ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●2-9 グローバル化に対応する調達購買部門

近年の多くの日本企業は、グローバル化に「対応できている」のでなく、残念ながら翻弄(ほんろう)されています。企業のグローバル化は調達購買部門にも大きな影響を与えており、従来の枠にとらわれず、新たな取り組みが求められています。企業の「グローバル化」とは、事業運営に必要なリソースや市場を、日本国内だけでなく海外にも求めるかどうかによって、まず要否を判断しなければなりません。もし、日本国内のリソースのみを活用し、日本国内市場で得られる売上で満足する売上が確保できる、事業継続が可能であれば、そもそもグローバル化する必要がありません。仮にグローバル化が必要となった場合、調達購買部門にはどのような取り組みが必要なのでしょうか

☆海外サプライヤーの開拓

新興国の経済発展により、海外企業の技術・品質レベルとも急速に向上しています。調達購買部門では、海外企業から安定的なリソースを調達が、グローバル対応への第一歩です。過去数度の、短期間での円高へ移行する局面では、中国や、東南アジア諸国から調達する企業が増えました。しかし「安かろう、悪かろう」の言葉にあるとおり、その時点では、未熟な技術レベル、不十分な品質レベルのサプライヤーも多く、結果的に日本国内から購入するのと比較して、総コスト評価ではかえって高くなった例もありました。

しかし、近年では、日本企業の技術的・品質的な要求に十分対応できる新興国のサプライヤーも多数登場しています。重要なのは「新興国だから」といった大きな「くくり」で判断するのでなく、サプライヤーを一社毎、定められたプロセスに従って確認し、その内容に基づいて判断するとの調達購買に本来ある業務の着実な遂行です。海外サプライヤーであっても、活用可能なリソースは、積極的に活用しなければなりません。日本国内といっても、すべて括って、サプライヤーとして良し悪しの判断はできません。もちろん新興国の場合、品質面に代表される問題点が多いサプライヤーが割合的に多いのは事実です。しかし、すべてが総じて日本が良いとか、新興国が悪いといった判断をする時代は終わっています。例えばApple社のiPhoneに代表される製品は、新興国であり、かつての日本の製造業の受け皿的に「世界の工場」になっている中国で生産されています。私は数世代にわたってiPhoneを使用していますが、品質面ではまったく問題ありません。日本のメーカーはここ数年で携帯電話、特にスマートフォンから撤退していますが、使用上の品質を考えると、iPhoneに後れを取っていると言わざるをえません。

もちろん、品質面での問題が起こる可能性は、海外サプライヤーに引き続き高い確率があるでしょう。しかし、今は総じて良いとか、悪いでなく、必要であれば海外サプライヤーにもコンタクトして個別の判断が必要になっていると認識しなければならないのです。

☆外国人の同僚との協力

グローバル化の進展に対応するために、日本企業が海外に存在するリソースを活用する例が着実に増加しています。2000年代前半以降、日本企業の海外直接投資は増加しており、2011年以降の円高局面では、拡大のスピードに拍車がかかっています。

このような動きによる調達購買部門が直面する課題を、海外に製造拠点を持った場合で考えてみます。規模に応じて日本と同じように、進出先である海外にも調達購買部門を持つはずです。それは、進出先の国の従業員が同僚となって、オフィスは違うけれども同じ目標へ向かって、一緒に働く可能性を意味します。また、海外の進出先でなくとも、外国人と日本のオフィスで、まさに机を並べて働く機会がうまれます。グローバル化への対処とは、そのような海外の人々と、どのように協力して成果をあげてゆくかを、われわれに問うているのです。
すでに日本国内のコンビニエンスストアや、飲食店では、外国人と一緒に働くケースが多くなっています。対日本人へのサービス業でも、外国人の労働なしには成り立たない例が多くなっています。もちろん、すでに海外からの来訪者が同僚となって、一緒に働いていらっしゃる読者の方も多いでしょう。日本人が多勢を占める職場で、外国人の考え方や行動はユニークと映る面があるでしょう。そういったユニークさを許容して、協力する姿勢が、今日本人に求められているのです。

☆環境整備(多言語化に対応する)

グローバル化への対応で、日本企業が一番苦労するのは「言葉」の問題です。業務を進める上で、海外の拠点やサプライヤーと、日本の拠点が相乗効果を生み出すためにも、言語の壁を乗り越えなければなりません。そのためには、グローバル言語である英語でのコミュニケーションの実現は必須です。これは、日常業務の中で、話す、聞く、書くといった基本的なレベルに留まりません。業務プロセスを定義する文書を、英文化、できれば進出先の言語へと翻訳して、できるだけ同じプロセスで業務を進める環境整備が必要です。業務プロセスとは、国によって異なる文化的な背景を色濃く反映するものです。グローバル化への対応としては、文化的背景を原因とする問題を乗り越え、双方の違いをお互いで認識した上で、円滑な業務を進める方法が極めて重要です。多くの日本企業は、日本国内で日本人だけで業務を進める仕組みを持っています。海外に進出したとしても、現地に派遣された人が数人いるだけで、国内業務にはなんら変化が起こってないのでは、進出の本当の効果を勝ち取れません。海外進出とは、日本側で全社的に取り組んで初めて成功するものなのです。

例えば、サプライヤーへの支払いを考えてみます。日本の場合は、従来のような約束手形での決済は、一時期よりも減少しているものの、いわゆる「掛け(即金でなく、後日清算する約束でする売買。また、売掛金。「―で買う」「―がたまる」広辞苑より)」での支払いが主な方法です。しかし、この支払い方法は海外では非常にユニークです。進出先、日本からの調達購買活動でも、購入力が強ければ、引き続き日本と同じような「掛け」の条件での取引が可能かもしれません。しかし、海外では「当たり前」ではありません。これは、支払いの方法にとどまらず、企業としての資金繰りや具体的な支払い方法にも大きな影響を与えますので、注意が必要です。

<つづく>

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