随意契約擁護論(牧野直哉)

先日、新聞にある記事が掲載されていました。とある地方の発電所の増設案件。既存設備を納めたメーカーでなく、別メーカーが受注。原子力発電所の稼働がままならず、火力発電所への依存が高まる中で、別メーカーの発電効率が0.1ポイント上回っていたこと、そして公共事業でも問題となる「随意契約」を避けたい発注側の意向による結果です。今回受注したメーカーは、既存設備メーカーより大幅に安価であったと、その記事は伝えていました。

「随意契約」なる契約形態。「随意」とは「束縛・制限などがなく、思いのままであること」との意があります。随意契約とは、公共事業において競争入札によらず、任意に発注先を決定することを意味します。今回の発電所設備の例では、従来であれば既存設備のメーカーに発注されていたでしょう。既存設備との取り合いが行ないやすいとの利便性を確保するとの理由です。しかし、別のメーカーに発注されました。「増設」案件ですから、これから稼働へ向けた様々なアクションが必要となってきます。そして、ここで問題視されている随意契約が、なんでもかんでも悪いかといえば、私は違うと考えます。読者の皆さんでも次の様なケースはありませんか。

1. まったく同じ購入実績のあるサプライヤーに実績を根拠にして発注

2. 類似品の購入実績のあるサプライヤーに実績を根拠にして発注

3. 供給できるサプライヤーが唯一無二と判断して発注

4. 量産品に使用される部品を継続的に発注

5. 長期間(複数年)契約に基づく発注

上記はすべて「随意契約」に当たります。調達・購買の実務にたずさわる私も、競争入札によるサプライヤー選定の結果締結した契約よりも、いわゆる随意契約の方が圧倒的に多くなります。

同じ機器メーカーの製品を使い続けるということは、特に設備の場合に過去の機器使用によって使用者の操作習熟度が向上するというメリットが存在します。同じメーカーであれば、過去の製品の延長上に新しい製品が存在するはずですね。私が購入し、使用している耐久消費財でも、前と同じメーカーを選択する事が多いです。販売側も使い続けて貰う、乗り換えさせないために、様々な手立てを講じますよね。

実務で「随意契約」的なものを活用する私は、今回の対応は少し変だと思っています。事実、昨年の大震災の際におこなったバイヤーへのアンケートでは、1つの製品調達に関し、複数サプライヤーよりも、単独サプライヤーの場合の方が、供給再開は早かったとの結果が出ています。また、購入価格を下げる手段として発注を集中して1社購買とすることは、一般的に有効と考えられています。様々な経緯によって、随意契約化している発注など、調達購買の世界には数多存在する契約形態で、かつメリットも存在します。

今回冒頭に提示したケースとは別に、電力会社改革で「調達」が取り上げられています。その肝は、随意契約の比率を下げ、競争入札の割合を全調達額の過半数以上にするというものです。私が見た新聞記事には「60%」という数値目標が掲げられていました。どのような根拠で「60%」という数値が決定されたのでしょう。ともかく「諸悪の根源が随意契約」との様相を呈しているわけです。私はこの点が大きな問題だと考えています。

私は、いわゆる「随意契約」を推進することは止めません。それは、メリットの存在を日々実感し、競争入札と比較してもこれからメリットを出し続けることが可能だとの確信があるためです。一方、今回のケースで学ぶ点もあります。まず、どこの世界でも購入者(バイヤーであり、調達部門)は、やり玉にあがりやすいなとの現実。特に、会社にとって良くない状況になった場合に俄然注目を浴びてしまうこと。これは、普段からいくつかの状況に応じた想定を持ち、かつ具体的な準備をするしかありませんね。もう一つは、継続し結果随意契約となっても、確固たる理由を持ち「実績だから」以外の理由を探し続けること。それには「変化」に取り組む意志を持ち続けることが必要です。いうなれば、結果的に随意契約でなく、信念に基づいた意志によって随意契約を堂々と進めることが必要なのです。今回のケースでは、競争入札をした結果、大きく価格が下がってしまったことも、随意契約を悪玉に仕立てることに一役買っています。これも、受注スキームを見れば、カラクリは一目瞭然なのですけれどね。ライフサイクルコストの観点からの将来的なコストアップのリスクをどのように評価しているのかも、とても興味深いです。

随意契約化を推し進める場合、調達・購買部門以外、特に顧客に確実にメリットが存在することの証明が必要です。私が「ほんとうの調達・購買・資材理論」で、サプライヤーマネジメントとしてお伝えしていることは、サプライヤーとの関係を継続することで生まれるメリットの最大化です。最大化したメリットは、社内業務の効率化に繋がり、ひいては最終的に顧客へのメリットへと結びつけなければなりません。

続いて、上記のメリットの存在を、具体的に説明し、かつ自己満足でないほんとうの理解を第三者から得ることが必要です。今回は顧客である一般消費者から、原子力発電所の停止によって火力発電所の稼働率が上昇し、燃料費がかさんだ結果による電力料金の値上げ対して、大きな非難を浴びています。また今回の電力会社の例では、地域独占で分けられた電力会社毎に、機器供給メーカーも棲み分けが存在します。その「棲み分け」について、過去の実績以外、公明正大に語ることができる理由は存在しません。これまでの慣習を疑うことなく習ってきた結果です。前例踏襲のみをおこなう場合、随意契約とは調達購買部門へのメリットが最大化してしまいます。考えなくて良い、新たな行動を起こさなくて良い、実績と同じものをお願いします、といった具合にです。

そして競争入札にも随意契約と同じようなメリット・デメリットが存在します。様々な場面に応じて、最適な発注先選定方法を選択するのもバイヤーの重要な責務です。そのような意味で、競争入札の件数を割合で数値目標化された電力会社の調達・購買部門は、大きな選択肢を失ったことになります。我々は、こんな事態になる前に何らかを講じることをしなければなりませんね。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい