「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 13(牧野直哉)

前回は、持続可能な調達を正しく理解するために必要な、従来とは異なる「当事者」について述べました。従来よりも広く認知しなければならない「当事者」で、調達・購買部門が従来よりも広く認知した結果で配慮しなければならない、何か問題があるのであれば影響力を行使しなければならない対象は、サプライヤーの内部に存在します。そして、サプライヤーとバイヤー企業を結ぶロジスティクスにも当然ながら「当事者」は存在します。言うならば上記の中について、調達購買部門では自らの存在を「バイヤー企業」ではなく、「顧客」の部分において、サプライヤーを正しくチェックし評価する必要があるのです。

バイヤー企業から顧客へ軸足を移動させると、直接取引をしている企業だけではなく、その先のサプライヤーまで含めて考えなければならない理由がご理解いただけると思います。 図では、単純化してバイヤー企業の先のサプライヤーを表現しています。しかしながら、実際直接取引をしているサプライヤーの先に存在するサブサプライヤーは、現実的に全世界に展開しています。前号の例で言えばアメリカ国内で販売されているサッカーボールが、遠く海を隔てたパキスタンの子供によって製造されているとは、全く想定されていなかったのです。そういった異なる業界の過去の事例、まして直接管理下には無い工場であったとしても、自社に累が及ぶ可能性があると想定しなければならないのです。

日本国内の製造業では、業界はある程度限定されますが、紛争鉱物に指定された原材料の購入にリスクが存在します。また英国の「現代奴隷法」も同じようなリスクが存在します。日本国内に目を向ければ、外国人技能実習制度を悪用したケースが該当します。それでは、そういったに対して、具体的にどのように対処すれば良いでしょうか。

•自社の考え方の明示

近年ではSDGsの高まりにより、持続可能な開発目標に関連したリポートや宣言、動画を活用した自社の考え方の表明が行われています。「持続可能な調達」とは、持続可能な開発目標(SDGs)を実現するための全社的な活動の一部になります。したがって、まず自社がどのように考え取り組もうとしているのかを、調達購買部門としても理解する必要があります。ここでは、三菱電機の例をご紹介します。

CSRの重要課題とSDGsマネジメント
http://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/csr/management/management/materiality_sdgs/index.html

上記に御紹介のページでは、まず「CSRの重要課題」として、企業理念と行動指針を基本方針とすると記されています。設定された4つの重要課題については「サプライチェーンとともに推進」と書かれています。この文言によって、調達購買部門にサプライヤーに対する管理責任が生まれるのです。

続いて、SDGsとの関連性が明記されています。この流れを見ると、従来から取り組んでいたCSR活動に持続可能な開発目標(SDGs)を付加して取り組んでいる状況が理解できると思います。こういった流れは、多くの企業においても理解しやすいプロセスのはずです。これまでの活動を無駄にせず、新たに掲げられたテーマに対応する。ページを読み進めていくと、前提条件である「4つの重要課題」と、SDGsで設定された17の目標の関連性を整備して、取り組む姿勢を明記しています。

最後に「SDGsへの取り組みの進捗」といった内容で、これまでの取り組みを報告しています。明記されている内容は次の5点です。

・グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン有馬利男氏による役員向講演会(2017年度)
・経営戦略への反映(2017年度、2018年度)
・研究開発部門での講演会の開催(2017年度)
・社内報を通じた理解促進(2017年度、2018年度)
・CSR担当者研修での推進者への教育(2017年度)

こういった内容を見ると、SDGsで設定された17の目標に対する具体的な取り組みは読み取れません。従来のCSR活動の4つの重要課題に対しては活動状況が明記されています。SDGsは、昨年来クローズアップされる度合いが高まりましたので、具体的な活動としてはこれからなのでしょう。しかし、三菱電機の明示している内容は、サプライチェーン全体を対象にしている旨を明確に宣言しています。当然ながら、 三菱電機に限らず、SDGsに今後取り組む場合には、企業や業種に関係なく同じような内容としなければ、そもそも論としてCSRやSDGsの本質を理解していないと判断されてしまいます。

株式を公開している企業であれば、 ESG投資の観点からもSDGsの取り組みは欠かせないでしょう。株式を公開している上場企業を顧客にしている企業であれば、同じような取り組みを自社のみならずサプライヤーにまで広げて行う必要があるのです。

ここで皆さんに確認していただきたいのは、 CSRやSDGsといった言葉に惑わされず
、自社における社会貢献の実情について、まず理解が必要である点です。実情とは、社外に対してどのように宣言しているのか。その宣言内容が、実行されているのかどうか。そういった取り組みが全く行われてない場合は、自社の主だった顧客から、CSR/SDGsに関連した取り組みの様子がないかどうかについて確認を行います。確認をした上で、もう一つ非常に重要な点があります。「持続可能な調達」とは、主に調達購買部門における取り組みですが、CSR/SDGsとは、全社的な取り組みです。仮にCSR/SDGsの担当セクションを設置したとしても、日常業務の中でその考え方をどのように実践するかが重要です。したがって、まず自社の取り組みの軸になる考え方の存在を確認しましょう。その上で、考え方が全社的な課題になっているかどうかがポイントです。もし、全社的な課題になっていない場合は、将来的に海外企業や大手企業の顧客から伸びるサプライチェーンから除外されてしまう可能性があると、心にとどめておきましょう。

※ESG投資
環境や企業統治に対する企業の取組み姿勢を投資判断の材料とする手法。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとってESG投資と称する。財務以外の情報によって企業の持続可能性をみきわめるのが目的で、長期投資に効果があるとされる。近年、日本でも機関投資家がESG投資への注目を高めており、個人投資家にとっても参考になると思われる。

(つづく)

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