ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・25のスキルと知識が調達・購買を変える

引き続き調達・購買の5×5マトリクスを使い、調達・購買スキルや知識を紹介していきたい。

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この連載も、15回目となった。今回は、「コスト削減・見積り査定」の本丸であるC「見積り査定」だ。

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前回まで、「競合環境整備」を行った。そこでは、サプライヤのコストは、競合によって下げるものとして扱った。しかし、競合環境を整備しても、バイヤーにコストを見る目がなければどうしようもない。単に競わせるだけでは「バイトを雇って、見積りを集めてもらえばいい」(by 某社の購買部長)と正直な意見に対抗することはできない。競わせるだけでは、もちろんそれが一つのスキルであったとしても、バイヤーとしてはダメなのだ。

そこで、ここではコストの査定方法について述べていきたい。まず、みなさんが椅子を調達しているとしよう。これはもちろん一例である。そのときに、もらった見積りが高いかどうかを確認するためには、どのような確認方法があるだろう。記載しておいた。

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1.競合他社比較
2.類似品実績比較
3.前回発注比較
4.製品機能比較
5.市場流通品比較
6.コストテーブル比較

これらのうち、1.は省略するとして、他を補足しておく。

まず、2.と4.の違いだが、これはたとえば、こう考えてほしい。2.類似品実績比較は、プレス部品をかつて調達していたとして、その穴あき品を調達する場合だ。穴あけコストだけがコストとして加算されているかを見る。それ以上の不要なコストが加算されていないかを見るのだ。そして4.製品機能実績は、たとえば14インチのディスプレイを調達したことがあるときに、21インチのディスプレイを調達する場合。この場合は、コアとなる機能はディスプレイの大きさだから、その比例分の価格になっているかを見る。

また、3.前回発注比較だが、笑ってはいけない。少なからぬ企業では、同一品でも価格がばらついている。コスト削減のネタを探すのではなく、まずは価格を平滑化したほうが良い。図面番号が異なるものの、同一品を調達する場合は注意が必要だ。

そして、5.市場流通品比較。これにはさまざまな方法がある。webで調査する場合もあれば、調査会社に委託して市場価格(や競合他社の調達価格まで)を調べる場合がある。また、やや意味が外れるものの、自社の他事業所が購入している価格をしっかりと把握することも有益だ(とくに、海外事業所が何をいくらで購入しているのか知らない調達・購買部門は多い)。

これらの調査・把握を行ったうえで、6.コストテーブルにもつながる、二つの査定方法を説明したい。ここからは、以前の内容を意図的に繰り返すこともあるので、復習も兼ねてお読みいただきたい。

・二つの査定方法

その二つの査定方法とは「コストドライバー分析」と「コスト構造分析」だ。直感的にいうと、前者は価格に決定的な要素(コストドライバー)を見つけて、それと価格との相関から適切な価格を導こうとするものだ。

たとえば、ロープなんてものを買うときはそうかもしれない。1メートルのロープ、2メートルのロープ、3メートルのロープを調達したことがあれば、たとえば、2.5メートルのロープの価格を類推できるだろう。この場合は、「長さ」がコストドライバーになるからだ。あるいは、重さ、面積、体積、時間……など、単一の要素で価格を推し量ることのできる調達品には、このコストドライバー分析が適している。

それにたいして、コスト構造分析では、原価(コスト)要素を一つひとつ積み上げていく。材料費はいくら? 労務コストは? 設備加工費は? 金型費は? 経費・利益は? と計算して、それらを合算することで同じく適切な価格を導く。

・コストドライバー分析

ここでは、まずコストドライバー分析からはじめよう。

コストドライバー分析で必要なデータは、これまでの調達品を調べて、価格とコストドライバーを抽出することだ。コストドライバーは、まずみなさんが「コストドライバーではないか」と思うものでかまわない。あとで、その正否については説明する。

そして、そのデータができたら、エクセル上でプロットしてみよう。下の図はサンプルなので、横軸は「g」と思っていただいても「kg」と思っていただいても構わない。縦軸も「円」でも「千円」でもいい。なんいせよ、それぞれのコストドライバー数値と価格の相関を取るのだ。

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エクセルを使っているのであれば、そのエクセル図の点上から、「近似曲線の追加」→「線形近似」と選択していき、「グラフに数式を表示する」「グラフにR-2乗値を表示する」にチェックしてほしい。

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すると、グラフに数式と、R2と表示された値が登場する。この数式の意味は、y(価格)は、x(コストドライバー)の6倍に22を足したものですよ、ということ。たとえば、コストドライバーの値が10の調達品を買うときには、10×6+22=82円程度が適切だということだ。

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そこで、一つ注意がある。このコストドライバーが間違っていたときはどうしたら良いだろう。というのも、どんなデタラメなコストドライバーを抽出したとしても、エクセルでなんらかの線が引けてしまうからだ。そのときに、さきほどチェックした「グラフにR-2乗値を表示する」が使える。これは、統計的な意味では、決定係数といって、相関を自乗したものだ。厳密な解説ではないものの、相関とはこの二つのデータの親和性・この二つのデータを使うことの正しらしさを示す。そして、相関はマイナス1から、プラス1までの範囲をとる。それを自乗するわけだから、直感的にも、この決定係数が1に近いほど、「使える」コストドライバー分析となる。

そこで、一つの目安は図のとおりだ。

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相関が0.9くらいあれば、その自乗だから決定係数は0.8くらいになる。これくらい値が高ければ、コストドライバーとして使用できる。では、決定係数が高くなかったらどうするかって? そのとき、二つの可能性がある。一つ目、そもそもコストドライバーの設定が間違っていた。ならば、あらたなコストドライバー候補を探してみよう。二つ目、そもそもコストドライバー分析で価格を類推できるほど単純ではなく、コスト構造を行うべき場合。その際は、次に説明するコスト構造分析をやってみよう。

・独学者のために(参考パート)

また、勉強熱心な読者がいれば、コストドライバー分析の結果としてグラフに表示された数式「y=6x+22」について興味があるだろう。この「6」「22」の2数字はどうやって計算すればいいのだろうか。このサンプルでは、「6」「22」とわかりやすい数字だけれど、小数点がある場合、この数字を(表示されるだけではなく)ちゃんと把握したいだろう。また、おなじくグラフ上に記載される「0.9」という決定係数を自分でも計算できるのか。

そこで、有名ではない、エクセルの3関数を紹介する。

1.「slope」関数:傾きを求める
2.「intercept」関数:切片を求める
3.「rsq」関数:決定係数を求める

それぞれ、エクセルでやっていただくと、

「=slope(既知のy,既知のx)」「=intercept(既知のy,既知のx)」「=rsq(既知のy,既知のx)」

と表示される。繰り返すと、y(=縦軸)は価格、x(=横軸)はコストドライバーだったから、それを入力すればいい。これらの関数を使えば、グラフ上ではなく、セルのなかに「傾き」「切片」「決定係数」を計算できる。

これらを計算してしまえば、エクセルを使って、新規調達品の価格を具体的に試算することができるだろう。

・コストドライバー分析の例外処理

ところで、こんな場合のコストドライバー分析を考えてみよう。

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この図をもとにコストドライバー分析をすると、決定係数が高いにもかかわらず、こうなる。

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これは、おかしい。なぜならば、コストドライバー値が低いものを調達しようとすると、価格がマイナス(つまりサプライヤからお金をもらえる!?)になるからだ。データの処理としては正しいかもしれないけれど、これでは気持ち悪い。対処法としては、

対応①:無対処『気持ち悪いけれど、そのまま』

価格がマイナスになるようなコストドライバー値のものを調達しない場合、そのまま放置することもありうる。

対応②:固定費の設定『切片を0に設定』

エクセルのグラフでは、切片=固定費を設定できる。そこに0などを与えることで、マイナス価格を回避できる。

対応③:グラフの指数化『曲線的なコストドライバー線を模索』

作れば作るほど、コストが発生する場合は、指数分析を行う(エクセルで指数近似を選択する)。サプライヤの実際のコスト構造もこれに近い場合は、直線のコストドライバー分析よりも精緻になる。ただし、数式が複雑になりすぎるためレベルは高くなる。

統計的、数学的な正しさよりも、実務的に使えることが優先だ。自社がコスト交渉するのに使える分析結果となるよう、調整してみよう。

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ところで、前述のサンプルもこのサンプルでは10個未満のデータをプロットしている。実際は、可能であれば、20~30個のデータがあったほうがいい。これは絶対的な数字ではなく、一つの目安だ。少ない調達品で分析しようとするよりも、多くの調達品で分析したほうが精度が高くなる。

コストドライバー分析は、文字通りコストドライバーとなる価格要素だけで見ていくからわかりやすい。ただ、わかりやすいのと、ちゃんと分析するのは別の話だ。ぜひ、エクセルでのコストドライバー線作成方法から、決定係数などの考え方を覚えておいてほしい。

そして次号からは、いよいよコスト構造分析に突入する。

<つづく>

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