連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2027年①>

「2027年フジロック30周年」
ライブという原点回帰、原体験重視の30年

音楽は人の心を揺さぶる。多くのひとの心に届くヒット曲をAIなどで事前分析できたり、ヒット曲を機械が作曲できたりするかもしれない。
いっぽうで、従来の音楽産業では、楽曲をフリーにして、ライブやグッズ販売で儲けるビジネスモデルが続伸していく。そこで重要なのは、ライブが、非日常空間であり、ナマ・リアルなイベントであることだ。

・フジロックの伝説

フジロックの初回は1997年で、私が大学に入学した年だった。知人から誘われ、たまたま先約が入っていた私は、その後、フジロックがひどい環境と寒さのなかで敢行されたと聞いた。実際に台風9号が襲来し、そして気温は劇的に下がり、雨は降り続いた。そして、二日目は中止となった。

しかし帰還した知人は「ひどかったよ」といいつつ、そこに歴史的場所に参加した高揚を隠しきれずにいた。

<フジ・ロック・フェスは、遊園地だった。
――スリリングでの命がけの、行けなかった人が死ぬほど後悔するような遊園地。お客さんの誰もが「死ぬかと思った」って答える、考え方によっては最高の遊園地。だからこそ、あそこから生還できたことは、ボクらにとって、すっごく日常な、楽しいイベントだったのかもしれない(Quick Japan vol.16 村田知樹さん「ドキュメント フジ・ロック・フェスティバルからの生還」)>

<最悪もここまで来ると、話は変わってくる。なにしろ自分はその後、一ヶ月以上も、取り憑かれたように「フジ・ロック・フェスティバルがいかに最悪だったか」を人に話しまくり、原稿なんか書き終わっても、まだ調べ続けていたのだ。(中略)普段なら白痴的とも言える形容詞しかないように思える。そう、凄い。凄かった。物凄かった。「世界一凄いロック・フェス」。これが一番しっくりくる。頭狂ってんだもん(鶴見済さん「檻のなかのダンス」)>

というコメントがもっとも当時の感じを記述しているのではないかと私は思う。そしてライブというその場限りの原体験の衝動に、このころからひとびとが目覚めた、というと大げさだろうか。ひとびとはナマとリアルを感じたい30年だったのだ、と。2027年から振り返ると、あのフジロックの惨劇は、むしろ象徴的だったのだ、と。

・原体験としてのライブの勃興

そのころ、ライブは儲からないと誰もがいっていた。CDで稼ぎ、ライブはファンへのサービスだと。しかし、いまでは、音源は儲からないから、宣伝を目的としタダで配ったほうがいい、そしてライブで儲けるのだ、とまったく逆のことがいわれている。

さきほど1997年のフジロックを話したが、その年の音楽ソフト生産数量を見てみると、ピークであるとわかる。金額でいうと1998年がピークとなっており、90年代後半が栄華の頂点だ。

1990年代後半までは、いわゆるレコード会社の時代といっていいだろう。エイベックスが小室哲哉さんのソニー専属契約を、業界の慣例を逸脱し”解放”させたあとに、1990年代前半からいくつものヒットを量産していく。TRFを生み出しデビューしたのが1993年で1998年に浜崎あゆみさんがデビューする。

*以降のグラフは拡大してご覧ください。

それときわめて対象的なのがライブ動員数と売上高だ。ソフトに使う金額が減少すると反比例するかのように、右肩上がりとなっている。フジロックの1997年あたりがもっとも底辺で、そこから右肩上がりを続けているのだ。音楽の楽曲自体がコピー容易になっている。そこでもちろん違法コピーなどの取締りは重要だろうが、むしろアーティストは楽曲を解放することで、リアルなライブでの体験自体を販売する傾向を強めていった。

面白いのは、現在、音楽ソフトの売上高は2450億円となっている。そして、コンサート動員による売上は3100億円と逆転していることだ。これは2014年あたりからの現象でこれ以降は続くだろう。

カラオケはどうだろうか。おじさんたちが集まって歌う、という意味では古い。接待も下火になっている。しかし同時に、若者がリアルな交流を求める点では、ニーズとしても合致している。それもあってか、カラオケは横ばいの状態が続いている。奮闘している状態だ。

インターネット配信も着実に売上高を上げてきている。音楽がそもそも配信にむいていたのは、データ量の軽さにあった。テキストからはじまり、通信速度の向上とともに、楽曲を気軽にウェブからダウンロードできるようになった。それを嚆矢として、次に映画などの動画コンテンツが配信されるにいたった。なるほど、アップルの復活劇がiPodからというのは示唆的である。

しかしインターネット配信は、音楽ソフトの代替にはならないと私は思う。音楽をタダで入手し(SpotifyやAmazon Musicのように)、それ以降のコミュニケーションで売上高をあげる仕組みに変わってきているからだ。そのコミュニケーションの代表例が、ライブだろう。チケット収入にくわえて、飲食、そしてグッズ販売などだ。

ご存知の通り、アップルミュージックは、iPhoneなどの端末から楽曲をダウンロード、あるいはストリーミングできるサービスだ。私などは、毎日のように、一つの新着アルバムと、そして一つの懐かしいアルバムを聴いている。意外にポップスだけではなく、さまざまな楽曲が用意されている。音楽を選び自由自在に流すこと自体がインフラになっている。

<つづく>

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