講演録「これからの未来を創る調達・購買担当者たちへ」(坂口孝則)

さすがに「これからの未来を創る調達・購買担当者たちへ」というタイトルで私が語るのは厚かましいと思うのですが、このところ考えた内容をお話します。

私はいつも多くの人と逆の見方をします。人が誰かの悪口を言っているとき、実際は、その誰かが羨ましくて仕方がない場合が多いように思います。いや、すべては、逆の反応をするのではないでしょうか。

たとえば、ちょっと前には、海外の品質が悪いと騒ぎ立てるケースが多かったように思います。しかし私はそれは日本の製造業の自信がなくなってきた裏返しです。そして、その次に、2017年には日本製造業の品質不具合が相次ぎました。その際に、日本のものづくりは凋落したと大合唱されましたが、それは、単にそれまでの反動として湧き上がったのではないでしょうか。

そもそも日本人は、100年ほど前に山形有朋が教育を施す前までは、右手と右足を同時に動かしていました。いわゆるナンバ歩きです。そして、右手と左足を動かす、近代的な教育は、きたるべき工業化社会において重要な役割を果たしました。日本の国家教育は、工場で働くための規則正しい人間を大量生産してきたのです。

ただ、これは批判的に言ってるわけではありません。日本では資本主義と国家が結びつくことによって、急速な近代化が実現したからです。そして、いま、日本全体が自信を喪失した時代がやってきました。しかし、歴史を見てみると、数々のイノベーションがこういった時期に生まれています。そしてそれまでの常識では信じられないような若い人間が活躍していました。

先ほど日本の教育システムの根源は工場でたくさん働く人を大量生産するためにあると言いました。それは調達だとか購買業務もそれに沿ったものになっていました。例えば、調達・購買のコスト削減は、何よりも大量生産を前提とし、その数量を前提に交渉や共同調達、VA/VEなどを行うことでした。もちろん、いまでは効果がない、とは言いません。自動車製造、大量の電機製品を作るのにはまだ向いているのでしょう。

しかしながら、もう大量生産の時代は終わりつつあります。そして少量生産になった場合どうでしょうか。これまでは段取り替えがネックとなり、少量生産が大量生産よりも高価な原因でした。ただ、いまでは工場が異常な速度でAI化しています。さらに3Dプリンターのような機器も出てきました。消費者の思考がマスからミクロに移るにつれて、大量生産ではなく個別大量生産の時代がやってくるのです。

そうすると、これまでの教育が大量生産を前提としたものである以上、それは役に立たないことになります。機械が勝手に個々のニーズに合わせた製品を作ってくれるからです。

これからは「スペシャリストvsゼネラリスト」といったような対立構造はなくなるでしょう。なぜなら、スペシャリストとして多くの分野を持たなければいけない。それは違う言い方をすれば、「スペシャリスト2.0」、あるは「ゼネラリスト2.0」ということができるかもしれません。

つまりあるときは調達部員で、あるときはテクノロジーを駆使しつつ、あるときはプレゼンテーションを行い外部からの力を集め、自らビジネスを行いながら、情報発信を行っていく。私は、調達コンサルタントをしながら、自分でAIなどのプログラミングを行い、そして定期的に講義やプレゼンテーション、あるいは研修をしています。会社をやりながら、新規事業を立ち上げ、さらには定期的に書籍を上梓したり原稿を書いたりしています。

「いったい何が本業なのですか」と言われます。ただ、すべて本業なのです。私には皆様にお伝えしたい、3つの戦略があります。1つ目は会社外での稼ぐ方法を模索することです。これは、会社が認める認めないの話ではなく、人生100年時代には、同時並列的に多くの経験と、多くのビジネスを遂行する必要があるからです。

かつて人間の寿命の方が、会社の寿命より長くなってしまったのは1つの衝撃でした。しかし現在では、下手すると人生のほうが、10倍以上になりつつあります。だから、軽やかな個人の力を生かして、ビジネスを横断する心構えが必要です。

そして2番目は調達担当者としての活動です。その際には、「β主義」を貫かねばなりません。これは「7割主義」と言っても良いですし、とにかく早くPDCAを回すやり方です。これまでは90点の資料を作成できるか、100点の資料を作成できるかで周囲からの評価が変わる時代でした。ただしそれは、環境が不変な時代の仕事のやり方です。いまは、資料を作り始めたあとに、環境が激変するのは珍しくありません。ということは、出来る限り早めに資料を作ってまわす、あるいは、できるだけ早めに提案書を作って周知徹底させることです。間違ってもいい。誤字脱字なんかは、もはやなんの価値も生み出せない、社内官僚に任せればいい。細かな表現の違いなどどうでもいいから、とにかく速く・早く動き続けること。

3番目です。これまで調達担当者は、机を叩いて価格交渉すればいい、と思われていました。しかしこれからはテクノロジーの知識が必須です。例えば簡単なVBAを使ってExcelを操作できるのは当たり前として、AIの簡単な基礎や、RPA(Robotic Process Automation)で何ができるか、IoTで何ができるか、そして、調達・購買業務はそれを応用して何ができるのかを把握しておかなければなりません。

もちろんプログラミングソースまで書けなくてもいい。ただ、テクノロジーの現状と現時点での限界を把握しているのか、していないのかでは大きな差になります。そのために、コミュニティの必要性を強調したい。会社というコミュニティだけに浸かりすぎです。会社以外の共同体に属するべきなのです。さきほど、テクノロジーの話をしましたが、どうしても一つの会社にいては、他社の動向もわからないし、他のブッ飛んだひとたちの発想もわからない。発想が1つの共同体だけでは狭くなりがちです。したがって、いまはフェイスブックもあるのですから、多様な人員で構成されたコミュニティに複数加入することによって発想を柔軟にしていくのです。

とここらへんが、私の考える将来戦略であり、調達・購買3.0として考える姿です。ありがとうございました。

<了>

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい