ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●2-5どうやって仕事を進めるのか 1~調達購買戦略とはなにか?

戦略にはさまざまな定義が存在します。ここでは「戦いにいかにして勝利するかを考えて策をめぐらせる」と定義します。調達購買戦略とは、ある一定期間における方向付けを決定する内容でなければなりません。企業として勝ち残るためにも必須です。「戦い」とは、競合企業との間で展開される販売競争が代表的です。調達購買部門でも、他の企業の調達購買部門と、より有利な購入条件を求めて競争しています。競争に際して「戦略」のもつ意味とは、限られたリソースの有効活用です。もっとも避けるべきは、闇雲に場当たりな手段による競争です。「闇雲」や「場当たり」を避けるにはどうすれば良いか。それは、戦略決定に際して、根拠や理由を明確にします。根拠や理由といった戦略の「起点」を明確化すれば、その戦略の成否のいずれからもさまざまな示唆や教訓を得られます。そして、それは次の戦略に反映させて、戦略の実効性を高めるのです。

☆調達購買戦略の位置づけと必要条件

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企業内の業務の流れを考えるとき、調達購買部門は川下に位置しています。これは、調達購買の戦略を決める際にも、非常に重要な意味を持っています。図に示された通り、調達購買戦略とは、企業全体の戦略、あるいは事業戦略に沿って、それを実現させるための機能戦略でなければなりません。具体的に調達購買戦略には、次の5つの要素が必要です。

1.現実的である

市場における企業間の戦いで使える内容かどうか。実現できるかどうかの事前検証は必ずおこないます。思いつきによる弊害を排除するために、また調達購買メンバーの戦略実現へのモチベーションを確保するためにも現実性の追求は不可欠です。

2.数値化でき、かつ検証できる定量的な指標をもつ

これも、上記1と同様に、精神論を排除して実現性を高めるために、また組織能力を評価するためにも数値として評価・検証できる指標を持たなければなりません。調達購買部門の戦略では、比較的この数値は設定しやすい部門です。しかし、設定する数値はお飾りでなく、実現すべき数値です。社内からの押しつけでない、実現できる数値の見極めがとても重要です。売り上げや利益目標から逆算すると、調達購買部門で実現しなければならないコスト削減額が決まってしまう場合があります。当然、そういった数値へ挑戦する姿勢は必要です。しかし、実現性のない数値を掲げても、戦略の信用度が疑われるだけです。調達購買部門が機能している企業では、数字を検討する場、プロセスを持っています。そういった場の設定から始めるのも、戦略の実効性を高める一手段になるのです。

3.具体的に実現可能な内容である

2で提起した数値化を達成するためには、抽象的でなく、調達購買部門で行動をともなって実現できる内容でなければなりません。企業にも企業戦略、事業戦略、各部門の機能戦略と戦略に階層が存在します。当然調達購買部門内でも、組織レベルまたは、担当購入製品やサプライヤーによって戦略は異なります。

このポイントでの重要な点は、調達購買部門が「部」レベルであれば、部を構成する「課」レベル、または「係」レベルでの内容の落とし込みです。大きな組織の戦略は、得てして「だからどうするの?」と言いたくなる内容になってしまいます。企業戦略は、各部門の各メンバーが戦略をベースに有効に機能して始めて実現されます。実現するため「この企業、事業、調達購買戦略実現には、自分(課、係)にとってどのように動けばいいのか」を考えるプロセスが必要です。このプロセスをマネジメントするために、中間管理職が存在するのです。企業、事業レベルの戦略は、なかなか自分の業務との関連性を見いだせません。しかし、企業・事業レベルでの戦略と、調達購買戦略の関係性、調達購買戦略と、各個人レベル、サプライヤーレベルでの関連性の明確化は、戦略を具体化するためには不可欠です。

4.継続性と展開性がある

企業は一年限りのものではありません。その戦略にも継続性が必要です。そして調達購買部門としてサプライヤーへ影響を及ぼす点からも展開性は必須です。展開すればさまざまな人の目に触れます。内容が貧弱であれば、展開しても影響を及ぼしませんし、内容が貧弱でそもそも展開できないのであれば、戦略を立案する意味がありません。調達購買戦略の実現にサプライヤーへの展開は必須です。

5.全体を通して最適化する

調達購買部門は、川下部門であるが故に、他部門との整合性を取った戦略の構築が一番難しい部門です。調達購買戦略を進めるためには、関連部門の協力は不可欠であり、関連部門に理解を得て協力を引き出すためには、全体最適が必要です。

☆調達購買戦略が影響を受ける側面

どんな機能戦略でも、部門独自に立案しなければなりません。ただし、企業や事業全体の戦略を前提とする必要があります。また、業務フローの川上に位置する営業、技術といった調達購買部門へ購入を要求する部門の戦略実現にも貢献しなければなりません。ここに、調達購買戦略の難しさがあります。シンプルに言い換えれば、要求部門が欲していないモノの購入はできないのです。

一方で、購入要求部門のニーズをすべて調達購買戦略は実現しなければならないのかどうか。調達購買部門では、購入する際の価格には責任を持たなければなりません。予算とニーズの折り合いが調達購買部門の戦略にも大きな影響を与えます。

☆調達購買戦略が影響を及ぼす側面

調達購買戦略は、部門内でおこなわれるあらゆる業務に影響します。最終的には、サプライヤーに対して、どのように影響を及ぼすかが鍵となります。また、あらかじめサプライヤーが存在する市場からの情報収集をおこなって、そのトレンドを川上部門へフィードバックも調達購買戦略の中で重要な要素です。また、先に述べた購入要求部門のニーズと、予算の折り合いが、現実的に根拠を持ってつけられない場合は、関連部門に対して戦略の見直しを申し入れる強さもなければなりません。この「強さ」がある調達購買部門は、意外に少ないのが実情です。しかしわれわれは、サプライヤーと、社内川上部門に対して、事前に十分な情報収集と、関連部門とのコミュニケーションをおこなった上で、調達購買戦略を打ち立てなければならないのです。

(つづく)

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