今どきのサプライヤー訪問を考える(牧野直哉)
前回に引き続き、サプライヤー訪問時、特に工場訪問時に注意すべき内容についてお伝えします。
⑤5S
既に使い古された感もある「5S」の取り組みです。しかしその効果は、やはり大きいと判断せざるをえません。ここでは自社のオフィスや工場で5Sを実践するのではなく、サプライヤーの5Sの取り組みから、何らかの問題の原因であり、コストダウンの実現可能性を見極める方法論について述べます。特に、他の記事で伝えていますが、景気の先行きに不透明感が増す中、残念ながら不況によって企業業績に大きなマイナス影響が発生する可能性が高くなっています。不況の中でも、勝ち抜いて生き残る企業であるかどうかを判断するためには、5Sが正しく実践されているかどうかが1つの判断基準です。当たり前ではありますが、基本なので着眼点をかり理解しておきましょう。
5Sは「整理、整頓、清掃、清潔、躾」の言葉の頭文字です。この言葉の語彙から、サプライヤーの現場を「きれいかどうか」「整然としているかどうか」に着目してチェックしていませんか。確かに、きれいで整然としていれば、効率的な生産や高い品質が実現されている判断材料です。しかし「きれいさ」や「整然さ」だけでは、バイヤー企業の業績へ貢献しているかどうかはわかりません。
サプライヤーの工場では、きれいさや整然さによって「ムダのなさ」「ミス撲滅」へとつながっているかがポイント。ムダなもの価値のないものを捨て、効率良く仕事ができる環境を作り異常の発見をうながし、利益に結び付けることが最終目的です。また5Sの実践は、社員に自主性の向上による、組織の活性化、モラルの向上といった効果も見逃せません。そして5S実践の結果として、安全の確保や故障の減少、品質の向上や納期の確保、リードタイムの短縮といった具体的な効果が現れます。5Sとは、会社全体として能率の向上が、原価の低減につながり、業績に効果として表れる活動なのです。
これまでに述べた内容をサプライヤーの工場で確認するために、5Sの基本を復習で押さえておきましょう。
1.整理
●価値のないモノは捨てる
●なぜ、価値のないモノが発生したか対策を打つ
ここで、具体的な実践事例は、定期的に現場における不要品の存在を確認しているかどうかです。整理とは、きれいに並べる、置くのではなく、そもそも並べるもの、置くものを最小限必要なものにする意味です。
例えば、必要だけど使用頻度は年一回程度のものであれば、現場に置くのではなく、社内の倉庫や保管スペースに置くといった取組が「整理」になります。定期的に不要品を見つけ、現場から撤去するといった取組が行われているかどうかも、整理が行われているかどうかの判断基準になります。
くわえてなぜ不要品が現場に置かれるに至ったのか?について、原因究明まで行われていればベストです。筆者の経験でも、ここまで突き詰めて整理を行っていたサプライヤーはごく限られます。実践していたサプライヤーは皆同じく優良企業でした。5Sの実践は確実に業績に貢献するのです。
整理状況を確認するには、工場訪問時に5Sの一貫として「整理」をどのように実践しているかを確認しましょう。従業員の自主性に任せるだけではなく、組織的に不要品を見つけ処置しているかどうかを確認します。
2.整頓
●価値のあるモノを、使いたいときに使える状態にしておく
●置き場効率を高める(置き場所の明確化)
●探すムダをなくし、戻しやすくする
現場に置かれるものは、様々な性格があります。生産に必要な設備や道具。原材料や構成部品、作業方法を示す書類や情報機器、この他にも作業員個々の所有物が現場に置かれています。
ここで確認すべきポイントは、置くべき場所が決まっているかどうかです。筆者がサプライヤーの現場で確認していたポイントとしては、置き場所の分類ができているかどうかです。組み立て作業を行う現場では、組み立て前の後で置き場所が明確に区別されているかどうか。加工現場では、加工に失敗したときの置き場は、明確かつ異なる場所になっているかどうかです。このポイントは、生産工程で意図しない混在を防ぐため、不適合の発生を防止するために、単純ですがいわゆるポカミスを防止するためにも重要な視点です。
このポイントに対して「そんなミス起こるはずがない」と高をくくっているか、それとも明確に置き場所を区別して実践しているかどうかで、5Sに対する姿勢が表れます。
3.清掃
●清掃しなくても済む対策を考える
●清掃作業の効率化を考えた基準作り
これは、見た目でわかる部分ですね。「清掃しなくて済む」とは、金属加工の切削作業の現場で「飛散防止」の取組が一般的です。切削くずや切粉を受ける台車によって集め、清掃する場所を少なくするといった取組が実践例です。工場見学のときに歩行する通路部分の清掃がどのように行われているか。作業に清掃が織り込まれて、常に清潔な環境で作業できる状態が理想です。サプライヤー訪問時には、まず清掃頻度(作業都度か、一日一回か)を確認します。バイヤーが見て「汚れているな」と思った場所は、清掃頻度を確認します。
4.清 潔
●異常の発見を早くする
●見える管理で、きれいに保つ
●色彩による管理
清潔とは、5Sが維持管理されていることと考えるべきです。維持管理されているとは、あるルールに従って、約束事が守られている状態です。約束が守られている状態が、目で見て管理できるかどうかがポイントになります。また目で見て管理できるかどうかを維持するために「標準化」といった考え方も必要になります。最後の「色彩」とは、色の持つ感性や色による区別のわかりやすさを活用することです。
もっともわかりやすいのは、ボルトの合いマーク(Iマークと表現する場合もあるようです)です。適切に管理されたトルクで締められたボルトに線を追加することで「緩み」を目視できます。
5.躾
●何を守るかを明確にする
●トップの率先垂範
●習慣化から「くせ」にする
躾は、まず「明確化」から行います。作業場所の名称が明確かどうか。作業者と責任者が明確か。明確さの基準は、表示されているかどうかを判断基準にします。工場を歩いていると、作業工程名や責任者名が掲示されているケースがあります。これは、ただ表示しているのではなく、担当と責任の明確化、管理範囲の特定といった意味があるのです。
実施状況の確認方法としては、掲示された責任者に「5Sで気をつけている点はどこですか?」といった答えやすい質問を投げかけてみましょう。ふだん活動をしていれば、何らかの答えがあるはずです。ない場合は、活動につながっていない可能性が高くなるのです。
5Sとは、どうしても現場の整理整頓といった見てくれの部分で良し悪しを判断しがちです。しかしバイヤーがサプライヤーをチェックする場合には、整理整頓を行っている活動の目的意識が定着しているかどうかを意識的に確認するようにします。整理整頓が行き届いているかどうかは、企業の業績にも確かに貢献します。5S管理が、どのように業績に貢献するのか、その道筋を確認するつもりでチェックしましょう。
(つづく)