コストテーブルと品質、納期をリンクして考えよう(牧野直哉)

前回まで、コストテーブルの作成と活用についてお伝えしました。今回は作成したコストテーブルの活用方法についてのお話です。

前回の最後に、コストテーブル作成を起点にして、複数の業務へと展開し、サイクルさせるイメージの図がありました。コストテーブルの作成は、発注条件の一つであるコストに関する理解を深める、そして理解した内容を、調達・購買のあらゆる業務に活用のです。なぜなら、どんな企業でも、調達・購買部門に対する期待は、適正な価格での購入に集約されるためです。

では、適正に安い価格で購入するためにはどうするか?これまで私が出会って話をしてきたバイヤーは、交渉の活用と実践を熱く私に語っていました。交渉実践によって、自らの業績としてコスト削減を勝ち取るのが指命だと、たくさんのバイヤーが話をしてくれました。

私は、調達・購買部門における最重要業務は、サプライヤーとの交渉だとは考えていません。もちろん、指示命令系統のない他社に対し自社の意向によって動いてもらって成果を出してもらうわけですから、交渉の行為そのものは必要です。しかし、では、すべて交渉によって、不可能が可能となるかといえば、それは全くの妄想でしかないと思います。

例えば、サプライヤーが提示してきた販売条件と、バイヤー企業が希望する購入条件の間に、価格だけではなく他の品質や納期も含めて大きな違いがあった場合、交渉だけで解消するでしょうか。一方的な譲歩をサプライヤーから、交渉を通じて引き出せるでしょうか。はっきり言って無理です。もしかすると、何十年かに一度くらいは、大きな双方の条件提示が、一方的なサプライヤーの譲歩によって解消されるかもしれません。しかし、調達・購買部門だけではなく、事業運営の難しい点は、成果を継続的に出し続けなければならない点です。

したがって、数十年に一度、大きく成果を残す可能性よりも、毎年少しでも良いから継続的に成果を上げ続ける取り組みが必要です。そのためには、人の感情に左右される交渉に依存するよりも、交渉する前の段階、見積依頼の時点から、目指すべきポイントに最短距離に位置するサプライヤーと共に、マーケットを攻略する手だてを準備するが必要です。

複数のサプライヤーが存在する場合、調達・購買部門のセオリーでは「競合」がセオリーになるでしょう。しかし今、競合が成立しづらい市場環境が、あらゆる業種に広がっています。競合が機能しなくなったときに、自分たちの目標達成に必要な購入の実現をサポートしてくれるサプライヤーがいますか?いつまでも交渉一辺倒では、調達・購買部門の存在意義はどんどん薄れてゆくばかりでしょう。

コストテーブルがあれば、少なくとも価格的にミートするサプライヤーはどこか?といった判断はできます。コストテーブルを整備したら、どうやって安く買うかに衆目が集まります。コストテーブル上に示された相対的に金額の高いサプライヤーへの発注をはばかるような事態にもなるでしょう。しかし、それではコストテーブルを活用しきったとは言えません。価格には必ずそうなる理由があるためです。

もし、相対的に金額の高いサプライヤーが確認できたら、Q:品質とD:納期との関連性を確認しましょう。納期順守率や受入検査合格率、クレーム発生率といった数値ですぐに判断できるはずです。もし、購入価格の高めなサプライヤーのQとDの実績が他のサプライヤーよりも良い数値であれば、それが「高め」の理由です。その上で、マーケットのニーズは、高めのサプライヤーと最安値のサプライヤーのいずれを求めているでしょうか。

私の知る企業では、顧客からのクレーム対応を大きく2つに分類しています。1つは、クレームが絶対に発生しない管理を要求するマーケット。もう一つは、発生後の対応に注力するマーケットです。前者の場合は、品質や納期の要求内容も非常に高度になります。一方後者は「壊れたら速やかに交換」する体制を整えています。顧客の近くに交換用の安全在庫を準備して対応しています。この企業では、構成部品のサプライヤーをマーケットニーズに合わせて決定しています。前者のマーケットでは、高い管理基準によって、原因追及も厳格に実施されます。後者のマーケットは代品を素早く供給して対応が終わります。高めのサプライヤーは、その特性を生かしたサプライヤーを選定しているのです。こういった管理は、購入価格のみを複数のサプライヤーで比較しても、実現しません。他の購入に必要な要素と合わせ考えて初めて実現します。

安さを見るだけではなく、高いときに「なぜ?」と疑問を持たなければ、コストテーブルの本来の活用はできないのです。

(了)

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