バイヤー現場論(牧野直哉)
7.一人になりたいとき
調達・購買部門のオフィスは、決して静かで落ち着ける環境ではありません。電話の会話や、サプライヤとの打ち合わせのやり取りによる喧噪のなかで仕事をしなければなりません。調達・購買部門の仕事を、大きく2つに分けると、注文書発行や、見積書入手関連、さまざまな情報入手といった「処理系」と、戦略や方針を立案する「思考系」の2つになります。「思考系」の業務をおこなう場合は、テーマに集中し、かつ集中を一定時間継続しなければなりません。しかし、一定時間の確保は、調達・購買部門に限らずなかなか難しいのが実情です。どのように自分一人で集中できる時間を確保するかを考えます。
①「切り替え」のタイミングを作る
「思考系」の仕事をしているとき、進行を妨げられた場合は、
(1)どこまでやっていたのかを確認して書き出す
(2)これからなにをするのかを確認して書き出す
この2つの内容のメモを作成して、いったん中断します。メモによって、中断から復帰するときの速やかな戻り方を、あらかじめ設定しておく方法です。慣れてくれば、(2)だけを意識して、次に何する。次のアクションが分からない場合に、今こうしていたとメモするだけでも大丈夫です。
こういった少しの工夫で、自分の取り組みに継続性が確保できます。付せんにメモし、モニターに貼り付けておけば、席に戻ったときに、別の仕事に取り組まない歯止めになります。もし、そのときにやっていた仕事よりも優先度や緊急度が高い仕事に取り組まなければならない場合でも、次にやる仕事としてメモを残しておきます。
オフィスにいれば、上司や同僚から声をかけられたり、電話がかかってきたりする状況は、容易に想像できます。そういった状況は、日常的な環境なので、改善するのは困難です。したがって、そういった状況には、じょうずに対応するしかないのです。
③時間帯による環境を理解する
企業ごとに勤務時間が設定され、時間帯によって、落ち着いた時間、あるいはざわついた時間、どんな企業でも一定の傾向があるはずです。始業から一時間は落ち着いているとか、午後よりも午前中が落ち着いている。あるいは、午後一番は、会議やサプライヤの来訪によって、オフィスがざわついているといった事象が傾向として表れます。こういった傾向を踏まえ「思考系」の仕事をおこなう時間を設定します。午前中の早い時間が適している場合は、その時間を意識的に思考系の仕事に使います。
③物理的に一人になる
どうしても、思考を妨げる要因から離れたい場合は、社内の会議室を活用する手段もあります。しかし、電話や問い掛けにも対応できないデメリットがあるので、簡単に採用するのは控えます。思考系かつ、その仕事の納期が迫っている場合や、緊急度が高い場合に絞って採る手段です。
この場合は、周囲に使用する会議室と、戻ってくる時間を伝えてから、会議室へと向かいます。戻る時間が明確なら待ってもらえるかもしれないし、緊急度が高い用件であれば、内線電話で呼び出すのも可能だからです。会社で働くとは、組織的に働きます。組織による業務遂行を妨げない配慮は必要です。
物理的に一人になるのは、自分の都合だけなら、最大でも一時間が限度でしょう。人の集中力は一時間以上継続が難しいので、効果も薄れるはずです。会社に出勤するのは、自分の席に居るのが前提です。みずからの都合で長時間席を離れるのは避けます。
<つづく>