緊急講義!サプライヤーの能力不足対策 4(牧野直哉)

前回は、サプライヤー能力の不足に対応するため、発注見通しを的確にサプライヤーへ連絡する重要性についてお伝えしました。ここで具体的に「的確な発注見通し」について、3つのポイントで解説したいと思います。サプライヤーの能力不足とは、生産キャパシティーが限定され、バイヤー企業の要求に柔軟に対応できなくなる形で顕在化します。そういった好ましくない状況を防ぐために、どのような発注見通しを提示すればよいのでしょうか。

1つ目は、当たり前の話ですが、できる限り一度提示した発注見通しは変動させずに発注につなげます。これができれば苦労は無いといった声が聞こえそうですが、限られた能力を奪い合う局面では、事前に提示した通り、予定通りに進める方が、サプライヤーにとっても対応しやすくなります。対応のしやすさは優先度アップにつながるのです。

「見通し通りの発注」とは、増加も減少もない状態です。増えても減っても問題発生のきっかけになります。この点は、営業部門や生産計画部門に対して事前に申し入れし、理解を促して、正しい情報提供を求めましょう。通常、見通し対比の数量増加はサプライヤーにとってもメリットがあるだろうといった考えは捨てます。そういった考えは、全体的に仕事量が少ないときに通じる考え方です。サプライヤーの能力不足が顕在化しつつある現在、見通しよりも発注数量が増加した場合、対応できなかったり納期が遅れたりといった問題が発生しやすくなるのです。

見通しよりも発注数量が減少する場合、減少傾向のまま継続するのであれば問題ないかもしれません。今月は減ったけど、減ったぶん来月は増加するといった「変動」が問題なのです。皆さんの発注が減少した分、他社に生産の枠を取られてしまっては、元も子もありません。したがって自社の在庫が月次ベースで増えるといった理由で翌月に発注を伸ばすのではなく、もし来月に購入する見通しが確定している場合はできるだけ見通し通りに購入して無用なトラブルの発生が防ぎます。

続いて、どんな調達購買部門にとっても悩ましい「納期変更対応」です。自社の生産計画都合でも顧客の納期変更要求も、基本的には変動幅の全てをサプライヤーに押し付けるのではなく、変動対応をバイヤー企業とサプライヤーでシェアします。ここで重要なポイントは、バイヤー企業として対応しなければならない納期変更の幅を明確にサプライヤーに伝え、自分たちも採用するからサプライヤーにも対応してほしい、一方的な対応でない点の強調です。

最後に、発注見通しの変動を購入価格の値上げで了承させるといったケースも十分に想定できます。輸送も、今すぐに送るできるだけ早く届けるといった対応は料金がアップします。これは売買のセオリーとしては正しい対応といえます。しかし変動への対応を価格で収めてしまうと、今後のバイヤー企業の事業損益にも大きな影響を及ぼすでしょう。したがって、購入価格を含めた条件変更を求められたら、見通し数量の購入保証や、納入ロットの変更といった価格以外の条件の見直しで乗り切る交渉をサプライヤーと行います。

ここまで述べた3つの対応は、すべて調達環境の変化によって生じています。需要と供給のバランスが崩れ供給能力が制限される場合、購入側の立場が弱くなります。企業における調達購買部門の最大の弱みは、どうしても購入しなければならない点です。一般の消費者のように、野菜が高騰しているからなるべく食べないようにするといったわけにはいきません。調達環境の変化に対応しなければ、事態はさらに悪化し厳しい対応を迫られます。できるだけ先手を打つために、従来よりも感度を上げた納入見通しの提示と、見通しの順守に挑戦します。

このテーマの最後に、これから行うべき具体的なサプライヤーのアプローチ方法を述べたいと思います。基本的には、これから述べる内容について場合や企業内でコンセンサスを得てサプライヤー確実に伝達し実行へとつなげます。

1つ目は、2018年度の方針です。2018年は「物量の確保」がどんな調達・購買部門でも大きなテーマになるはずです。したがってサプライヤーの要求は、QCDの「D:納期」に限定して行います。品質やコスト要求はあえて明言しないといった対応も、現在の厳しい調達環境を乗り切るためには必要な処置です。納期に重点を置いたフォローを行い、サプライヤーの評価も納期厳守にて行う旨をきっぱりと明言しましょう。

こういった明確なバイヤー企業の方針に基づいて、バイヤーは担当するサプライヤーに対して、納期遵守率の維持向上をテーマに、前年度実績を踏まえた目標設定と、目標達成するためのアクションプランを作成し、最低でも月次ベースでフォローと活動状況の共有を社内で行います。この取り組みは、サプライヤーに納期確保させる効果とともに、稼働状況の変化によりバイヤー企業に思わしくない変化を及ぼす予兆をつかむ効果を期待します。

ここで、バイヤー企業の生産方式によって異なるリスクと対応をまとめます。まず見込み生産の場合です。見込み生産は、多くの場合ギリギリまで発注の確定を行わない傾向があります。したがって、他社に先んじて発注見通しに対する買い取り保証を提示して、物量の確保を行います。もし、何らかの値上げを要求されるような事態になったら、値上げ交渉の前に先々までの注文書を発行してしまいましょう。

続いて受注生産の場合です。この場合は、まず確実性のある発注見通しを提示できるかどうかが大きなテーマです。また、従来であれば1枚の注文書で済んだアイテムも、原材料や部品だけでも確保してもらうといった分散発注を検討します。

受注生産の場合、他の企業でも繁忙期が重なる場合が多くなります。そういった場合に、サプライヤーの稼働のピークを事前にヒアリングして、相対的に低い稼働率のタイミングで発注できるかどうかを検討しましょう。

2018年、生産量や枠の確保で、他の企業と競争している現実に、多くの調達・購買部門が悩まされるはずです。競争に勝つための武器を調達・購買部門が主導し、社内のコンセンサスを得ながら準備できるかどうかが、サプライヤーの能力不足に対応できるかどうかの分水領です。

最後に、サプライヤー能力不足が現実のものとなり、何らかの影響を受ける事態に陥った場合を想定します。本来であれば、原因を明確にして対策を講じるのがセオリーですが、まず発生した事象に対してそういったセオリーが通用するのかどうか見極めを行います。

例えば、何らかの問題が発生するといった連絡をサプライヤーが行ったとき、問題解消の具体的な対策を提案したかどうかがポイントです。もしサプライヤーにとって優先度が低い、対応する意思がないときは具体的な提案が行われないはずです。

バイヤーには非常に厳しい局面になりますが、こういった最悪の状況ではスピード感が重要です。一刻も早くサプライヤーの状況を掌握して、バイヤー企業の側から問題を解決する提案を行い事態の収拾に努めましょう。そして、もう一つ重要なポイントがあります。

サプライヤーの能力不足は、サプライヤーにとっても厳しい状況です。そういった厳しさを、ただ一方的にバイヤー企業に押し付けたか、それとも最悪の事態を回避するために何らかの手を打った跡は見えるか。積極的に対応してくれたのか、サプライヤーの対応をしっかりと見極めましょう。こういった局面では、サプライヤーのバイヤー企業に対する姿勢が明確に表れます。そしてこういった需要超過、供給能力不足の局面はいつの日か解消されます。そういった未来に備えて、ギリギリまで頑張ってくれたサプライヤーこそ、将来的にも重要なサプライヤーです。なかなか対応に追われてサプライヤーの評価などやってられない、といった状況でしょう。しかし、こういった厳しい時にどんな対応をしたのかは、必ず記録に残して将来の適切な発注に備えましょう。

(おわり)

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