「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 14(牧野直哉)

前回は「持続可能な調達」を実践する上で必要な、自社の考え方の設定について述べました。「持続可能な調達」は、事業活動で発生する悪影響を取り除き、自社のみならず社会全体を発展へと導く考え方です。自社の成長の影響で、誰かが不幸になってはならない、その前提条件をまず自社内で理解して実践が必要です。

前回御紹介した三菱電機の例では、社内への教育実施が多く示されていました。これは、まず考え方を従業員へ知らしめるための重要なプロセスであり、持続可能な調達の実現に向けたセオリーです。調達・購買部門でも、まず調達・購買部員が、持続可能な調達の必要性を正しく理解しなければなりません。

質問:「持続可能な調達」を実践するために、どこから手をつければ良いのかわからないのですが・・・

セミナーでもこういった質問を受けます。確かに、持続可能な調達を実現するために欠かせないSDGs(持続可能な開発目標)にしても、17の目標に169のターゲットが存在します。非常に広範囲におよぶために、こういった御質問をいただくのだろうな、と推察します。

SDGsは、企業だけではなく、国家レベル、地方行政レベル、各種団体にも適用するために、非常に広範囲なテーマが網羅されています。したがって、考え方の理解から、持続可能な調達の実践には、自分たちがどんな目標やターゲットにフォーカスするのかを自社の意志として決定しなければなりません。次のURLから、SDGsの169のターゲットで、調達・購買部門に関連の深い内容をピックアップした資料がダウンロード可能です。

https://drive.google.com/file/d/10VkLkmhyogWgo-rfXPx1nIRWV67m4Q_j/view?usp=sharing

169のターゲットを、「広く」59まで絞り込みました。「広く」とは、企業の事業内容によって、取り組みやすい内容が異なるためです。この中から、自社の事業内容と合わせて、取り組みやすい内容を取捨選択すれば良いのです。

取捨選択に際して、調達・購買部門では、自社でおこなう内容と、サプライヤーに実践してもらう内容の2つを意識して選択します。特に、新興国企業から購入したり、生産リソースを海外に有している場合は、現地の経済的発展だけではなく、発展の影で何らかの不利益をおよぼしていないかについて、サプライヤー評価を通じて確認が必要です。この部分では、ユニクロやGUを運営するファーストリテイリングが意欲的な取り組みを発表しています。

世界220工場に通報制度 ユニクロ、労働環境を改善
日本経済新聞 8月15日
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34156030U8A810C1TJC000/

記事のポイントは以下のとおりです。

・製造を委託する世界220カ所の工場に労働環境に関する通報制度を設けた
・通報制度はこのうち主要工場に導入した。従業員が各種のハラスメントや健康、処遇、安全面の問題を感じた場合、地域を統括するファストリの海外拠点にメールを送る仕組み
・柳井正会長兼社長は「(人権に関する)透明性が担保されないと世界で商売は継続できない」と通報制度の重要性を強調
・背景にあるのはESG投資や「エシカル(倫理的)消費」の広がり

この制度は、従来のサプライヤー監査では、サプライヤーの社内で発生している問題は確認できず、問題の放置はブランドの価値に影響すると考えるファーストリテイリングの危機感によって設置されました。

記事では、必ずしもファーストリテイリングが関与すべき問題ではない問題も通報されると報じています。しかし、ここまでしないとブランドが守れないのですね。

こういった問題は、業界や製品によって、危機感、危機への切迫度合いは大きく異なります。私の経験でも、問題意識を抱えたものの、取り組みの切り口がわからず御相談をいただきます。そういったケースでは、ファーストリテイリングのような先進的な事例と、御依頼いただいた企業が属する業界内のポジショニングを分析してお伝えします。業界内で先進的な取り組みをおこなっている企業なのかどうか。別に先進的な取り組みをおこなっている企業があれば、どの程度違うのかといった部分を御報告しています。

そういった取り組みを通じて感じるのは、非常につかみどころのないSDGsや持続可能な調達に、試行錯誤で何らかの取り組みをおこなっている企業と、明確な方向性が示されるまで様子見を決め込む企業の大きく2つに分類される点です。確かに、衣料品や食料品といったサプライチェーン的に消費者に近い業界でなければ、まだ業界内で横にらみでも許されると考えるのも理解できます。しかし、だんだんとそういった姿勢が許されなくなってきていると感じるのも事実です。そこで、次回は具体的にサプライヤーにどんな確認をすべきかについてお伝えします。

(つづく)

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