ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)
・バイヤーのためのサプライヤー工場の「見える化」の話をしよう~ファイナル
これまで4回にわたって工場見学の話をしてきた。バイヤーはサプライヤーの工場に行くことが多いものの、なかなか何を見て良いかがわからない。モノづくりは生産現場に基本がある。だから、生産現場を見ればすべてがわかる……はずなのだが、騅逝かなお。そこで、生産技術や生産管理の知識をまったく使わずに、サプライヤーの工場を見える化することで、改善の原資を見つけていく手法をお伝えした。お忘れの方はバックナンバーで確認してほしい(有料会員ではない方はしばしお待ちを!)。
さて、今回はこの工場見学「論」の最終回である。これまで、どちらかといえば定量的な話をしてきた。ただし、ものごとには定量的な側面だけではなく、定性的な側面もある。しかし、この定性的な側面というのがややこしい。たとえば、生産現場では必ずいわれる「5S」がある。整理・整頓・清掃・清潔・躾。これを徹底することは、たしかに工場の優位性に結びつくに違いない。
だけど、それがどうコスト安価につながるんだ?
サプライヤーの工場に行くときに、5Sを確認せねばならないといわれる。サプライヤーのモノづくりの意識レベルがどの程度のものなのかを、5Sの尺度を使って推し量れというわけだ。先輩バイヤーたちもよくそういう。それは正論とわかりつつ、でも、それでも調達・購買担当者からすると、5Sがなぜ大切で、かつどうやって5Sのレベルを見ればよいのかがわからない。それが本音だろう。
そこで、バイヤーは生産管理・生産技術に属してはいない。彼らであれば、専門的な5Sの知識は必要だろう。ただし、私たちはモノを買う調達・購買担当者なのである。ここでは、5Sを割りきって考えてみよう。
つまり、5Sの目的、改善の目標は
・在庫削減によるコスト低減
・固定費削減(作業者削減によるコストの低減)
にあると割り切る。
5Sがなぜ必要か。それは究極的には、工場にたまる在庫を減らし、また作業効率(作業環境)をあげることで、作業者が減って全体のコストが下がることにこそ意味がある、と考えるのだ。もちろん、5Sの徹底は、それ自体に価値がある、という言い方もできるだろう。しかし、ここでは簡略的に「コスト低減」に目的を置いてみよう。
そこで、具体的にはサプライヤー工場をどうやって、5S観点で眺めればいいのだろうか。ここからの画像は肖像権をクリアしているものではない。なので、このようにみなさんに私信として届けているメールマガジン限定で公開したい(したがってみなさんも転送禁でお願いしたい)。
まずは在庫だった。ムダな在庫が発生していないかを、サプライチェーン上の問題とからめて眺めるのは困難だ。また、ムダなものを生産していないかどうかは、前回までのバリューマップ編でお伝えした。定性的な観点としては、工程では単純に「作ったものをぞんざいに扱っていないか」をチェックする。在庫が傷ついたり劣化したりすると、それはコストとして計上される(=すなわち工場全体のコストがあがっていく)。
たとえば、こんな場合はどうか。
これはご理解いただけるだろう。
そう、まずは製品の地ベタ置きをしていないかをチェックするのだ。このように地ベタ置きしている工場は意外に多い。ちゃんとこの点を指摘する必要がある。
そして、次に作業者の人員減だ。ここでは、作業者を積極的に減らすためにはどうすれば良いかについては説明しない(それは定量的な意味も含めて前回まで説明した)。ここでは、作業者削減の足かせとなるものがないか、定性的に確認していこう。
このような場合は? これはわかるだろうか。
マスク類を装着していない。これでは作業者が減るどころか、万が一の場合は代替作業者が必要になり、工場全体のコストは上がっていく。この意味において作業者の安全衛生が必要なのだ。
このような場合も、わかってもらえるだろう。
同じく安全上のものを装着していない。同じ理由によるので解説は省くけれど、このような状況を指摘しないバイヤーもたくさんいる(問題だとわかっていないことが多い)。
そして、このハンダ付けの女性に対しては何が問題だろうか。
これは吸引器が存在しない。ご存じの方が多いだろうが、ハンダ付けの際にちゃんと吸引器がなければ、女性の場合は不妊症になってしまう可能性が高まるといわれている。これも同じく、万が一の場合は代替作業者が必要になり、工場全体のコストは上がってしまうだろう。
さきほど、5Sの目的、改善の目標をあげた。
・在庫削減によるコスト低減
・固定費削減(作業者削減によるコストの低減)
これは、やや正確にいうのであれば
・生産したものを確実にお金にできているか、仕損はないか
・作業者を健康に有効活用しているか(コストの低減ができる体質か)
という二点を見ることである。
定性的な観点とは、「モノが大切に扱われているか」「作業者は安全に作業を継続できるか」の二点になる。
この定性的な観点については、またおって見ていきたい。
<つづく>