【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)

今回の連載は色塗りの箇所です。

<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結

<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり

<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
市中価格比較
価格交渉
VEの進め方

<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定

<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整

・建設業法について

製造業では、下請代金支払遅延等防止法(下請法)を学ぶ必要があります。これは、物品の製造委託等の際、発注者と受注者の資本金規模が大きく違う場合に、発注者側に4つの義務と11の禁止事項を定めたものです。

たいして、インフラ関連に関わる調達・購買担当者は、建設業法を学ばねばなりません。建設業法の概要として「建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに建設業の健全な発展を促進」するものとされています。

まず、何がその建設業法の対象となるかというと、次の通りです。

建設業を営もうと思えば、許可を受けなければなりません。調達・購買担当者は当然ながら、取引先(下請負人)が許可を得た企業であると確認をせねばなりません。ただ、軽微な建設工事のみを請け負う場合は、許可がなくても良いとされています。

建築一式工事:1件の請負金額が 1,500 万円に満たない工事。 または、延べ面積が 150 ㎡に満たない木造住宅工事
上記以外:1件の請負金額が 500 万円に満たない工事

しかしだからといって、わざと契約内容を分割した無許可業者への発注は、当然ながら禁じられています。もし社内から、そのような相談があったとしても断りましょう。

なお、取引先(下請負人)が材料を調達するよりも、みなさんの会社が代わりに調達して支給したほうが安価の場合がありますよね。その場合、ややこしいのは、その材料費と運送賃を加えた金額が、上記の1,500万円、500万円にいたっているかが判断基準となります。さらに、上記の金額基準は、消費税を含むものだと考えてください。

その建設業の許可は、下請契約により「一般建設業」と「特定建設業」に区分されています。やや細かいのですが、調達・購買担当者としては、支払い条件に関わってきますので知っておいてください。この2区分は、発注者から「直接」請け負う工事1件につき、4,000万円(建築工事業の場合は6,000万円)以上かどうかです。

定義はこうなっています。

●発注者から直接請け負った1件の工事代金について、4,000万円(建築工事業の場合は6,000万円)以上となる下請契約を締結する場合→特定建設業の許可が必要です。
●上記以外→一般建設業の許可で差し支えありません。

・契約で知っておくべきこと

なお、これは建設業法だけではなく、下請法も同様のように、取引先には書面の提示が必要です。口頭でトラブルになると、受注側(下請負人)が不利になるはずだからです。条件が不利に変更されないためにも、書面による合意が求められます。

契約書に明記すべき内容は次のとおりです。

① 工事内容
② 請負代金の額
③ 工事着手の時期及び工事完成の時期
④ 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
⑤ 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期・工事の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
⑥ 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
⑦ 価格等の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
⑧ 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
⑨ 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
⑩ 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
⑪ 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
⑫ 工事の目的物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
⑬ 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
⑭ 契約に関する紛争の解決方法

これについては、各社とも雛形があるはずですので、一読してください。なお、現場は生き物ですから、追加の工事が必要になる際もあります。当初の契約がそうであるように、追加工事の着工前に書面を作成し、記名押印のうえで相互に交付しなければなりません。その際に、調達・購買担当者が知らずに、現場では契約締結が後回しにされて追加工事だけが進んでしまうケースがあります。社内へ周知徹底は欠かせません。

また、その際には、次の節で取り扱いますが、費用の増加分も正しく処理せねばなりません。

・見積書依頼にかかわる内容

また多岐にわたる建設業法のうち、調達・購買部員が知っておくべき内容としては、一括下請負の禁止があります。これは、公共工事などをみなさんの会社が受注したとすれば、みなさんの会社に信頼があって注文が決まったわけです。それなのに、それを、そのまま一括して下請けに任せてしまっては、選定の意味がありません。

そのため、一括下請負は法律によって禁止されています。ただし、さきほど「公共工事など」と書いたものの、公共工事および民間工事のうち、共同住宅を新築する工事を除き、発注者が事前に書面による承諾をしている条件で、この規定の適用は除外されます。

そこで、対象となる工事が決まったあとに、調達・購買担当者は取引先から見積書を入手する仕事があります。たとえば製造業では、製品のこまかな原価明細を入手しようとしても難しいのが実情です。自動車関連メーカー、あるいは電機メーカーの一部は、取引先から見積明細書を入手して、価格査定に役立てています。ただし、それは稀です。

いっぽうで、建設業においては、取引先が、非常に低い価格を設定し、なんとか受注してしまうと、中長期的にはその取引先を害することにつながりかねません。そのため、建設工事の請負契約においては、調達・購買担当者が取引先に依頼すれば、その見積書を交付しなければならないとされています。同時に取引先も、経費も含む内訳を明確にして見積書を作成するよう、努めなければならないとされています。また、経費の内訳とは、労務費、材料費、共通仮設費、現場管理費、機械経費等です。

これは、建設業法においてユニークな決まりとして、見積書を作成するに足りる期間を設定する必要があります。

●下請工事の予定価格が500万円未満→中1日以上
●下請工事の予定価格が500万円以上5,000万円未満→中10 日以上
●下請工事の予定価格が5,000万円以上→中15 日以上

表現が「中」となっている点に注意してください。また、予定価格が500万円以上で「やむを得ない場合」は5日以内に限り短縮可能とされています。

・見積書の査定について

もしかすると、予算がきわめて少なく、取引先(下請負人)にきわめて厳しい予算をのんでもらう必要に駆られるかもしれません。しかし、やはり不当に低い請負代金は禁止されています。

調達・購買担当者が取引上の高い地位を利用して、一般的に考えられる原価に満たない請負代金を決定することです。ただ、これが難しい。一般的に、それが安いとか、高いとかをどうやって判断できるのでしょうか。教科書的には「当該工事の施工地域において当該工事を施工するために一般的に必要と認められる価格(直接工事費、共通仮設費及び現場管理費よりなる間接工事費、一般管理費(利潤相当額は含まない。)の合計額)をいい、具体的には、下請負人の実行予算や下請負人による再下請先、資材業者等との取引状況、さらには当該地域の施工区域における同種工事の請負代金額の実例等により判断することとなる」と定められてはいます。

しかしながら、実際には価格決定において、調達・購買担当者と取引先のあいだで、じゅうぶんな協議が行われたか、決定方法等に問題はなかったか、という点で判断されます。したがって、指値発注は建設業法に違反するおそれがあるとされています。

・支払いルールについて

この節では、下のように言葉を定義します。

●みなさんの会社に依頼をする主体:注文者
●みなさんの会社:元請人
●みなさんの会社から仕事を受ける主体:下請負人

定義の理由は、「注文者」が、みなさんのこと(調達・購買担当者)と誤解されないようにするためです。

建設業法では、元請負人が注文者から代金の支払を受けたときは、下請負人に対しても、支払を受けた日から1月以内で、かつ、できる限り短い期間内に、その対価を支払わなければならないと定められています。

また、元請負人が特定建設業者で、かつ下請負人が一般建設業者(資本金額が 4,000 万円以上の法人であるものを除く)である場合は注意が必要です。注文者から、代金の支払があるかないかにかかわらず、下請負人が引渡しを行った日から起算して50日以内で、かつ、できる限り短い期間内において期日を定め下請代金を支払わなければなりません。

そのため、特定建設業者の下請代金の支払期限については、注文者から出来高払い、あるいは竣工払を受けた日からかぞえて、一月を経過する日か、下請負人が引渡しの申出を行った日から起算して50日以内で定めた支払期日のいずれか早い期日となります。

さらに、ちょっとしつこい定義ですが、下請負人の資本金の額にかかわらず、元請負人は下請負人にできるだけ早い時期に支払うほうが望ましいとされています。

これは調達・購買担当者ではなく、経理ルールでしょうが、支払い時の手形についても規定があります。元請負人が手形期間120日を超える長期手形を交付した場合は、「割引を受けることが困難である手形の交付」と認められる場合があり、そうなると、建設業法違反です。できれば60日以内に努めなければいけません。

くわえて、手形等で支払う場合には、その現金化にかかる割引料等のコストについて、下請負人の負担がない下請代金の額に加算する等々、協議せよとしています。

(つづく)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい