ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)
・25のスキルと知識が調達・購買を変える
今回も調達・購買の5×5マトリクスを使い、調達・購買スキルや知識を紹介していく。この連載をお読みの方はおわかりのとおり、私は調達・購買人員に必要なスキルや知識は25に集約されると考えており、その解説を行なっている。
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今回は、「サプライヤマネジメント」のB「サプライヤ集約」だ。ちょっと前になるけれど、この連載で、「サプライヤマネジメント」のA「サプライヤ評価」を説明した(ちなみに64号なので、有料購読者のかたはご覧頂きたい。まだ無料購読期間のみなさまは、しばしお待ちを!)。ただし、今回の内容は、サプライヤ評価を失念したひとでも、ご理解いただけるように書いている。
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さて昨今、サプライヤ集約の取り組みが報道されている。XX社は、サプライヤを集約することで、何億円だかのコスト削減を成し遂げた。あるいは、サプライヤの選択と集中によって、調達構造を見直している、などの報道だ。なるほど、国内の生産が縮小しているなか、このサプライヤ集約の動きはよくわかる。全体の発注量が減ってしまうのだから、限られたサプライヤに発注量を確保し、それにより関係も密接にしたほうが、コストも下がることは容易に想像できる。サプライヤにしても、安定した受注ができるバイヤー企業のほうが、コストも下げやすい。
では、このサプライヤ集約のためにどうすればよいのだろうか。ステップは、こうなる。
1.公平・公正な評価によりサプライヤの実力を正しく把握する
2.その評価結果により、サプライヤを層別する
3.層別結果に応じた対応を実行する
ここで、1.についてはすでに実施している(バックナンバー64号)。あるいはどのような評価でもかまわないので、評価自体を全社一丸となった取り組みとし、かつ継続することが必要だ。その取り組みによって、すぐれたサプライヤと劣ったサプライヤのランク付けを行うのだ。私は前回、このようなサプライヤ層別例を図示しておいた。
評価によって、サプライヤランクのA~Dまでわける。そして、そのA~Dランクに応じ、サプライヤ戦略を考える。
あくまでも一例だが、次のようなサプライヤ戦略が考えられる。何度も言うように、これは調達・購買部門だけの「想い」であってはいけない。あくまで、全社一丸となった取り組みとして、各関係部門と合意しておくべきだ。
・ランクAサプライヤ:自社に重要・必要なサプライヤであり、技術的な提携を含め、今後積極的な発注量の増加をはかる
・ランクBサプライヤ:推奨サプライヤとして、Aに次いで今後継続した取引を行っていく
・ランクCサプライヤ:自社と取引は可能とするが、指導育成を行いながら取引関係を構築していく
・ランクDサプライヤ:新規品採用を停止する、または代替サプライヤを検討する(必要に応じて既存品の取引も停止する)
ここでは、恣意的に4ランクとした。もちろん、5ランクでもいい。肝要は、ランクをわけて扱うことと、それぞれの扱い方を全社合意しておくことだ。
・すぐれたサプライヤとの接し方
では、ランクA・Bのようなすぐれたサプライヤとどう接すればいいか。一言でいえば、「A・Bランクへの接し方『囲い込みによる技術力・人員確保』」となる。施策としては次のとおりだ。
(1)伝達:発注方針説明会、表彰制度等
(2)交流:定例ミーティング
すぐれたサプライヤには、積極的にこちらを向いてもらえるように仕掛けていく。たとえば、(1)伝達であれば、
・発注方針説明会:次年度の発注見込みや発注方針、協力希望事項などを説明
・表彰制度:調達・購買部門から、高評価サプライヤに対し感謝状を贈呈し感謝と敬意を表す
といったことが考えられる。
表彰制度を持っていない企業は少ないかもしれない。ただ、ここで補足しておくと調達・購買部門から、日頃の企業活動ですばらしい成果を上げたサプライヤに対し感謝賞を贈呈し感謝と敬意を表すものだ。賞は、「品質部門賞:納入品質に優れたサプライヤ」「原価部門賞:原価改善活動に優れたサプライヤ」「総合賞:品質、原価の2部門を同時に受賞するサプライヤ」、などとわけておく。バイヤー企業の役員層から直接、サプライヤの役員層に表彰状等を手渡しすることでお礼を伝えるとともに、さらに高いQCD実現をお願いするのだ。
(2)交流であれば、
・年に一度以上、サプライヤのトップと意見交換を行い、意思疎通を図り相互理解を深める
ことが考えられる。面と向かって意見交換することで、両社の企業戦略の共有をはかり、軌を一にする。また、そこで経営上の問題を話し合うことで、両社のビジネス上の齟齬をなくす目的もある。
正直に申し上げれば、私は「対面して打ち合わせをする」といったことに違和感を抱いていた。会って話すことがそんなに重要だろうか。もっと重要なことがあるのではないか、と。しかし、企業実務のうえでは、しかるべき役職者間で、おたがいを知っていることが重要だ。一人の人間として考えてみても、窮状に陥ったA社とB社があるとして、どちらを助けるか迷ったときには、知己を選ぶだろう。
これを「リテンションマネジメント」と呼ぶことがある。リテンションとは、関係継続のことだ。バイヤー企業とサプライヤの関係を良好に継続すること。そのツールとして、「リテンションマトリクス」がある。これは、取引先と継続した関係を構築し、情報交換を活発化するために、しかるべき役職者間での面談実施を管理するためのものだ。
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これを、サプライヤ数ぶん用意する(正確にはランクA・B数ぶん用意する)。そうして、ある一定期間、たとえば1年のあいだに、お互い会ったところにマルをつけるのだ。たとえば、先方(サプライヤ)の担当者と、自社(バイヤー企業)の担当者はいつも会っているからマルがつく。そして、先方の課長とも、自社の担当者が会っていれば同じくマルがつく。そうすると、このような図となる。
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このような場合だと、先方の上役に会えていないことになる。自社の調達・購買本部長は、サプライヤの課長に会ったことはある(表敬訪問か何かだろうか)。しかし、調達・購買本部長と、営業本部長どうしが顔をつきあわせて話していない。
または、このようなこともありうるだろう。
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このような場合だと、逆にこちらのトップの意向を、ランクA・Bサプライヤに伝達できていないことになる。もちろん、すぐさま業務上に支障があるわけではないものの、中長期的な観点からは両社の良好な関係性構築のために、トップ同士が話したほうがよいだろう。
なお、このように見える化の管理をすれば、両社のコミュニケーション状況が明確になる。さきほど、リテンションマネジメントという言葉を使った。この管理下では、調達・購買担当者が、しかるべき役職者間の面談を着実にセッティングすることが求められる。それが、自身の調達活動をスムーズにすることにつながる。重要サプライヤのぶんだけでもいいので、このリテンションマトリクスを印刷し状況を見ておくと面白い。ちなみに、私がかつて働いていた企業(製造業2社・上場)では、同種の調査を行い、最低でも1年間に一度はトップ間の面談をセッティングしていた。
面談をしたところで、どのように調達・購買活動に好影響を及ぼすのか。これは定性的な効果でしか表現できない。ただし、緊急納期対応時や、開発工数を確保せねばならないときなど(要するにサプライヤに開発を協力してもらわねばならないときなど)に、サプライヤトップからの「鶴の一声」が効いたことは一度や二度ではない。
また、この話をするときに、必ず「賀詞交換会など、立ち話もマルになるのか」と質問がある。残念ながら、答えはNOだ。その質問者も、たとえば100人と機械的に名刺交換をしたとして、何人の印象を残しているだろうか。ほとんど印象に残っていないはずだ。やはり、部屋で対面しつつ、打ち合わせをした(あるいは呑んだでも良いが)ことをリテンションマトリクス上のマルとするべきだろう。
ちなみに、ランクA・Bサプライヤには「こちらを向き続けてもらう」ことが必要だった。よってそれを人間関係ではなく、契約で縛ってしまうことも考えられる。
中長期発注計画を提示することができれば、供給にかんする長期契約を締結することができる。ただし、契約で縛るということは、自身に制約を与えることでもある。10年間の供給契約を結ぶことは、10年間サプライヤを変更できないことだ。それに、10年にわたる数量を開示することが難しい場合もあるだろう。
そのような場合、契約という形ではなく、サプライヤへの取引ガイドラインで「長期取引」を謳うことがある。これは、契約ではないため、拘束力をもたない。ただし、特定のサプライヤにたいしては、あくまでガイドライン(=お願い)として、既存業務の安定・継続を依頼するわけだ。
・すぐれていないサプライヤとの接し方
加えて、ランクC・Dサプライヤとの接し方も考えてみよう。ランクCは「自社と取引は可能とするが、指導育成を行いながら取引関係を構築していく」の宣言通り、積極的に採用はしないものの、評価を継続することで、ランクA・Bレベルになるかを定期的にチェックしていく。その際には、サプライヤの弱みと強みを明確にし、弱みを克服してくれるように、サプライヤとの面談やミーティングのとき、具体的に教えてあげる。ただし、これは評点を具体的に教えてあげるという意味ではない。評点を教えると、両社に気持ちの行き違いが生じることがある。具体的にとは、あくまでも「評価が低い項目」についてだ(もちろん、この項目自体は64号をご参照のこと)。
Cランクへの接し方『評価結果に応じた育成指導』
ここで、ランクDについて、考える。一般的には、ランクDは、これも定義通り「新規品採用を停止する、または代替サプライヤを検討する(必要に応じて既存品の取引も停止する)」となるだろう。しかし、ここに桎梏がある。現場の感覚で考えてみるに、「そうはいっても、すぐに外せるサプライヤと、外せないサプライヤがいる」と。そのとおりだ。
Dランクへの接し方『外せない場合は、やむなく育成指導を行う』
Dランクへの接し方『外せる場合は、外す』
つまり、代替候補がいない場合は、なんとか企業としてのレベルをあげてもらうために、協力してもらう。しかし、代替候補がいる場合は、そのサプライヤを切り替えることを考える。
もちろん、前者は育成指導しつつも、同時にマルチソース先(2社購買先)を探しておく。とくに、Dランクになった理由が経営上の問題であれば、倒産してもおかしくない。緊急経営改善指導を行い、低い評点項目を洗い出す。そして、月度ミーティング等で、月度の損益計算書・資金繰り表などを確認し、改善の確認を実施する。と同時に、万が一の際に備えて、マルチソース先(2社購買先)を探すという、高度な二枚舌が必要となる。
それにたいして、後者は切るだけなので容易と思われるだろう。しかし、気にしておくべきは「下請中小企業振興法(振興基準)」だ。ちょっと堅苦しいけれど、ここでは我慢して読んでいただきたい。
まず、この振興基準では下請中小企業が「① 親事業者にとって不可欠の企業となる ② 親事業者を複数化・多角化する ③ 製品、情報成果物及び役務の自社開発により独立化をめざす」ことを前提としたうえで「親企業としても、下請中小企業の存在なくしては、より付加価値の高い製品・サービスを生み出していくことが困難であり、自らの発展もあり得ないという点を十分認識し、親企業としての立場を利用して下請中小企業に不当な取引条件を押し付けることなく、下請中小企業の体質改善、経営基盤の強化に対しその自主性を尊重しつつ積極的な協力を行うとともに、納期、納入頻度等における配慮等下請中小企業の労働時間短縮のための発注方式の改善等の協力を行うことが必要である」としている(さまざまなページで読めるが、たとえばこのURLやこのURLを参照のこと)。
そのなかでも調達・購買担当者が気にしておくべきは、その「第2 親事業者の発注分野の明確化及び発注方法の改善に関する事項」の「7) 取引停止の予告」だ。ここでは、「親事業者は、継続的な取引関係を有する下請事業者との取引を停止し、又は大幅に取引を減少しようとする場合には、下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮し、相当の猶予期間をもって予告するものとする」としている。
この、「経営に著しい影響を与えないよう配慮」というのは意見がわかれる。実際、全国中小企業取引振興協会では「継続的な取引関係を有している下請事業者との取引を停止する場合は、取引停止のどのくらい以前に予告通知をしなければならいか」という質問に、「相当の猶予期間については、下請事業者の親事業者への依存度や製品の他への転用の可否、製品製造のための設備投資の状況など相手方の経営上の問題等を勘定し、ケースバイケースで判断することとなるものであり、下請事業者の経営に著しい影響を与えないように配慮することが必要である。なお、判例では、親事業者の取引停止による損害として6ヵ月間の損害賠償を認めたものもあるが、このことが直ちに一般論として「相当猶予期間」が6ヵ月と即断できるわけではないことに留意が必要である」としている(当URL参照のこと)。
そこで、絶対的な結論や手法ではないものの、Dランクサプライヤを切るときの一つの目安は、このように考えられる。
(1)依存度が大きい(50%程度以上)のサプライヤについては
(2)1年程度(他社からの受注が見込める期間)をおいて
(3)予告した上で取引を停止する
なぜ、(1)依存度が大きいところか、そして(2)1年なのか、について繰り返すと絶対的な根拠はない。ただし、下請中小企業振興法の考えからも、「経営に著しい影響」が想定できるサプライヤは依存度が大きいところであり、かつその意味では新規受注先を探すために1年程度の猶予は必要と考えられる。なお、この(1)(2)については、弁護士に質問し、おなじく「絶対的な答えではないが」と前置きがありつつ訊き出したものだ。とはいえ、一つの基準になるだろう。
そして、この下請中小企業振興法の精神にのっとるのであれば、サプライヤを切るための準備をしっかりするのではなく、あくまでもその下請サプライに改善を促すことも忘れてはいけないだろう。
前述の猶予期間を使って、「評点を開示し、改善期間を提示」してあげること。そして、サプライヤが「評点を改善できたか」確認すること。そして、それでも改善が見られない場合に、削減実行期間として「発注減の宣言」「ゆるやかな発注減」(これも彼らに経営に著しい影響を与えないようにするためだ)「取引の停止」までつなげていく。
・そして、そして、品目への分解
……とこのようにして、ランクA~Dまでのサプライヤの扱い方を見てきた。サプライヤ戦略を練った後は、あとは実行するだけだ。注意すべきは、全体評価のあと、実効性をもつためには、各品目へ分解すること。
品目毎にランクA~Dを明らかにすることによって、その品目で「必要なサプライヤ」「不要なサプライヤ」が明確になるはずだ。はたして、評価通りにランクAサプライヤに集約する勇気はあるだろうか。それとも、なんだかんだと理由をつけて、評点ランクDのサプライヤに無策のまま発注を続けるだろうか。
その選択は、バイヤー企業にかかっている。
<つづく>