コストテーブル論4 (牧野直哉)
前回は、ごく簡単なコストテーブルの作成と、作成したコストテーブルに対して適度な疑念を持ち、その解消がコストテーブルの信頼性を高めるとお伝えしました。以前にも申し上げましたが、コストテーブルは絶対的な存在ではありません。われわれが日々購入しているアイテムのコストは、実は日々変動しています。同じ価格で買えているのは、その変動をサプライヤーとその上流のサブサプライヤーが一定の範囲で吸収しているからです。吸収しきれなくなるとサプライヤーからは値上げで、変動の吸収をわれわれに要求してくるのです。
今回は前回作成した分布図によるコストテーブルへ一定のデータを加え作成したものをサンプルとして提示します。次のグラフです。
ある購入品のコストテーブルです。サプライヤー3社からの購入実績をまとめました。横軸の容量以外に2つキーファクター候補あり、価格は単価で、購入ロットは1~5台となっています。
近似曲線のR2=0.6994であり、信頼するにはもう一歩工夫が必要と考えています。同じ容量でも、価格でもばらつきの存在が読み取れます。このコストテーブルから、今後の課題を3つ挙げ、解決方法を検討します。
これまでコストテーブルの作成実績がなく、初めてコストテーブルを作成し、過去の購入実績をデータとして入力した場合、このような状態はよくあるケースです。こういった状況は購入価格が整合していない可能性もあるし、整合していない部分は何らかの理由、例えば他のキーファクターの存在があるかもしれません。
コストテーブル作成の本質的なメリットは、こういった状況が見える化される点です。グラフになる前の表の段階では、なかなかイメージとして捉えられなかった部分です。しかしこういった状況をうのみにし、例えばすべての容量で最安値を目指すのは少し横暴です。この取り組みのポイントを3つ述べたいと思います。
1.分析結果は現実の鏡
ご覧に入れたグラフは、購入実績のばらつきの大きさを示しています。バラツキが激しく、その結果でR2値が低くなっています。こういった場合、想定される原因としては、まずデータそのものに問題がある場合です。データが間違っていたり、そもそも同じグラフに表現すべきでない実績が混入していたりといった事態が想定されます。続いて、キーファクターの選択の問題です。このケースでは購入品の「容量」をキーファクターに採用しています。そして、これ以外にも2つキーファクター工夫があります。別のキーファクターで再分析に挑戦するのも1つのアイディアです。
2.基本的な対応
こういったグラフは、価格やキーファクターのデータを収集し一覧表にまとめた結果を表しています。そのデータがそもそも正しいのかどうかをまず確認します。続いて、他に2つのキーファクターがありますので、再分析を行います。また、3社のサプライヤーからの購入実績を一覧にまとめているデータです。サプライヤーごとに作成すると、その違いが明確になる可能性もあります。
重要な点は、これまでに行ってきた方法とは異なるやり方で改めて分析を行う点です。手書きで作成するのではなく、エクセルに代表される表計算ソフトで作成しているのは、データの修正や、異なる切り口での分析が極めてやりやすい点にあります。表計算ソフトの特徴をふんだんに活用して、より信頼性の高いコストテーブルを作成しましょう。
3.応用対応
基本的な対応を行った上で、このグラフに表現された内容は間違いがないと判断された場合の対応です。分析の切り口としては、近似曲線より上の実績の特徴は何なのか。近似曲線を下回る実績の特徴は何なのか。近似曲線全体を下げるにはどうしたらいいのか。この3つのポイントでデータを抜き出して特徴を確認します。
このデータで、類似の製品を購入する場合、このグラフに基づいて価格の妥当性を判断します。今ある近似曲線を絶対視せず、近似曲線そのものを下げるにはどうしたらよいか。例えば、近似曲線を下回っている実績の要求仕様を、発注仕様として標準化すれば、理論的には近似曲線全体が下げられるはずですね。
コストテーブルとは、感覚ではなく購入実績をもとにしたデータで将来的な購入金額を予測するツールです。そして、一度作ったら終わりではなく、作り続ける、更新し続けてその信頼性を向上させるツールです。今回示したような例は、初めてコストテーブルを作成した場合によく直面する状態です。それだけ人間の感覚的な基準はアテにならないとも言えるし、多忙を極める調達購買部門ではやむを得ないとも言えます。だからこそ、コストテーブルを作成と更新に時間をかけてはならないのです。簡単に作成できる、簡単に更新できるコストテーブルこそが、継続を生み調達購買部門の力となるのです。
(つづく)