連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)
*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。
<2030年①>
「2030年 女性が指導的立場の半分に」
女性の働き比率が高まり、子育てサービスが充実する
P・Politics(政治):国連などでの宣言をうけ女性活用推進法をさらに強力に推進する。
E・Economy(経済):女性管理職の比率が高まり、ウーマノミクスといわれる女性活用の経済活性化策が採られる。
S・Society(社会):いわゆる女性が結婚を期に仕事をやめ、子育て後に職に就くM字カーブが緩やかになり、子育てしながらの就業がさらに拡大する。
T・Technology(技術):クラウドソーシングなどによる在宅ワークの拡充や、マッチングサービスなどによる育児のシェアリングが行われる。
世界的規模で男女の立場が同列化しているなか、まだ日本は管理職比率で差がある。しかし、改善の途上であり、さらに保育施設の充実などが望まれる。次には、単なる保育施設に子どもを預けられるだけではなく、より親御の負担を軽減するサービスが求められる。さらに、女性は会社員としての生き方だけではなく、男性と同じく、起業する生き方もある。ワンストップで女性の起業を支援する動きが加速する。
・働き方と女性社会進出
職業柄、コンサルティングでさまざまな会社に出向く。すると、このところ、働き方改革についてどう思うか、と訊かれる機会が多くなった。日本企業の長時間勤務をすこしでも減らし効率化を図るためだ。
このとき、いつも決まっていうのは、二つだ。「信じられない成果をあげるのは、一部のひとたちが異常な情熱にほだされて働くからだ。しかし、がむしゃらに働いても成果があがらない場合もある。自ら進んでその愚挙に挑もうとするのは、もうベンチャー企業でしかありえない。だから、徹底的に働きたいひとは、大企業を辞めるしかない時代だ」と「それよりも、大企業のみなさんは、働き方改革の会議とか、ワーキンググループとか止めたほうがいい。それらのせいで、もっと忙しそうになっている」という。
皮肉のつもりはない。これまでも働き方改革を喧伝する企業から、何度も会議に呼ばれて、結論の出ない議論を延々と聞かされたことがあった。さらに、平日は忙しいからと、土曜日に研修をお願いされた。
おなじく不思議な感覚をいだいたものに、女性の起業セミナーのたぐいに呼ばれたときのことだ。私は講演をしたのだが、他のセミナーでは、インスタグラム映えのする写真の撮り方とか、仕事を引き寄せる名刺の作成法などをやっていた。あれはいったいなんだろうか。効果がないとはいわない。しかし、ただただ弛緩する内容が、来るべき女性時代にふさわしいだろうか。
うらはらに、受講していた女性たちのキラキラした目だけが印象に残っている。
消費の中心はいつでも女性だった。そして、消費がバブルを迎えていた80年代、女性政治家であるマドンナブームが起きた。その後も、1986年に男女雇用均等法ができ、女性たちの社会進出が本格的にはじまった。
企業の商品企画には男性しかいないが、消費は女性が中心になる。そうすれば、女性の発想が重要になるのはいうまでもない。同時に、政策などの意思決定にも、これまで以上に女性の視点は重要になってくるだろう。
・国連が目指す2030年女性が指導的立場で半数に
国連は、過去も現在も、男女の雇用格差解消に努めている。もともと国際人権条約として女性差別撤廃条約がある。2015年には、2030年までに男女の差をなくすよう各国政府合意のもとで政治宣言を行った(http://www.unwomen.org/-/media/headquarters/attachments/sections/csw/59/declaration-en.pdf?la=en&vs=4833)。そして、2030年までには、指導的立場に女性が半分を占めるように推進していく。実際にフランスは閣僚の男女比率を1:1とするほど徹底した平等化を進めている。
ウーマノミクスと呼ばれる、女性活用を積極的にする動きは、国連での宣言を受けるかたちでこれまでも発展してきた。1985年の国連で女性の政策決定への参加率をあげる、とした宣言から、1986年の男女雇用均等法が成立した。今回も、2015年の政治宣言を受け、日本でも2016年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」が10年間の時限立法で成立した。いわゆる、この女性活用推進法は、女性の採用比率などを中堅以上の企業に情報公開を義務付けたものだ。管理職の比率や、そして、改善計画を練らねばならない。
同時に、この法律において、女性採用に積極的な企業は、「えるぼし」認定を厚生労働省から受けられる。基準を満たしている企業を3段階で認定するものだ。これは丸いマークに「女性が活躍しています!」と書かれたマークで、名刺や求人ポスターに活用できる。
かつてアラン・グリーンスパンは、女性労働者が低く評価されているとし、女性を自社コンサルティング会社で積極的に活用した。なぜならば、それが正しければ、男性を雇うよりもはるかにコストパフォーマンスが高いからだ。そして事業を軌道に乗せた。
古い資料で恐縮ではあるものの、OECDのレポートでは女性雇用平等化は、雇用不足を解消するものだとし、かつGDPを高くするためにも必要だと結論づけている(http://www.oecd.org/gender/Closing%20the%20Gender%20Gap%20-%20Japan%20FINAL.pdf)。
ただ、残念ながら日本での女性社会進出の試みは、まだ道半ばといわざるをえない。
・難儀な日本社会
米国では、管理職の約4割は女性がしめる。製造業が多いドイツであっても、3割ていどだが、日本と韓国は1割にすぎない。
日本の女性は学力などのデータから見ても、世界でトップクラスの実力をもつ。しかし、同時に管理職になりたいと考えている比率は低い。いや、これは、管理職になりたいと「考えないように」なったのが正しいのかもしれない。
実際に、内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」によっても、女性が職業を続ける方がいいと8割は賛成している。ただ、それでも、女性が実際に働きはじめてから昇進を望まなくなるのは、意外なほど「仕事と家庭の両立が困難になる」「周りにより上位の同性の管理職がいない」が占めている。
(http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13/dl/1-02-4.pdf)
キャリアとして年数が短いと、能力は男性と同等であっても、どうしても経験値が負けてしまう。教育の年数も差が開いてくる。
それにしても2030年までに男女差をなくすといっているのに、企業では女性管理職0も少なくない。その理由1位が「現時点では、必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいない」となっている。これを答えたのは、きっと女性社員ではないだろうから、男性社員がそう判断している。
優秀であれば経験年数は不問で問題がないと私は思うものの、「管理職に就くための在籍年数等を満たしている者はいない」が続く。
<つづく>