ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・バイヤーが取引先に発注することの意味

バイヤーがやっていることは、日本経済の立て直しである。

大袈裟に申し上げてすまない。バイヤーが何かを買う。そのときサプライヤーに支払った対価は、さらにその下のサプライヤーへの発注につながる。それを、私は日本経済の立て直しにつながる、といった。

ここで簡単なモデルを考えよう。自社の受注価格の60%を、下のサプライヤーに発注するモデルである。

バイヤーは100円の製品を作るために、製造原価60%の60円をサプライヤーに発注する。すると、その60円の発注を受けたサプライヤーは、その下請けに36円(60円×60%)を発注する……。そうすると、最初は60円からはじまったものが、どんどん拡大していく。

前回のこのメールマガジンで書いたのは、その60円にどれくらいの経済効果があるかということだった。まず、受注価格の60%を、その下のサプライヤーに発注するわけだから、計算式(概念)は、こうなる。

*ここは、前回のおさらいなので、前回の記事を読んだ方は飛ばしてください。

中学の数学を駆使して考える。すると、両辺に0.6を掛け算したものを、もう一つ作って解くことができる。

ここで、上式から下式を引く。

ここから、Sを求める

つまり、バイヤーの発注はそれが連鎖して1.5倍になる。100円を発注したら、その末端のサプライヤーにいたるまで、150円の経済効果をもたらすことになる。もともとバイヤーは100円の発注をしたわけだから、100円+150円=250円になる。また、この250円を簡単に計算するには、もともとの発注額を、(1から発注率で引いたもの)で割ればいい。

これで、バイヤーが発注した100円が250円という額に成長していくことがわかる。バイヤーが発注することは、単にモノの売買じゃない。経済全体のパイを拡大していくことなんだ。

さて、私は公共投資のような、一見ムダに思える財政政策をしたとしても経済効果がある可能性について示唆した。だって、税金を投入したとしても、それが前述の例でいえば2.5倍の経済効果を生むのであれば、どんどんやったほうがいいからだ。

しかし、である。ここまで、やや楽観的に書いてきたシナリオも、ちょっと歪みが出てくる。というのも、バイヤーが60円をサプライヤーに発注したとしても、それによってあまり国内の経済を活性化しないことがある。それはなぜなのか。

経済拡大しない日本にとって、中国は敵なのか

バイヤーが製品を買えば日本経済が拡大する。計算上はそうであっても、それは必ずしも正しくはない。というのも、前述のように2.5倍に経済が波及することは、ほとんどないからだ。せいぜいが、1.2倍とか、1.5倍程度になってしまう。

もともと60%を外部への発注にまわす、と仮定したがこれはさほどおかしな前提ではない。外部発注比率はもっと高いところもある(70%~80%弱はザラだ)。なぜ、この計算式が実際には成り立たないのだろうか。

いくつかの要因があるものの、一つはお金が海外に逃げていくからだ。多くのバイヤーは現在、海外調達を進めている。海外には安価な製品がたくさんある。バイヤーも、その下のサプライヤーも、どんどん海外からモノを調達し始めている。そうすれば、国内がさほど潤わないのもよくわかる。

さて、そのとき、よくこのようなことが言われる。「日本のバイヤーは中国からたくさんのモノを買っているけれど、そのせいで国内産業が空洞化していく」と。「国内のサプライヤーではなく、中国から買うことで中国人が豊かになっていく」と。

ここで、一つ、このようなデータを提示したい。

UN ComtradeのHPがある、「United Nations Commodity Trade Statistics Database」と銘打っているとおり、さまざまな国の貿易状況がわかる。そこで、中国が世界に輸出しているものと、日本が世界に輸出しているものを比べることができる。

ここで表現したのは、各国の日本との競合度である。値が1に近いほど、日本と競合度は高い。逆に、0に近ければ、その国は日本と競合をしていないことになる。

それをまとめてみた(詳しく知りたい方は、書籍「日本はなぜ貧しい人が多いのか」を参考のこと)。

<クリックすると、図を大きく表示することができます>

私にとってみると、衝撃的なデータだったが、みなさんにとってはどうだろう。つまり、中国はそもそも日本と競合していない、競合度が低いのである。もちろん、町工場のようなところは中国と競合している(ほぼ同じものを作っている)こともあるだろう。

しかし、実際は中国は敵ではなく、日本の産業構造とはかなり違う。中国から製品を輸入しても、それは日本の産業を脅かすものでは、必ずしもないことがわかる。敵はむしろ、韓国・アメリカというわけだ。ちなみに、チェコも敵であるが、別要因があるために、ここでは説明を省く。

バイヤーが発注する製品が海外に流れることで、経済の拡大は緩やかになる。しかし、海外に流れていった、というとき中国はそもそも日本と競合していない。これが、さらにバイヤーの海外調達にどうつながっていくか。それは次回お話したい。

まずは、「中国は日本の脅威だ」という言説には、疑問を持っておくこと。統計は、いつも予想外の姿を私たちに教えてくれる

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