短期連載・坂口孝則の情報収集講座(坂口孝則)

この大学からかぞえて20年ほど、ずっと「調べて書いて、発表する」行為を続けてきました。社会人になると、「この資料作っておいて」といきなり言われるケースは多いはずです。むしろ、会社員の仕事の大半は、資料作成といっても良いかもしれません。そこで自分なりに総括したい気持ちもあり、『情報収集講座』と題し、短期連載としてメルマガに掲載することにしました。

【第24回】応用編 さらに誰かの情報を調べよう!

ここからは探偵のようになってしまいますが、どうしても特定の人物にアクセスしたいときの情報源を、個人的な経験則から記します。

□SNS(Facebookやtwitter)に開設している個人アカウントに連絡
□『役員四季報』(東洋経済新報社)
□『日本紳士録』(交詢社)
□『全国高額納税者名簿』(東京商工リサーチ)

これらを複合的に活用し、かつ人脈をたどっていきます。会社の代表電話やアドレスから正面突破する方法もあるでしょう。会社の経営陣であれば、いくつかの情報が公開されている場合もあります。

なお、個人情報保護の観点から、『日本紳士録』や『全国高額納税者名簿』も10年以上にわたって更新されていません。これからも個人が特定できるような情報の公開は厳しくなると予想できます。

ただ、『全国高額納税者名簿』はなんらかの手段で探して一読することを私は勧めます。なんと、当時、1000万円以上の納税者情報を集め、管轄税務署、名前と住所、そして職業を公開したものです。いまではありえない資料でしょうが、有名人がどこに住んで、どれくらいの所得かを想像できます。もちろん持ち家で引っ越ししていないケースは、住所情報はそのまま”使える”ことになります。またかなりの大企業であっても、役員はそれほど多額の役員報酬を得ていないのだな、という学び(?)にもなるでしょう

話を戻しましょう。取引先の情報であれば、その他、口コミサイト等でも検索できますし、信用調査もあります。情報調査の肝要は、一つに偏らず、総合的に対象を調べることです。

ところで、、『全国高額納税者名簿』を手に入れて調べたときの興奮は忘れられません。「うぉおお!! あの有名人は、ここに住んでいるのか!」といった発見が相次いだからです。

なお、10年前以上の情報ですから、もちろん、現在も正しいかはわかりません。ただ、少なくとも当時の様子はわかります。プライバシーの問題でしょうが、意外にみんな節税対策していなかったのか?(あるいは、節税しても、これだけの税金を支払っているのか?)と思います。

それと、これまた話がそれますが、子育てに有益です。というのも、高額所得者ならびに、高額納税者になりたければ、どんな職業がふさわしいかわかります。有名人に驚いたエピソードをお話しましたが、そんなに多くないんですよ。作家なんてほとんどいません……。日本の縮図を楽しめます。

【第25回】この連載の最後に

私はこれまでに27冊の書籍を出版しました。私は社会人になりたてのころから、「何かを調べて、表現する」ことをずっとやってきました。現在では、コンサルティング資料作成にくわえて、定期的にビジネス誌への寄稿、テレビやラジオでニュース解説などをおこなっています。

どんなひとでもビジネス領域で一冊だけは書けます。自分の業務経験を書けばいいからです。ただ、経験や思考だけを書き続けることはできません。しかし、調査する力があれば、ほぼ無限にネタが転がっています。これからもビジネスパーソンにとって、「何かを調べて、表現する」ことが無縁になるはずはありません。情報の海から価値あるものを吸い上げまとめあげる作業は、価値が下がらないはずです。最後に重要なことを四つ申し上げます。

<①収集情報の使用許諾>
これまでさまざまな情報収集の手法をお伝えしてきました。これらの情報をもとに資料を作成することになります。ただ、問題は、収集した情報の取り扱い方です。多くの情報所有者は、非営利目的かつ私的に利用する場合にかぎって、複製使用を認めています。ですので、会社という営利組織にいる以上は、集めた情報をそのまま使うことはできません。

しかし、同時に、社外向けのプレゼンテーション資料に使うならともかく、社内利用では、外部から確認しようがないのが実情です。それに、複数人のメディア関係者に訊いてみたところ、「そういうのは黙ってやってくれ」というのが正直な感想のようです。ただ、教科書的には、情報の使用には許可を得てください、と申し上げておきます。

<②引用・出典の明示>
さらに情報を使った場合は、どこから引用したのかを記載する必要があります。書籍の場合は、<坂口孝則『会社のお金を学べ!』ディスカヴァー・トゥエンティワン,pp.10>などと記載します。インタビューであれば<株式会社○○○経営企画部長○○○○様インタビュー(2015年12月5日)より>などと書いておきます。また、インターネットの情報であれば<坂口孝則「食品の不正流通が一向になくならない理由」http://toyokeizai.net/articles/-/102409>といった感じです。

ただ、まっしろな状態から資料を収集したとすれば、極論ではすべての情報ソースを表示せねばならなくなります。たとえ話で、喫煙コーナーでたまたま先輩から聞いた情報源があったとして、そんなことまで書く必要があるのでしょうか。

絶対的な答えはありません。そうではなく、自分が集めてきた情報はちゃんとしたものなんだ、根拠があるんだ、複数のソースにあたっているんだ、と信頼感を示す補助役として記載すべきと考えてください。したがって書籍などはできる限り記載したほうがよいですし、資料の価値向上につながるのであればヒアリング者もできるかぎり記載しておきましょう。

<③収集資料のPDF化>
資料を作成するにあたり、情報の取捨選択を行います。そのとき、捨てられた情報であっても、その後、再利用することがありえます。そこで、できるだけ紙資料であればスキャニングしてPDFにしておくことをお勧めします。タイトルはできるだけ、その資料を想起できるものにしましょう。

ただ現実的には、スキャニングする時間がないこともあるでしょう。ただ、「あれ昔に調べた資料なんだったっけ」という自らの疑問に応えられねばなりません。そこで私がやっているのは、とにかくスマートフォンで写真を撮影することです。全ページがむりであれば最初のページだけでもかまいません。すぐに資料にあたれるようにするのです。そしてスケジュールアプリに写真をアップロードしておきます。そうすれば、おおよその調査時期さえわかれば、遡ることが可能です。

<④仮説にとらわれすぎない>
私が書いたことと矛盾しています。ずっと仮説を立てて調査せよと書きました。しかし、それでもなお、情報を収集すると事前のストーリーにあてはまらない内容ばかりになってしまうことがあります。じゅうぶんに吟味したあとに、それでもやはり仮説の整合性がないのだとしたら、やはり仮説を修正すべきときです。

自らの仮説にとらわれ、全体をねじまげることがあってはなりません。私が思うに、論理的思考術が流行したせいか、「根拠は三つ」とか「主な変化は三つ」とか、なんでも三つにまとめるひとがいます。私も、かつては病気のようにやっていました。

しかし考えるに、すべての事象の根拠や変化が三つに集約されるはずはありません。たまには二つのこともあるし、たまには20個なのかもしれません。その想いをこめて、私もこの節で重要なことを四つにまとめてみました。あ、いや、違いました。ほんとうは、重要なことが五つあります。最後に申し上げたいのは、調査がうまくなるコツです。

<⑤調査は面白がってやる>
これまで知らなかったことを学び、そして世界を広げることが仕事の愉悦だとしたら、調査はまさにそれにあてはまります。調査が好きになり、そしてさまざまな情報源を知ることはビジネスのスキルアップに直結します。そして、この面白がってやることこそが、みなさんの調査力を深化させます。

 <おしまい>

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