今どきのサプライヤー訪問を考える(牧野直哉)
前回に引き続き、サプライヤー訪問時、特に工場訪問時に注意すべき内容についてお伝えします。
●工場見学後の打ち合わせで何かを残す
工場を見学した後、そのままサプライヤーを去るのではなく、大抵の場合は会議室や応接室に戻って、訪問先の皆さんと話をする時間があるはずです。工場見学後の打ち合わせでは、次の目的があります。
・工場で見た内容に関する質問と説明
工場見学で浮かんだ疑問は、その場で質問し、解決するのが最も効果的です。しかし質問内容によっては、サプライヤーが準備している資料を見ながら説明をしてもらった方が分かりやすい場合もあります。そういった内容含めて、工場を理解するために不足している点を最終的に打ち合わせによって補います。
ここでも質問する際の基本方針は、バイヤー企業の依頼がサプライヤー社内の様々な部門を経由し、現場で正しく理解され物作りに反映されているかどうかです。担当する製品によっては、ものづくりや製造の技術的な部分に暗いバイヤーもいるでしょう。大手企業のバイヤーは、いわゆる大学の文系学部出身者が配属されています。技術的な部分の理解に苦しんでいる人も多いのではないでしょうか。
サプライヤーと話をするだけではなく、社内の購入要求部門と話をする際にも、技術的内容の理解度は重要です。悩ましいのは、いったいどこまで理解すればいいのかのレベル感。サプライヤーの現場管理の技術者と同程度に理解をするのは困難です。そもそもバイヤーはその部分の専門性で勝負すべきではありません。しかし何を言っているのかさっぱりわからない、といった状態も問題があります。そんな状態ではサプライヤーと行う打ち合わせの内容の理解が進みません。
私は、バイヤーの技術的な理解度は、購入要求部門やサプライヤーが何について話をしているかが理解できればよいと考えています。それよりもバイヤーが詰めて考えるべきポイントは、自社の要求内容がしっかり現場に伝わっているかどうかの確認です。この観点を持てるのは、バイヤー企業における複数の関連部門の中でも、調達・購買部門しかありません。調達・購買ではサプライヤー社内で行われている次の5点について、正しく理解しなければならないのです。
①バイヤー企業の要求内容ポイント
②バイヤー企業の要求内容を理解しなければならない人(組織)は誰か
③バイヤー企業の要求内容が、誰によってサプライヤー社内での実施内容に変換されるか
④サプライヤー社内での実施内容の妥当性を検証するプロセスはあるか
⑤バイヤー企業の要求内容を、サプライヤー社内での実施内容に変換した後、どのように実行部門に伝達されるか
これは正に、バイヤー企業からサプライヤーへと伸びるサプライチェーンで、情報がどのように変換され必要な担当者に伝達され理解されるのかのプロセスです。少なくとも①の部分は、サプライヤーを訪問する前にバイヤーとして理解する必要があるでしょう。この部分は、サプライヤーを訪問したときに「重要なポイントです」と説明できなければなりません。そしてその重要なポイントがサプライヤー社内に的確に展開され、実現へとつながっているかどうかが重要なのです。
サプライヤーを大きく2つに分けると、情報伝達に対してその方法論や情報伝達手段が経過されているかどうかが、確認すべき1つのポイントです。バイヤー企業がサプライヤーに渡した図面や仕様書といった資料を、そのまま現場に渡しているケースもあるでしょう。その場合は、サプライヤーの現場担当者がその内容を理解できるかどうかを念のために確認しておきます。仕様書や図面の作成者がバイヤー企業である場合、この部分の確認は不可欠です。
この確認1つとっても、サプライヤー社内の各部門に全て行うのは、数時間単位の訪問では難しいでしょう。したがって確認の際には、事前に上記①~⑤の内容をサプライヤーへ伝え、訪問の際に説明が受けられるような事前準備のお願いも必要です。ISO9000シリーズの最新バージョンで認証を受けている場合には、比較的こういった説明は事前準備なくできるでしょう。問題はそういった品質マネジメントシステムを持っていないサプライヤーです。明文化された社内規則をもっていれば説明も受けやすいし、分かりやすいでしょう。明文化されておらず、説明もおぼつかないようであれば、要求内容実現の「継続性」にリスクがあると判断します。これまで長い時間担当してくださっている人が行うのであれば問題ないかもしれません。担当者が、一時的に変更や、退職してしまった場合には、注意が必要です。
・議事録を作成する
正式な議事録でなくても構いませんが、どんな話したのかについては、何らかの記録を残します。何の問題もなくすばらしい工場であった場合でも、次回訪問時に同じような状態が保たれている保証はありません。次の訪問の機会に経年変化の確認や比較を行うためにも、工場を見た印象や、サプライヤー側担当者の発言内容はメモとして残しておきましょう。もしも何らかの確認や、改善内容といった課題が残ってしまった場合、そのメモを根拠に継続的な活動へとつなげます。
サプライヤーとのコミュニケーションの観点だけではなく、バイヤー企業内のサプライヤーに対する理解度促進の観点でも、サプライヤー訪問によって見た・聞いた内容は、なるべく文字化をして多くの社内関係者に配布しておきましょう。例えば、過去に訪問実績があるサプライヤーのリポートは、新たな取り組みを行うサプライヤー候補の選別や、何か問題発生させたサプライヤーを正しく理解するために欠かせない資料になるはずです。組織的に複数部門にわたってサプライに関する討議を行う場合にも、ある程度前提条件について横通しが図れるはずです。
・訪問後にサプライヤーに残す「印象」を決める
これまでに述べたような取り組みは、多くの調達・購買部門で残念ながら当たり前の取り組みにはなっていません。既に当たり前のように行われている場合は、それを他の調達購買業務との関連性を意識して、より意義のある内容にします。もう一つこういった取り組みを行う理由が、サプライヤーに対してバイヤーとして強い印象の植えつけです。重箱の隅をつつくような厄介なバイヤーではなく、原理原則に基づいて、良好な関係の構築を目的とし、理解すべきことを正しく理解するバイヤーであると明確にサプライヤーに印象づけます。難癖をつけるバイヤーも、原理原則に基づくバイヤーもサプライヤーにとっては「めんどくさい」と思わせるはずですね。後者のバイヤーは双方の関係性や、企業としての発展をサポートするはず。そういった観点で「対応は簡単ではないけど優秀なバイヤーだった」といったイメージをサプライヤーに与えるのも、バイヤーの重要な役割です。そういった印象が残れば、将来的にサプライヤーの協力を仰ぐ際にも、必ず好影響が生まれるはずなのです。
(つづく)