ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●社内関連部門とのコラボレーション力 7~IT部門
調達購買部門の業務は、現時点でも情報処理システムの活用なくしては成り立ちません。したがって、効率的に業務を進めるためには、情報システムをさらなる積極的な活用が必要です。また、近年の調達購買部門では、次の3点の大きな問題に直面しています。
1. サプライチェーンの地域的な広がり
過去の度重なる為替レートの急激な円高への変動は、日本企業に円高メリットを活用した海外サプライヤーから購入を迫りました。しかし、海外サプライヤーから入手した見積を国内サプライヤーとの交渉資料に活用したり、円安傾向に為替相場が振れた瞬間に、海外サプライヤーへの興味が失せてしまったりと、腰を据えた取り組みになっていないケースも多く見られました。また、海外サプライヤーから、QCDを満たした購入が実現しにくかった事実も、腰を据えられない一つの要因となっていました。
しかし、天災リスクへの対応、2011年~2012年半ばまでの円高、新興国の品質向上によって、海外サプライヤーとの取引が従来よりも拡大傾向を見せています。これまでと異なる要因は、新興国サプライヤーのQCDレベルの向上です。2年前の大震災の際にやむなく海外サプライヤーからの供給を受け、想定以上のQCDのレベルに驚き、国内サプライヤーが復旧しても発注を戻さなかった例は、多く見られます。
2. サプライヤーの詳細に渡る管理ニーズ
環境面や、CSR、BCPといった管理部分へのニーズも高まっています。上記1に述べたサプライチェーンの地域的な広がりによって、管理すべき対象のサプライヤーが持つ特徴も、異なる文化的背景も手伝って多岐にわたっています。一つの疑問を確認するだけでも、国内サプライヤーとは異なった対応を強いられるケースが増えています。
3. 日本の高コスト体質
上記のような管理面での作業量の増大を、人員の増強や残業で対応するのでは、グローバル(外貨建て)で高いとされる日本企業の人件費を悪化させます。企業内のニーズとしては、人員も現状維持かもしくは減らす中で、増える作業量をこなさなければならないはずです。
このような問題への対応策は、情報システムのより積極的な活用によって、事務作業量を減らす策がもっとも効果的です。同時に、バイヤー業務の中で、臨機応変な対応と、深い思慮が必要で、かつ重要なアウトプットを求められる内容を抜き出して、後はできるだけ代替できる部分は仕組みや情報システムで対処しなければなりません。戦略構築やサプライヤーとのリレーション強化といった、自社とサプライヤーの意志決定に作用する部分に、バイヤーのリソースを集中するためにも、IT技術を活用し、人による事務処理の徹底的な削減が必要です。
●効率化に大きく関係する情報システム
調達購買業務を進める上で情報システムの活用は、次の3つの観点からおこないます。
(1) 日常の発注業務の効率化
調達購買業務の中で、注文書や発注見通しのサプライヤーへの連絡は、重要な業務です。しかし、注文書の発行そのもの、発注見通しの連絡そのものに時間を費やしてはいけません。そのような業務こそ、情報システムを活用して効率的に時間をかけずにサプライヤーへ提供しなければなりません。近年では、インターネットを活用して、時間とコストをかけない電子商取引(EDI)の仕組みが一般化してきています。バイヤーは効率化を進め、創出した時間を活用し、サプライヤー選定とその関連業務や、サプライヤーとのリレーション構築により多くの時間を費やさなければなりません。
(2) 取引結果の一元管理
サプライヤーとの取引の記録は、価格情報だけでなく、納期対応や品質状況も定期的に確認して、将来的な発注方針決定への基礎資料にしなければなりません。そのようなサプライヤーとの取引に関わるデータが、各担当部門に分散していると、まずデータ収集に時間と手間が必要になります。取引の実績を正しく理解するためには、データを蓄積する仕組みを構築しなければなりません。その上で、データを加工し活用して、効率的な調達購買業務を実現させます。また近年では、取引履歴の保存は、内部統制・監査対応との観点でも不可欠なものとなっており、その重要性は増しています。
(3) 新たな購買手法の活用
サプライヤー選定から注文確定までの調達購買プロセス上での、サプライヤーとの情報の授受を、インターネットを介して行ったり、サプライヤーをリバースオークションによって決定したりできるようになっています。そのような新たな技術は、IT技術を活用しているケースが多くなっています。それぞれの特徴を理解し、見極めて積極的に業務へ活用しましょう。
●ユーザーとしてのフィードバックと、効率向上志向
欧米企業では、サプライチェーンや、それを支える情報システムの重要性を認識して、サプライチェーン部門に独自のIT部門を抱える例が多く見られます。 それほどに調達購買業務と情報システム部門には綿密なやり取りが必要です。そのためには、まず情報システム担当者が調達購買業務を深く理解しなければなりません。サプライチェーンが海外にまで拡大し、サプライヤーからの納入にしても、様々な処理が行われて初めて、円滑な納入が実現されます。したがって、調達購買としてシステムのユーザーとして、システムの使い勝手の改善への協力を惜しまず、加えて調達購買部門のプロセスの意義を情報システム部門へ伝えるのは、より効率的な仕組みをつくるために必要なのです。
<つづく>