消費データと消費行動(坂口孝則)

・あの商品が売れるほんとうの理由

消費データやアンケートはいつも、消費者の意外な側面を照らしてくれる。かつて、ノンアルコールビール購入の理由1位が「飲酒運転を避ける」ではなく「アルコールを飲めない体質のひとが飲み会で場を壊さないため」でもなく、「安いから」だったときには瞠目した。

自動掃除機ルンバが売れている。その理由は、高齢者がコンセントを抜き差しするために何度もしゃがむ必要がないからだという。電子書籍リーダーが売れる理由は、読書中の本を隠したいからだという。これらは購買理由1位ではないものの、ときとしてマーケッターも想像しなかった消費者欲求を明らかにする。

私事で恐縮なものの、私が上梓している小売業・製造業向けのバイヤー向けの本も、その少なからぬ読者が営業職だった。相手の思考法を知って営業活動に活かしたいという。最近では、営業職向けの講演依頼がより増えている。

そして、消費データはもうひとつ興味深い事実を教えてくれる。それは、ミクロな消費レベルではさまざまなトレンドがあり、個別商品の売れ行きはさまざまで栄枯盛衰があるものの、マクロなレベルで消費金額は、ちょっとずつしか変化しない事実だ。

たとえば、マクロミルの「消費インデックス」「今週の消費金額」を見てみよう。

http://www.macromill.com/weeklyindex/index.html

昨年トレンドと、ほぼ同様の動きをしている。たしかに週によっては差があるところもある。ただ、12月は年末商戦とクリスマスで盛り上がり、ゴールデンウィークや夏休みに消費が活性化する傾向はさほど変わらない。このデータのみから、有効な差異を見つけられるひとはいないだろう。

・企業は劇的に、個人はゆっくりとした変化を特徴とする

いや、だからこのデータが役立たないわけではない。これはマクロな消費トレンドがほとんど昨年と差がない事実を教えてくれる。よって、これ以降も昨年同様の動きをすると予知できるだろう。

もちろん、マクロな消費トレンドがまったく変化しないわけではない。それは徐々に、徐々に、移り変わるので、これを10年、20年ほど重ねれば、私たちの消費活動変化も理解できるだろう。上記リンクで経年変化を注視する意味はある。実際、上記リンクによると、消費金額はほぼ同じ動きを見せながら、昨年の同時期と比較すると消費金額がじわじわと下がっている。

ただ、それにしても企業の売上や支出が、劇的に移り変わるなか(たとえば鉄鋼業でいえば、2013年1~3月期の設備投資は前年比19%も減り、電気機械業では31%も減り、物品賃貸業では51%も増えた!)、個人の消費はゆっくりとしか変化しないものだ。

これだけ個性が叫ばれる時代にあっても、上記サイトの「過去1週間のモノやサービスの消費実績」によると、「プレゼント・ギフト」を買い「食事会・飲み会」が増えるのは12月だし、「家族との外食」は予想通り、大型連休・夏休み・年末年始に増える。私たちは、なんだかんだいいながら、いったん決まったライフスタイルを変えられないらしい。ほぼ同じ動きを繰り返している。

・消費データとのつきあいかた

「なんですかい? ということは結局、こんなデータなんて役立たないと?」
「だから言っただろ、そんなことはない。あんまり変わらないって意味で有益だって」
「そりゃ皮肉じゃないの?」
「違うよ。消費行動が短期間で劇的に変わらないのは当然なんだ」
「そうですか。最近はデータ分析が流行っていますよね。上記リンクとは違うけど、ビッグデータさえ分析すればいいっていう潮流が……」
「まあ、ビッグデータはマクロな消費金額を当てるものじゃないし。それに、ビッグデータでも完全に消費行動を予想できるはずがないよ。『予想』を入れ替えたら、『ウソよ』だからね」
「まあ、たしかに大きい家族だからって、そこから家族生活の普遍性なんて導けるはずもない」
「それは、ビッグデータじゃなくて、ビッグダディだよな」
「まあ同じB・Dですからね」
「J・Bみたいだな」
「J・Bって?」
「ジェームス・ブラウンでしょ」
「ああ、日本接骨師協会(J・B)の略かと思った」
「たしかに、ビッグダディは整骨院やっていたからね」
「芸能ネタのオチですか?」
「このコラム自体がB・J(Babyish Joke~子供じみたくだらない冗談)ってことで許してもらえないか」
「消費トレンドを分析して、ビジネスのヒントを伝えろ」
「いや、『消費トレンド』をいじくっても『どーしよう、ヒント0』になるんだ」

まじめな読者に一言申し上げたい。

ごめん。

<了>

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