緊急論考「4月からプレゼン上手に生まれ変わるために!」(坂口孝則)

・プレゼンは与えられた時間プラスマイナス1分以内で終了する

ズバリ調達・購買のテーマではないけれど、プレゼンについて考えてみよう。いまは4月で、新年度の方針やら、新プロジェクトの説明やらで、プレゼンの機会が多い。いまの時代は「説明上手」=「認められる社員」だし、「認められるビジネスマン」だから、このテーマについて考える価値があるはずだ。何より、ぼく自身が、プレゼンについてはずっと考えてきた。ぼくはこのメールマガジンで、よく「話す」スキルについて語っている。今回も、プレゼンをテーマに語ってみたい。

むかしサラリーマン時代のとき、取引先のお偉方を集めた会合でプレゼンテーションをおこなったことがある。当時はまだ大人数の前でプレゼンテーションしたことがなかったので、何度も事前に練習して臨んだ。

その甲斐あってか、与えられた時間60分の3分前、57分で終了した。壇上を降りると、社内の企画者から「バカ野郎。今日お客さんの時間は貴重なのに、3分間もあまらせやがって」と怒られた。それならば、と、違う機会には3分余計に話したら、「バカ野郎。貴重なお客さんの時間を3分も無駄遣いしやがって」と怒られた。

それ以降、ぼくは終了時間のプラスマイナス一分以内で終わるようにしている。「なぜそんなにぴったり終わることができるんですか」と呆れるひとがいるほどだ。ただ、時間厳守はぼくの病気のようなものだ。

5章ではスピーチや講演についての仕事術についてふれる。この章でいうプレゼンテーションとは、企業の業績や戦略等の特定内容を、聴衆に理解してもらうためにやるものだ。スピーチや講演が、不特定多数のひとに感動や発見を与えることを目的としているのにたいして、仕事のプレゼンテーションでは、より具体的な仕事上の内容について把握してもらわねばならない。

そのプレゼンターが時間ぴったりに終わるとわかっていれば、聴衆も聴きやすく内容に没頭できる。しかし、時間配分がめちゃくちゃで、冒頭部分はえらく冗長で丁寧なのに、終わり部分が速いとわけがわからなくなる。このためにはあらかじめちゃんとしたプレゼンテーション時間配分設定が大切だ。

・プレゼンは時間の9割を使い、スライド1枚につき3分で説明する

プレゼンテーションの時間配分は明確に、こうすればいい。

1. 大枠・9割の時間を使って話し終わるように設計する
2. 中枠・プレゼンテーションの内容を三つにわけ、4割+3割+2割で話す(これで1.の9割になる)
3. 小枠・パワーポイント1枚あたりの説明時間は3分とする

まず、1.大枠の設定からだ。9割の時間で終わるように設定するならば、「プラスマイナス一分以内で終わる」ことと矛盾する。そうなのだ。ここではあえてそう設定するのだ。これまで多くのひとのプレゼンを聞いてきたけれど、時間があまって困っている姿をほとんど見たことがない。もちろん見たことはあるけれど、それは単なる内容不足だ(3.で説明する)。多くは時間が足りずにばたばたと終わってしまう。または、「最後の3ページはあとで読んどいてください」とかね。それではあまりにみっともない。

プレゼンテーションの場では予定以上に冗長になってしまう可能性がある。だから9割にしておく。60分の場合は、54分であまり6分だ。その6分がほんとうにあまってしまったら、それまで説明してきた内容のうち重要点を繰り返し説明したうえで「私のお時間がちょうど終了しました」といって終わればいい。さらに「冒頭でポイントは三つあるといいました。最後に繰り返しますと~」と再強調すれば、さも計算されたように聞こえる。

そして、2.だ。プレゼンテーションの内容を三つにわける。これは資料が1部・2部・3部と三つにわかれていなかったとしても関係がない。乱暴にいえば、適当でもいいから冒頭に「この説明は三つにわかれています。まず一つ目は~。二つ目は~。三つ目は~」といってしまう。時間配分は1部を4割、2部を3割、3部を2割で話す。全体が60分であれば、24分、18分、12分だ。聴衆は、ひとかたまり(1部)まではなんとか聞こうとする。その1部が終わったときに、2部と3部がさらに長いとわかるとうんざりする。聴衆は仕事だから聞いているだけで、基本的にあなたのプレゼンテーションを積極的に聞きたいわけではないのだ。

そして重要なことは、聴衆が面白いと思うであろう、さらに自分が説明したい部分を最初に持ってくる。1部で「当プロジェクト開始の経緯」だとか「会社案内」を長々と話し、後半部で徐々に核心に入るプレゼンテーションのやり方はそもそも間違っている。人間は、面白い話→つまらない話、ならばまだ耐えられる。しかし、つまらない話→面白い話、は耐えられずに途中で寝てしまうか、退屈になって集中できないのだ。もっといってしまおう。「会社案内」なんてものは不要だ。それこそ1.で説明したとおり、あまり時間に説明すればいい。プレゼンテーションの内容が面白ければ、むしろ最後の会社案内を聴衆は覚えるだろう。

そしてこれが、大きなかたまり→小さなかたまり、面白い話→つまらない話、で構成する理由となる。そして、60分のプレゼンテーションであれば、1部が終わったときに「これで一つ目の説明が終わりです。あと35分で残りを説明します」というのだ。すると、聴衆にたいする進捗報告にもなるし、なにより自分が話しやすくなる。最適な時間確認方法は、「あと何分だな」と腕時計を見るよりも、聴衆と確認することだ。

・資料に書かれていない内容をかならず1/3盛り込む

次にパワーポイント1枚あたりの説明時間について。これは3分を一つの目安とする。こう考えると、自分が与えられた時間で何枚のスライドを用意すべきかが明確となる。

30分の場合……約10枚(=30÷3)
60分の場合……約20枚(=60÷3)
90分の場合……約30枚(=90÷3)

1枚を1分で説明しようとすると、あまりにも早口になり、かつ省略する箇所が出てくる。プレゼンターとしてみればたくさんの資料を作成することが聴衆にたいするサービスと感じてしまう。しかし、実際には多すぎる資料は、聴衆を卒倒させる。

逆に1枚を5分もかけて説明するのは長い。みなさんも、プレゼンターの説明が長すぎて、聴衆がどんどん紙をめくってしまう場面に遭遇したことがあるだろう。プレゼンターが2枚目を説明しているときに、多くの聴衆は10枚目あたりを見ているのだ。そしてプレゼンターはやっと3枚目の説明に入った……と。聴衆とプレゼンターにギャップがあるとき、それは聴衆が眠りだす。そのスローさに耐えられないのだ。

そして、重要な点は、聴衆に「資料さえ見れば、説明は要らないじゃないか」と思わせないことだ。たしかに、資料をずっと棒読みしているプレゼンターを見かける。コツは、資料に書かれていない1/3の内容を、口頭で盛り込むことだ。そうすれば、注意は聴衆が顔を下に向けなくなる。すなわち、資料を見なくなる。面白いもので、プレゼンターが口頭で1/3の追加情報を話すときであっても、聴衆は下の資料を眺めながら耳で聞くことができるものの、なぜか資料にない情報を聞くときはプレゼンターの顔を見たくなるものなのだ。

プレゼンテーションの練習をするときには、スライド1枚を「結論ふくめ2分で説明」+「追加・補足情報を1分で話す」=3分で話せるようにすればいい。そうすれば自動的に話す速度が決まる。慣れてくれば、プレゼンテーションの残り枚数で、話しながら必要時間を計算することもできるようになるだろう。

・時間があればプレゼンテーションシートの枚数を4の倍数にする

もしプレゼンテーションまでに時間があれば、パワーポイントのページ数を4の倍数にしておこう。とくに、あなたではないひとが、聴取に配る資料を印刷するときに有効だ。そうしておけば資料が美しくなる。

なぜなら、昨今はコピー用紙削減のあおりから、2画面を一枚に印刷することが多い。さらに、両面コピーも当たり前だ。そんなとき、4の倍数で資料を作成しておけば、余白を残すこと無く、ぴったりだ。笑われるかもしれないけれど、そうしておけばプレゼンテーション中の余談にも使えるだろう。

さっき、30分、60分、90分それぞれのスライド枚数の目安を書いた。だから、4の倍数にしようと思えば、こうなる。

30分の場合……12枚(10枚+最後に補足資料、連絡先など)
60分の場合……20枚
90分の場合……32枚(30枚+おなじく最後に補足資料、連絡先など)

ちなみに、ぼくが尊敬する某コンサルタントは、講師としても活躍している。彼が会場に到着し、まっさきに確認するのは聴衆に配布されている資料だという。片側2面印刷の両面コピーの場合は、ぼくが述べたように1枚に4画面が印刷されることになる。彼は講演の冒頭で、資料を掲げて「この1枚を10分で説明します」と宣言する。つまり、1画面を2.5分ていどで説明するわけだ。

そうすることによって、聴衆に時間を守るプレゼンターと印象付けることもできるし、聴衆は残り時間を直感的に理解できる。道筋が明確に示されたプレゼンテーションほど聴きやすいものはない。なによりも、講師自身が経過時間を把握できることがメリットだという。

ただし、せっかく4の倍数で資料を作成していても、表紙だけまるまる1枚で印刷されてしまい台無しになったことがあるらしい(笑) だから、基本的には印刷してくれるひとへ事前に指示しておいたほうが良いだろう。

・午後のプレゼンテーションは照明を明るくして居眠り率を17%減らす

ちなみに、ぼくはさまざまなところで話す機会があり、居眠りしたひとの数をかぞえている。以前とくらべて、ほとんど寝る人はいなくなったものの、午後一番のプレゼンテーションは聞き手もかなり辛い。もちろん、話す内容に変化をつけたり、休憩時間を増やしたりする。しかし、経験では、とくに照明を暗くするとダメだ。ぼくの数字では、17%ほど居眠り率があがってしまう。

照明を暗めにしたときと、明るめにしたときの違いを(ぼくのプレゼンテーションで測定してみた)。

明るめ・総受講者数927人、居眠り数15人(1.62%)
暗め・総受講者数738人、居眠り数14人(1.90%)

と17%ほど暗めが多い(≒1―1.90%÷1.62%)。数が少ないかもしれず、これはひとつのサンプルにすぎない。しかし、多くの人の感覚でも、暗い会場では眠るひとが多いのも事実だろう。

考えてみるに、これほどプロジェクターの性能があがっているのに、照明を暗くするのはどういうことだろう。プレゼンターはほんとうに部屋を暗くする必要があるのか事前に確認すべきだ。ほとんどの場合、小さな部屋でプレゼンテーションを実施することも多いだろうし、照明を暗くする必要はない、とぼくは思う。

・プレゼンテーションは学生には渡さず、社会人には渡す。ただ、手渡し資料量は全体の50%以下とする

最後に、プレゼンテーションの資料を渡すか否かを考えてみよう。結論からいうと、学生、あるいは社会人歴が短いひとたちには、プレゼンテーション資料は印刷して渡さずに、ホワイトボードに書きながら説明するのが良い。もちろん例外もある。決算書資料やデータがふんだんに入った資料などはすべてをホワイトボードに書くことはできない。趣旨として、できる限りホワイトボードにプレゼンターが書くことで、それを聴衆にメモしてもらうのが良いという意味だ。

逆に一般の社会人にはプレゼンテーションの資料をコピーして手渡しするのが良い。これは、一からメモすることが時間のムダだと感じがちだからだ。また、多忙な人たちほど、プレゼンターが述べる内容の横に、自分の気づきのみをメモする。プレゼンテーションの内容自体はコピーして渡してほしいのだ。コピーを渡すことは聴衆にたいするサービスにもなる。

しかし、これも経験では、すべてを渡す必要はない。それこそ、必要箇所は渡しても、手渡しの資料にない内容がある、と適度な緊張感をもってもらうべきなのだ。すべてが手持ち資料にあれば、たとえ前述のとおり1/3は追加情報だったとしても、途中で飽きてしまう。半分、プレゼンテーションの50%程度の資料を渡しておくのがちょうどよい。

ひとを飽きさせないプレゼンには、やはり型がある。ぼくはこの型の収集の虜になっている。それはプレゼンテーションでもおなじことなのだ。

<了>

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