。「息子さんがA社に売却するとしたら、取締役会は全員辞任させていただきます」と伝えるのです。息子は狼狽しB社に売却することを決意します。
しかしB社に行くと「もう1億円を用意できる時間は過ぎ去ってしまった。今は7千万円しか用意できません」などといわれます。どうしようもないので息子はB社に売却します。しかしそもそもこれで事業承継がうまくいったと言っていいのでしょうか。売り上げは、ここから下がり続けます。このケースでは息子さんがB社に売却していますが、さらに売ることもできず、会社が斜陽になっていきます。
ここで皆様に覚えておいて欲しいのですが、コーポレートガバナンスの教科書では常に株主は利益を最大化するといます。しかし実際は、誰に株式を売却するかで価格は大幅に変わるのです。しかも、どちらかというと、恣意的に決まるのです。
そして株主が経営者を決める、と教科書は言っています。しかし実際に起きているのは経営者たちが株主を決めているのです。ところで、上記の例は、社長が死んだ後の話でした。ただし、生前に、このようなことが起きるとわかっていたら、何ができるでしょうか。何もできません。それが話をややこしくします。さらに事業継承が困難にします。
現場からは以上です。
<了>