【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)
今回の連載は色塗りの箇所です。
<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結
<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり
<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
価格交渉
市中価格比較
VEの進め方
<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定
<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整
*連載はあと数回で終了です!
・代表的な組織分類
代表的な「機能別組織」「事業部制組織」「マトリクス組織」という三つの組織をとりあげます。どの組織がよいかは、もちろん目的によります。その目的を効率的に実現化できる組織がもっとも優れた組織となります。
また、もう一つ指摘しておくと組織に完璧な形はありません。以前、私がある上司に、なぜ組織はコロコロ変わるんでしょうか、と質問したことろ、戻ってきた答えは「環境が変化するから、それに応じて組織が変わるのは当然」というものでした。納得した経験があります。
さて、図で表示した「機能別組織」「事業部制組織」「マトリクス組織」に加え、「調達内タテヨコ組織」を採用した際の、調達・購買部門観点からのメリットとデメリットをまとめておきます。
機能別組織(横断型)
メリット:統一した調達戦略が構築でき、統率もしやすい
デメリット:事業ごとの特徴を出した調達業務遂行が難しくなる
事業部制組織(各拠点型)
メリット:各事業の状況や将来戦略を加味した調達業務遂行が可能
デメリット:おなじ調達部門であっても横の連携が希薄となりがち
マトリクス組織
メリット:横断的に業務遂行ができるためスピードがあがり、自由度が高まる
デメリット:事業、調達双方の承認が必要となり、ときに二者間で矛盾する場合がある。また責任が曖昧になる場合もある
調達内タテヨコ組織
メリット:品種軸と製品軸をみる担当者が存在することで、ミクロ・マクロの両方から調達戦略を構築できる
デメリット:製品軸で構築した戦略といっても、それぞれの品種までブレイクダウンできない場合があり、製品軸を見る担当者の意義がなくなる可能性がある
なお、どの組織をとっても重要なのは、官僚型であることです。官僚とは悪しきイメージがあります。しかし、業務を効率的に進めるにあたって有効な仕組みです。官僚型とは、業務遂行のルールが明確に定められていることと、その例外は基本的に認めない杓子定規な組織です。また、過程をしっかりと記録し、あとから意思決定の検証ができること。
とはいっても、ルールの解釈によっては、どちらでも捉えられる場合があります。そのときに上司の登場です。上司は、それまでの経験やら会社理念から、どうすべきかを判断します。その上司すら判断のつかない内容は、さらに上の上司が判断します。
この機能が重要です。部下は「この判断で迷っています。私としては、こう思います。これで合っているでしょうか」と上司に材料を与える必要はあります。サイコロを降って決めてくれ、と上司に依頼するわけにはいきません。
しかし同時に、上司もあまりに細かい情報をひたすら集めるように部下に再依頼するのも感心しません。というのも、情報をいくら集めても、部下が困っているのは、それを超越したところで自分の知らない判断基準を教えてくださいといっているのですから。
そして決断を下す、ということは責任をもつということです。いや、もっといえば、責任をもつために上司という存在がいるのではないでしょうか。失敗時に、部下に責任を押し付けるだけで、あたかも自分に責任がないかのように語る上司は、死ぬか、せめて現職を辞めたほうがいいと私は思います。
・強い組織の作り方
以前、コンサルティング先の企業では、私自身が勉強になりました。というのも、ここは、ほんとうにお一人お一人が勉強熱心なのです。
コンサルタントの先輩から「クライアントのレベルが高すぎて困ったことは一度もない」と私は聞かされました。たしかに、コンサルタントを始める前に、「私ができるだろうか」と思ったことがあります。ただ、実際に始めてみれば、部長や役員クラスは別にしても、現場担当者からあまりに高度なレベルの質問をもらったことはありません。
でも、某社からはたくさんもらいました。私はほとんど質問をもらって「困る」ことはありませんが、回答に困るほど難しいご質問を何度ももらいました。とはいえ、それは突飛な質問ではありません。決算書の本質的な見方だとか、見積り査定におけるチャージレートの根本的な見方だとか、そういう「地に足の着いた」質問です。
私は、この質問は凄いな、と思いました。というのも、多くの担当者は『見積価格を下げること』しか考えていません。相見積もりとって、はいおしまい。悪くいえば、派遣やパートの女性でも可能な仕事なんですよ。そこから細かく見積り査定をしようと思っていない。
でも、「地に足の着いた調達部門」であれば、もっと深く現場主義な質問をしてくれる。私も真剣に答えましたし、何よりも仕事が楽しかった。素直にそう思いました。
私は、調達・購買施策がカタカナに支配されることを嫌います。「なんたらソーシング」とか、「ITなんたら」とか「なんたらマネジメント」とか、ほんとうにくだらない、と思います。
ITを使った調達・購買なんかより、非効率的だっていい。もっと現場を見て、パフォーマンスを廃し、本質をとらえる調達・購買部門がいい。私は地道な見積り査定や、地道な工場監査ができないくせに、何がITだ、と思ってしまうのであります。おそらく、もう少しすれば、行き過ぎた効率化の反動がくるでしょう。おそらく、それは宿命なのです。
そこで、前述の某社に訊いてみました。どうしたら、現場に根ざした調達・購買部門ができるのか、と。お答えは単純でした。「当然のことをさせたまで」だと。
見積りで疑問があったら、わかるまで調べる。交渉過程でわからないことがあれば、わかるまで質問する。さらにわからないことがあれば、わかるまで勉強する……。調達・購買はABCといいます。アタリマエのことを、バカになって、チャントやる。このABCです。
笑うところではありません。実は、私はこのことをずっと述べてきたのです。つまり、新たなトレンドに流される必要はない。重要なのは、ただただ粛々と、自分たちに必要な施策をやり続けるだけだ、と。
あらためて気づきました。ABCこそが、「地に足の着いた調達・購買部門を作る」ということに。組織の細かな設定とか設計よりも、はるかにそちらを強調しておきたいのです。
(つづく)