連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2034年①>

「2034年AIが大半の仕事を軽減化、あるいは奪う~AIが人間界へ本格進出~」

P・Politics(政治):行政もAIを産業活性化につなげる方向性。
E・Economy(経済):AI関連市場は2兆円を突破。
S・Society(社会):人間の労働の約半分が奪われる可能性がある。
T・Technology(技術):AIの実装が簡易化し、データさえ揃えば、AI化が即時可能となる。

AIが2034年までに、人間の労働の大半を奪う可能性がある。いままで考えられなかった領域も、AIが浸潤し、さらにシンギュラリティという技術的特異点を迎え、AIは人間以上の能力をもちうる。
そこで人間に重要なのは、繰り返されたように、機械ができない領域を突き詰めることだ。それは、AIと人間を結ぶ仕事だったり、人間を鼓舞したりする仕事に違いない。

・AIが代替する職業

前回、データ収集の重要性を強調した。正しくデータを扱い、さらにアルゴリズムを設定できれば、たしかにAIは武器になる。さまざまなメディアで取り上げられたカリフォルニア大学音楽学部教授・デヴィッド・コープ氏が開発したエミーは、クラシックの作曲が可能だ。これもクラシックの楽曲を入力し、そこから名曲の法則性や、作曲家のクセを見つけ出し、作曲につなげていった。

人間が大量の時間を費やしても終わらない分析ができるわけだから、特定領域では強みを発揮し、そして人間の労働を代替する。よく「消える職業」として挙げられるのは、レジ係、コック、受付などだ。ホワイトカラーとして、会計士なども上位にあがる。

●AIコック:調理データから、食材にあう料理を提案する。また、提案だけではなく、実際に調理ロボットで提供する。

●AIスタイリスト:無数の写真データから、そのひとの体型や肌の状態に応じた衣類を推薦する。

●AIホームページ:フォント、配色、配置、コピー、サイズ……無数の組み合わせを訪問者ごとにおこない、さらに訪問者の特性におうじて最適化する。さらに、メール送信も、受け手ごとに開封率のもっとも高い時間帯や、媒体、メールタイトル等を変化させる。

●AI店員:スーパーやコンビニなどで、売れ行きがもっとも高くなる陳列を分析する。ならびに、挙動不審なお客を見つけ監視を行う。

●AIアシスタント:すでにAI搭載のインテリジェンス・スピーカーが家電の操作をやってくれるように、書類の作成や、アポイント取り、過去の情報収集などをしてくれる。実際に、決算書や情報を集めて、各社の情報サマリーをつくるサービスはある。その役割はもっと拡大していく。もっとも、AIアシスタントに依頼する社員は不要になるだろうが。

●AIエンターテイメント:作曲の例をあげた。同時に人間そっくりのキャラが、毎日、違う曲を歌ってくれ、さらに作詞もしたらどうだろう。YouTuberとなって、毎日どころか毎時間コンテンツを更新するかもしれない。

●AIコンサルタント:企業の情報から、問題点を抽出し、解決策を提示

●AI弁護士:これまでの莫大な判例から過去事例を探し、資料を作成。ならびに、最適な裁判戦術を検討。
などキリがないものの、データから分類させたり、回帰させたり、ルールを抽出したりと、さまざまな展開が考えられるだろう。

・特定AIのその先へ

ところで、さらに先。シンギュラリティなる概念が流行になった。シンギュラリティとは、レイ・カーツワイルという天才が『ポスト・ヒューマン誕生』(2007年)に語った概念だ。AIが人間の思考力を超え、さらに、AI同士が進化を進め未知なるスピードで発展していくものだ。彼はこれまでの世界とはまったく異なる風景が広がるとし、シンギュラリティ大学を創立した。

シンギュラリティは論者によってさまざまな解釈があり、2045年には人間より圧倒的な能力をもち(「能力の定義は?」)、自らプログラムを書き換え(「プログラムはどこまでを指す?」また「書き換えとは、どのレベルを指す?」)までを行うとする論者が多い。あるいは、シンギュラリティとは、街中で購入できるレベルのパソコンが、全人類の頭脳分にあたる計算能力をもつとするひともいる。この技術的特異点とも訳される時点に何が起きるかわからないほどであるようだ。

おなじく、シンギュラリティ大学が予想する未来は怖くも面白い。たとえば、製造業がすべて3Dプリンターに置き換わるとし、原子プリンターを予想している。いまではプラスティック等の素材しか加工できないものの、原子プリンターは多様な材料で成形できる。工場はもしかすると、都心のビルに座するようになるかもしれない。

その先には、プリンターが、プリンターを作るようになるだろう。これがもしかすると、新たな生命ではないか。無限に連鎖するプリンターたち。豊かな命を生み出す母性は、プリンター性と呼ばれるようになるのか。

また、ExO(エクスポネンシャル・オーガニゼーション)の概念も面白い。個人がバラバラに働き、しかし、有機的・流動的につながる。人数は小規模だが、外部と連携しながら大きな価値を生んでいく。グーグルも社員数やバランスシートの大きさからすると影響力や株式評価が相当に高い。Uberもそうだ。旧来的な製造業の時代には、大きく、そして固定費をかけることが社会への影響を与える鉄則だった。ただAI時代は、ルーチン業務を機械に任せ、個人・小組織というミクロな存在が際立ってくる。

もちろん個人・小組織として価値を創出できなければ、機械に奪われる時代だろう。ただ、価値を創出できれば、それは機械と栄える時代になる。

・AIというブラックボックス

また、私の興味をひいたのは、AIが導いた経緯と結論が、ほとんど理解できなかった点だ。「なるほど、合っているかもしれない。でも、なぜその答えなんだろう」と不思議な感覚だった。

これは将棋AIソフト「ボナンザ」開発者の山本一成さんも『人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?』で述べている。<ポナンザにはたくさんの黒魔術が組み込まれており、すでに理由や理屈はかなりの部分でわからなくなっています。
「プログラミングの理由や理屈がわからない」とは、たとえばプログラミングに込みこまれている数値がどうしてその数値でいいのか、あるいはどうしてその組み合わせが有効なのか、真の意味で理解していないということです。せいぜい、経験的あるいは実験的に有効だったとわかっている程度です。>

私は、現在の中間管理職を思い浮かべた。たとえば、部下が「AIがこういっています。なぜかわかりませんが、これが良さそうです」と決裁を求めた際、なんというだろうか。しかし、それでも信じたほうがよさそうだ――という場合。

ここから必然と浮上するのが、わからないAIと人間をつなぐ役割だと私は思う。その意味で、ヤフーの安宅和人さんは早い段階から指摘している。<AIに任せる部分は多かれ少なかれブラックボックス化する。これから発生するリスクマネジメントをどう考えるかは、マネジメントの重要な判断になる。(中略)今後は人間に理解できる言葉でAIと人間の世界をつなぐソフトなスキルが、マネジメント能力として重要になる(『ハーバード・ビジネス・レビュー2015年11月号』)>

機械が多くの仕事を代替するなか、どうして生き残ればいいのか。抽象的な話になる。冒頭で「触れる」をキーワードに話した。それは、鼓舞すること、心ゆさぶること、驚かせること、感動させること、ドキドキさせること……だろう。たとえば機械がビルとビルの最上階をつなぐロープを渡られるかもしれない。しかし、人間が渡れば感動をもたらす。

そして、発達したAIは必ずいうだろう。

「人間の鼓舞なら、これまでのパターンを分析して、もっとうまくできます」と。

<つづく>

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