ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●2-6 どうやって進むのか2~調達購買戦略のつくり方
調達購買の実務を進めるバイヤーに戦略は不可欠です。バイヤーひとりひとりが戦略にもとづいて業務を進め、サプライヤーと対峙し、成果を勝ち取らなければなりません。ここで、戦略を語る上でもっとも重要なポイントを申しあげます。仕事で動く、アクションを起こす場合は、どんなわずかな動きであっても、戦略性は不可欠です。戦略的な動きは、
1)的確な状況判断(現状分析)
2)目標へ到達するための複数の選択肢
3)アクションに必要なリソースの確保
の3つがそろってはじめて実現されます。戦略を身近なものとして捉える近道は、日々の一つ一つの行動に戦略をたてる取り組みです。課長になったから自然に戦略が構築できるのではありません。あなたが仮に入社して間もない担当者であっても「戦略は上位の役職者がつくる」といった考えは捨て、その都度戦略性をもった対応を心がけましょう。
☆サプライヤーのリソースを見極める
ここでは、調達購買部門・バイヤーにとって最も重要なリソースであるサプライヤーの現状分析について述べます。自社の戦略を実現する上で、サプライヤーの持つリソースを見極めることが重要です。魚屋に肉を買いに行くようなアクションは、バイヤーリソースの無駄遣いなのです。サプライヤーの持つ既存のリソースだけでなく、将来的なリソースの拡大の可能性と方向性も合わせて判断します。つまり、サプライヤーのリソースが、今後どのように改善、成長するか。その可能性を見極めたうえで、自社の戦略の実現性を見極めることが必要です。
「リソースの見極め」とは、戦略構築に必要となるタイミングだけにおこなうものではありません。サプライヤーのリソース状態は常に変化し続けます。変化は定点観測=同じ視点での観察を継続的におこなって理解します。日常的なサプライヤーとのコミュニケーションの中で、リソースの変化を把握し、購入する量やタイミングを計ることが必要です。例えば、サプライヤーからの納入で、品質や納期に問題が起こったら、私はまず何かバイヤー企業に知らされていない変化がサプライヤーに起こっていないかを確認します。日常的なリソースの状態確認は、戦略構築以外でも有効性ある行動です。
☆ポジショニングの確認
上位戦略や、関連する社内部門との整合性を保ち、調達購買部門に、そしてバイヤー企業にのみ独善的な戦略とならないために、次の2つの視点で情報を収集することが必要です。
(1)サプライヤーを自社から見た場合
(2)サプライヤーから自社を見た場合
調達購買部門にとって戦略構築上もっとも重要なリソースとは、サプライヤーです。その重要な存在であるサプライヤーに対して戦略の趣旨を理解してもらうことは、調達購買部門・バイヤーにとって最重要プロセスです。サプライヤーからの自社を見るとは、サプライヤーの忠誠度(ロイヤリティー)を測り、サプライヤーと購入企業としてのポジショニングを明確にします。ロイヤリティーとは、サプライヤーにとってのバイヤー企業の重要度です。重要度が高ければ、厳しい要求も検討してもらえる反面、低ければ、当たり前の要求も受け入れてもらえない場合も想定しなければなりません。ロイヤリティーの高い、サプライヤーにとって重要度の高いサプライヤーには、よりバイヤー企業への高いレベルへの貢献を求めるべきだし、重要度が低くても取引条件をバイヤー企業有利に保たなければなりません。ここでは、ロイヤリティー=サプライヤーにとってのバイヤー企業の重要度によって、バイヤーの要求をどの程度聞き入れてくれるのかをあらかじめ想定するのです。
調達購買戦略は、実際の業務でサプライヤーへ要求事項として展開されます。バイヤー企業としてサプライヤーにハードルの高い要求をおこなうケースも想定されます。難しい要求であっても、戦略実現上、サプライヤーにやり遂げてもらわなければなりません。まず、やり遂げるモチベーションの有無を忠誠度(ロイヤリティー)として測定し、バイヤーとして対象サプライヤーへの対応方針を決めるのです。
☆維持向上と、不足部分への充当
サプライヤーの現在のリソースの状態や忠誠度を掌握しました。これまでの取り組みは、自社の戦略を進める上で、サプライヤーのリソースに過不足がないかを掌握するためにおこないました。そしていよいよ調達購買戦略を構築します。
全社、事業、その他の関連部門の戦略とも整合性を前提としたとき、現在取引のあるサプライヤーのリソースだけで充足できるのかどうかを見極めなければなりません。従来から取引をおこなっているサプライヤーのリソースで十分に戦略実現できると判断する場合は、既存サプライヤーとの関係性向上の中で、戦略実現に取り組みます。一方、既存のサプライヤーだけでは荷が重い場合は、新たなリソースの開拓を、新規サプライヤー開拓という形で見つけ出さなければならないかなど見通しを立て、そのうえで調達購買部門の戦略を構築し、実現へ向け行動を起こすことになるのです。
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<つづく>