指標はこれをみろ!(牧野直哉)

2.ISM指数

ISMとは、Institute for Supply Managementの頭文字をつかった略称で、日本語では全米サプライマネジメント協会とか、全米供給者協会といった言い方をされます。毎年5月に開催される総会では、調達購買に関わるたくさんのセミナーが開催され、私自身も過去4回参加しています。そのISMが毎月営業日の初日に発表するのが「製造業景況感指数」で、第3営業日には「非製造業景況感指数」が発表されます(リンクは最新の発表ページです)。

この指標は、世界で最も古いPMI(Purchasing Manager’s Index、購買担当者景気指数)で、その歴史は1931年にまでさかのぼります。日本のシンクタンクも、この指標の発表を受けてレポートを作成していますし、発表の翌日にはニュースで必ず報道されます。意識していなくても耳にしている、そんな指標です。

この指標は、アメリカのISMに加入しているメンバーへのアンケート調査によって算出されます。調査手法としては、前回ご紹介した企業短期経済観測調査(日銀短観) と同様の手法であり、表現もDI(Diffusion index)を採用しています。アメリカ経済と日本経済は密接な関係を持っており「アメリカがくしゃみをすると、日本が風邪を引く」とも言われています。であるならば、今回ご紹介の指標も重要性に疑いはありません。しかし、経済環境は大きく変化しており、この指標の位置づけも変化しています。そもそもアメリカの指標なので、活用法には注意が必要です。

(1)米国経済と関係の深い産業の先行指標としての位置づけ

日本のシンクタンクが発表するISM指数に関するレポートを参照すると、日本の景況感とのリンクを挙げています。ここでは、ある資料の記載内容を元に少し違う参照方法をお伝えします。

この資料は経済産業省が作成し、昨年公開された「2005年日米国際産業連関表による分析」です。57ページにもおよぶ資料です。私にはとても興味深い資料でした。今回ご紹介のISM指数との関連したポイントは次の3点です。

①米国需要によって喚起される日本の需要は、2000年と比較すると減少傾向が見られる
②比率で見る限りは、日本の需要によって喚起される米国需要の割合が大きい(ただし絶対額は比較的少ない)
③米国需要によって喚起される日本需要は、特定の産業(機械、自動車)の割合が際立って高い

となります。従って、機械産業や自動車産業に従事していなければ、この指標の重要性はあまり高くありません。日本国内の生産活動は、2005年時点で日本国内の需要に84.8%依存しています。この指標と日本の景況感とリンクするとの指摘は多く見られますが、産業構造的に根拠に乏しいのです。

ただ、上記③の部分で、特定の産業には、生産活動の先行指標として十分に参考になります。代表的な産業としては、電子部品デバイスや輸送機械です。同じく経済産業省の発表する鉱工業生産指数と照らし合わせてみると、おおむねトレンドに同じ傾向が見られます。

<クリックすると、別画面で表示されます>

一方、同じ輸送機械でもトラックや、化学工業(需要として内需が強い傾向を持つ産業)とISM指数を同じグラフ上に表示してみました。先ほどの例とは少し異なるトレンドを示しているとご理解頂けますね。

<クリックすると、別画面で表示されます>

ISMが発行している初級者向教育資料の中に、ISM指数の活用方法が明記されています。そこには、発注量の見通し決定の参考資料とか、価格見通し、不足が予想されるアイテムの抽出といった事例が明記されています。米国経済と関連の深い業種であれば、同じように活用できます。しかし、他の多くの日本国内内需によって支えられている産業では、あくまでも参考としての指標として扱います。

(2)投資判断

今、「ISM指数」で検索すると、ヒットするページの多くは、FX(外国為替証拠金取引)業者のサイトがヒットします。これは、米連邦準備理事会(FRB)で、過去50%を下回っている時に利上げをした実績がないため、連邦制度準備理事会(FRB) が利上げするタイミングをはかる点で注目されています。連邦制度準備理事会(FRB) の金融政策によって、金融引締めあるいは、緩和との判断が、為替レートに与える影響が大きいのです。

***

結論として、日本企業の調達購買部門に勤務するバイヤーであれば、ISM指数よりも、前回ご紹介した「企業短期経済観測調査(日銀短観)」であり、今回も一部触れている「鉱工業生産指数」の重要度が上です。加えて、自社の販売市場や、調達先にアメリカが関係しているのであれば、このISM指数もおおいに活用すべき指標なのです。

(3)参照方法

このページでは、次のような内容が記載されています。すべての数値が、調達購買業務に関連している数値です。今月(5月発表)であれば、Employmentが前月対比で+3.6を示しています。この数値の上昇は、景気回復の力強さを示すと同時に、タイミングによってはピーク(頂点)を示します。今月のような大きな変動を示した時は、翌月以降要注意です。景気がピークに到達し、下降傾向が顕在化するのかどうかを翌月以降に確認します。

            今月 前月
PMI              54.9 53.7 +1.2 Growing Faster 11
New Orders          55.1 55.1 0.0 Growing Same 11
Production          55.7 55.9 -0.2 Growing Slower 2
Employment          54.7 51.1 +3.6 Growing Faster 10
Supplier Deliveries     55.9 54.0 +1.9 Slowing Faster 11
Inventories         53.0 52.5 +0.5 Growing Faster 3
Customers’ Inventories  42.0 42.0 0.0 Too Low Same 29
Prices          56.5 59.0 -2.5 Increasing Slower 9
Backlog of Orders       55.5  57.5 -2.0 Growing Slower 3
Exports         57.0 55.5 +1.5 Growing Faster 17
Imports         58.0 54.5 +3.5 Growing Faster 15

OVERALL ECONOMY     Growing Faster 59
Manufacturing Sector Growing Faster 11

もう1つ、これは多くの読者の皆さんに有効な情報をお伝えします。

COMMODITIES REPORTED UP/DOWN IN PRICE and IN SHORT SUPPLY

Commodities Up in Price
Aluminum (3); Butter; Dairy (3); Electrical Components; Lumber (2); Nickel (2); Plastic Resins (5); Stainless Steel (2); Steel (5); Steel / Cold Rolled; Steel / Hot Rolled; and Wood Pallets.

Commodities Down in Price
Copper (2); Copper Tubing; Polypropylene Resin; and Scrap Steel.

Commodities in Short Supply
The only commodity reported in short supply is Truck Freight Services

これは、市況が上昇傾向にあるか、下落傾向にあるか、また需要過多となっているアイテムがあるかを非常にシンプルにまとめています。コモディティアイテムの傾向は、日本でも参考になります。例えば今月では、銅やスクラップが下落傾向を示しているとあります。もし、コスト要素に銅やスクラップが含まれる購買をおこなっている場合は、こういった情報は武器になるはずなのです。

<ISM指数 終わり>

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