バイヤー現場論(牧野直哉)

7.納期繰り上げるとき

バイヤーにとって手間と時間を浪費する納期遅延トラブル。顧客要求によって短納期対応を強いられ、調達・購買の現場では頻出のトラブルで悩みの種です。短納期のニーズは、昨今の顧客ニーズをふまえてもやむを得ません。しかしリードタイムは、最低限必要となる時間が存在します。もし同じ購入品で、繰り返し納期トラブルが発生しているなら、自社の発注プロセスも視野に入れて発生原因を究明し、再発防止に取り組みます。納期問題をサプライヤにだけ対策させるのは、関係悪化や安易な購入価格アップに至る可能性があります。納期問題は価格問題に直結する意識をもって発生防止に取り組みます。

①遅れの原因を理解する

納期遅れが発生した場合、どんな原因が考えられるでしょうか。発生した時点で調達・購買部門にもたらされる情報は「納期遅れ」であり、大抵の場合サプライヤに原因とされます。しかし現実はサプライヤからの納入が、自社の希望日におこなわれない、あるいはおこなわれそうにない状況を表しています。調達・購買部門は、まず事実関係を調査します。調査の対象は、自社の関連部門も含めます。本当の原因を明らかして、以降の対応方針を決定します。最低限の調査内容は次の通りです。

(1)発注日:自社が注文書を発行した日時
(2)設定納期:サプライヤが納入する期日
(3)発注前の調達リードタイム設定(自社とサプライヤの双方に確認)

まず、自社内で(1)~(3)を確認し、最後サプライヤに調達リードタイムを確認します。確認をおこなった時点で、発注日から設定納期までの日数よりも調達リードタイムの日数が多い場合、サプライヤ原因の納期遅れではないかもしれません。遅延原因の理解は、納期遅れの責任の所在を明確にする作業です。責任の所在が明確ではない段階で、サプライヤに対し「納期遅れだから繰り上げて」と申し入れるのは慎みます。発生原因によって、サプライヤへ依頼するスタンスが大きく異なってくるのです。サプライヤに原因があれば、当然繰り上げを「指示」できます。しかし、少しでも自社に原因の一端でもあるなら、納期繰り上げを「お願い」しなければなりません。発生原因による対応方法の違いです。

また、加えて次の内容もヒアリングします。設定された納期は、発注後に繰り上げられていないか。発注日以降に発注内容が変更されていないか。ポイントは、調達・購買部門が認識している発注日が、調達リードタイムの起算日で良いのかどうかです。確認した結果、調達・購買部門認識の発注日以降に内容の見直し、図面や仕様書の改定があった場合には、調達リードタイムに影響を与えた可能性があります。改定は自社の要望反映なのか、サプライヤの要望か。改定時に、リードタイムへの影響は確認されたのかといった点を明らかにします。

自社内で希望日に納入されない事態は、イコールですぐにサプライヤの納期遅延と判断されがちです。今後の対応方針を決定するために、必ず自社の経緯も明らかにします。納期をサプライヤにごり押しで対応させるにも限度があります。納期遅れを解消するためにも社内に協力を要請しましょう。

②納期遅延を解消する

納期遅延の原因が明らかになったら、サプライヤに納期繰り上げを申し入れます。発生原因によって、申し入れる内容は大きく異なります。下記表のCase1~3の原因は異なりますが、納期を繰りあげなければならない必要性は同じです。サプライヤには協力を要請し、サプライヤ側の生産工程を分解して、個別の工程で短縮可能性を模索します。

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納期短縮は、通常の工程と比べて追加費用が発生します。誰が負担するのかは、明確になった発生原因によって決定するとして、納期遅延の解消を優先させます。こういったコンセンサスが得られるかどうかは、普段のサプライヤマネジメントの真価が問われます。また、同時に社内工程も確認します。サプライヤに責任がある場合は、なかなか自社内関連部門の理解が得られない場合もありますが、調達・購買部門がサプライヤに変わって、対応の不備をわび、再発防止策を実行すると明言して対応を要請します。最終的に守るべきは、自社顧客との契約納期です。

③あやまったセオリーを見直す

在庫ゼロを目指した極小ロットの多頻度納入や、サプライヤの生産リードタイムを無視した、自社で一律の調達リードタイムの設定は、納期対応問題をすべてサプライヤに押しつけているに過ぎません。また、納入タイミングを日次(にちじ)でなく、時間でサプライヤに指示する場合は、自社で高度な生産管理システムが必要です。結果的に、効果のない一方的な指示となり、結果的に自社内に在庫が滞留します。社内の保管スペースの確保状況にもよりますが、自社内の仕組みにマッチしない厳しい納期設定は、結果的に購入価格に反映されます。

「在庫ゼロ」にも、さまざまな判断基準があります。物理的な在庫ゼロを目指すのか。それとも会計的に月次決算レベルで在庫ゼロなのか。自社で目指している在庫ゼロ、在庫削減の考え方に沿って、サプライヤに納期設定をおこないます。また、在庫は諸悪の根源と見られがちですが、活用方法によっては短いリードタイム実現の武器ともなります。在庫ゼロは手段であり、目的は別にあるはずです。在庫ゼロを目的化するのは間違いです。

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(つづく)

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