緊急講義!サプライヤーの能力不足対策 3(牧野直哉)
●自社の人員リソース充足度判断
人手不足はサプライヤーにのみ発生するのではありません。皆さんの御勤務先でも、さまざまな部門で人手不足に直面しているのではないでしょうか。前回お知らせした「有効求人倍率」では、職種によって労働力の充足率が異なっていました。当然、社内でも人手不足の影響が薄い部門と、濃い部門に分けられるはずです。
一般的なメーカーでは、調達・購買部門や、総務、人事、財務経理、営業といった部門は、比較的人手不足感は薄いはずです。しかし、設計・技術部門や製造部門では人手不足にさいなまれていませんか。企業によって、業種や業界によっても異なるはずです。サプライヤーに具体的な対応を行う前に、自社内の人員リソース充足状況を確認しましょう。ただ不足しているかどうかでなく、人手不足によって生じる具体的な影響を想定します。例えば設計・技術部門で人員が不足していれば、サプライヤーに提示する仕様書や図面の作成が遅れがちになるはずです。現場で人員が不足していれば、生産作業の納期管理が難しくなるはずです。社内的にはどんな部門が人手不足で、自社の事業運営に具体的にどのような影響を及ぼすのかについて掌握も非常に重要です。
調達・購買部門は、自社内に不足しているリソースを社外から調達する機能があります。もし事業運営に大きなマイナス影響を及ぼすリソース不足がある場合は、社外からの確保にトライします。
●サプライヤーに確認する準備
これまでマーケットの状況や、自社の人員充足状況から、どこにどんな問題があるのかについて見当をつけました。加えて、今のタイミングであれば次の3点を理解した上で、サプライヤーの能力確認を行いましょう。やみくもにサプライヤーの能力を確保するのではなく、社内のリソースとのバランスをとりながら適切な必要量について確認します。
・2018年度発注見通し
すでに2018年度の売上計画が確定しているはずです。確定された売上計画に基づいて、各サプライヤーに必要な購入量を算出し、いつ(when)、なにを(What)、どのくらい(How Much)必要なのかをまとめます。
・2018年度発注数量変動の可能性
計画がどの程度変動する可能性があるのかについて、 生産管理部門や営業部門に問い合わせます。問い合わせたところで「分からない」と回答されるのがオチだ、とは考えないようにします。この確認作業には二つの目的があります。
一つ目は、調達・購買部門の上流部門に対して、前広な情報提供の意識付けです。すでに前広な情報提供については意識づけが行われており、実行も伴っているのであれば良いのです。しかし、サプライヤー能力不足の問題は、今そこにある危機です。そういった通常とは異なるリスクに直面している事実を社内に広く周知させる意味でも、前広な情報提供の意識付けを調達・購買部門が積極的に行います。サプライヤーの能力不足が、巡り巡って最終的に顧客に迷惑をかけないためにも必要な取り組みです。
二つ目は、極めてサラリーマン的であり後ろ向きな対応かもしれません。しかし、サプライヤーの能力不足は、供給そのものが行われない リスクと、希望するスケジュール通りに供給できないリスクに分類されます。調達・購買部門やサプライヤーは納期的に万能ではありません。 給料が大きく変動した時、サプライヤーの能力不足は、変動に対処できない事態を招くのです。事前に発注変動を確認するのは、大きな変動に対処できない場合のエクスキューズにもなるのです。
こういった考え方は、想定される事態の回避や、抜本的な改善とは異なる考え方です。しかし、調達・購買部門が、社内に対する発言力を確保するためにも、もし受注に対応できなかった場合、その責任の所在を調達・購買部門が一身に受ける必要はないのです。
・2017年度発注実績の変動幅
2018年度発注数量変動の可能性を見極めるために、2017年度に設定した発注見通しに対して、発注実績はどの程度変動したのか、見通しをどの程度外したのかについて確認をしておきます。 次のグラフをご覧ください。
上のグラフは、青の線が事前にサプライヤーに提示した発注見通しの数量変動を表しています。それに対して、オレンジの線は実際の発注数量を示しています。昨年度の企業業績から判断して、サプライヤーの能力不足が顕在化する可能性が高い場合、昨年度はこのようなトレンドを示している場合が多いはずです。
まず、発注見通しの最大量よりも多い場合です。発注量が多いのだから、サプライヤーにとってもメリットがある話だしOK だろう、といった考え方は、来年は通用しないかもしれません。来年度の発注見通しが競合他社も同じようなトレンドを示している場合、実際の発注に近い見通しを事前に連絡していた方が、サプライヤーの準備ができるし、結果的にリスクが少なくなります。
続いて、発注見通しの最小量よりも少ない場合です。こういった事象は、他の企業に生産枠を奪われてしまう可能性があります。月次で翌月に少なかった量を増やしてもらおうと思っても、生産枠が他社に奪われてしまえば、新たな調整や交渉が必要になります。
サプライヤーにとって発注見通しに対する変動は、生産に必要なリソースを余分に割く結果となり、負担が増します。サプライヤーの能力不足が懸念される今、できる限りサプライヤーの負担を少なくするような情報提供のあり方が求められるのです。企業によっては、サプライヤーのあり方として「言う通りにせよ」といった考え方を持ち、実践している場合があるでしょう。発注企業としての魅力、購買力が高ければそういったごり押しも通用するかもしれません。しかし、サプライヤーの能力不足は、まずサプライヤーの対応の幅を狭めるといった点が顕在化すると理解しておきましょう。
(つづく)