バイヤーの「超」基本業務(牧野直哉)

今回から、バイヤーの「超」基本業務と題して、日常的なバイヤー業務について述べます。現在お伝えする内容は次の9項目を考えています。

1.見積依頼
2.社内ルール~手配・発注の仕組み
3.価格査定
4.購入条件調整
5.社内ルール~社内情報収集と調整
6.納期設定と納期フォロー
7.品質確保への取り組み
8.検収と支払い
9.不具合対応(品質と納期)

調達購買部門におけるいろいろな問題を考えるとき、問題とは、当たり前な内容として長年おこなわれてきた基本的な業務にその「根っこ」が存在します。これら9つの内容は、すべて私の「なんかおかしいよね?」が起点になっています。その「おかしさ」を「問題点」として捉えて、私なりにノウハウとして現在進行形で活用しているものばかりです。

みなさんがご勤務されている企業ごとの「違い」とは、実は皆さん自身で「違っている」と思う部分は、どの企業にも共通していて、逆にどこも同じ、当たり前と思う部分がきわめてユニークであったりします。私は、実務の中で、実際のお客様の調達購買部門のバイヤーとも話をします。まさに調達購買担当者をサプライヤーの視点で感じるのは、基本的に理解しなければならない部分が存在する。しかし、いちいち確認する、行動するのは非効率(面倒くさいともいう)なので、いろいろな確認点を端折って実際の業務として対応しているとの事実です。「基本的に理解しなければならない部分」とは、アクション(行動)の真の意味とか意義といった部分です。もちろん、的確なサプライヤメネジメントの実践で、そういった「いちいち確認して行動する」部分をやらなくて良いサプライヤーとばかり取引をおこなっているケースもあるでしょう。しかし、なにか問題が起こったときに、原因を深掘りしていくと、

「御社にとっては当たり前でも、当社には当たり前ではありません」

といいたくなるし、実際に言う例も多いのです。この有料マガジンをお読みの方は、すでにご存じの内容ばかりかもしれません。しかし今回は、調達購買担当者の基本動作に着目して、改めて基礎を固めて頂きたいのです。

●1.見積依頼

1-1 見積依頼前に見極める内容

私が調達購買部門で働くようになって教わった見積依頼とは、図面や仕様書を購入仕様として、FAXでサプライヤーへ送付する方法でした。しかし、私が営業時代には、膨大な電話帳のような、技術的内容だけなく、商務条件といった一般的な取引条件も明記された内容でした。この違いはなぜ生まれるのか。調達購買部門では、長年に渡って取引をおこなっているサプライヤーの存在が、細かい内容を連絡せずとも既に理解していたとの背景がありました。事実、そういった細かい点を確認すると

「そんな細かい事を言う前に、図面をサプライヤーに送れ」

と、怒られた経験も持っています。

この事実は、新しいサプライヤーの開拓に弱い日本のバイヤーの姿を象徴しています。もちろん、日常的に取引をおこなっているサプライヤーに対して、いちいち電話帳の様な詳細を明記した購入仕様書を送りつけるのは非効率でしょう。しかし、それは「日常的に取引をしている」との前提条件があってはじめて成立します。また、長年にわたる取引の結果、「当たり前」の内容が忘れられている、あるいは担当者が変更され正しく継承されていない場合もあります。調達購買の2007年問題です。私は、サプライヤーの担当者が変更した時や、新しい年度が始まった時、重要な見積依頼をおこなう場合は、必ず詳細の見積依頼をおこなうように心がけています。これは、バイヤー企業側だけでなく、サプライヤーを守る結果にもつながります。

毎回の見積依頼で、必ずおこなうのは、見積範囲の見極めです。

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上図は、製品を購入する場合に必要な工程を明記しました。一番上の「購入品」が、必要な工程すべてを表します。一方、購入品に続いて表記されている4つのケースは、サプライヤーが担う役割と、責任範囲がすべて異なっています。役割と責任範囲が異なれば、当然見積金額にも影響があります。

これは、既存の購入製品を新しいサプライヤーへの発注を検討する場合に特に注意しなければなりません。また、今回の「ほんとうの調達・購買・資材理論」で述べているグローバル化に対応するために、海外のサプライヤー採用を検討する場合にも、日本の発注内容に関するトレンドを頭に置かなければなりません。

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「モジュール化」「設計込み」といった言葉で象徴されるサプライヤーの対応範囲の拡大を、これまで日本の調達購買界は進めてきました。サプライヤーの技術力の活用は、日本企業の得意分野で、よりCase1に近い発注範囲を望む傾向がありました。しかしCase1を、いきなり新しいサプライヤーに依頼するのは、大きなリスクが伴います。また、一般的な傾向として、海外サプライヤーはCase4のような発注範囲の場合、調達に成功する確率が高くなります。日本企業の海外調達の難しさは、海外企業の優劣だけでなく、日本企業の発注範囲の考え方にも起因するのです。

この考え方は、現在発注しているサプライヤーにも適用し、範囲を確認しなければなりません。同じようなモノやサービスを購入している複数のサプライヤーで、この範囲がそろっているかどうか。本来的には、この発注範囲が同じでなければ、価格比較などできません。見積依頼をおこなう際には、なによりもまずこの発注範囲を見極めなければならないのです。

<つづく>

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