すごい購買3.0(坂口孝則)

*先日の講演録です。長めになっておりますがご容赦ください。

これから調達白熱教室「すごい購買3.0」、お話ししたいと思います。よろしくお願いします。

ところで私は佐賀県出身なんですね。おそらくなんですが、この会場で佐賀県がどこにあるか、すぐに指させる人はいないんじゃないかと思います。佐賀県は九州にあって、福岡県と長崎県に挟まれたところにあります。おそらくこの会場で佐賀出身の人はいないんじゃないかとは思いますが。

ところでうちの父親は佐賀県の様々な文化事業に携わっています。佐賀県の文化事業と言っても、もっとわからないかもしれません。皆さんにご覧いただいているのは伊万里焼というもので、ご存知の通りお皿です。

またもう一つ有名な有田焼があります。これも同じく陶器ですからお皿などです。

これなぜお見せしたかという、父親は販売先として国内だけではなくに、欧州などを考えているんですね。しかし残念ながら、というか当たり前というか、これら陶器は、ほとんど欧州には売れていない現状です。

欧州はヨーロッパの晩餐会など様子を思い浮かべて頂きたいんですが、皿というものが奥行きを持ってデザインされているんですね。すなわち、皿そのものが目立つというよりも、多層的そして奥行きを持った空間があって、食材を置いた時点での総合的な演出をしなければいけない。

明確に「前菜」「メイン」、そして「デザート」という階層があって、その中で料理は、メインに向かって収斂していくわけです。それに対して日本料理がありがちな写真を持って来ました。

例えば手前には陶器が置いてありますが、このように日本料理というのは良くも悪くも、曖昧で全てがフラットに置かれていて、その中で陶器が主張することも、主張しないこともできる。欧州ではおそらく考えられないような対比があって、そのなかで皿が使われているわけです。

これはもっと象徴的だと思います。区切られて6個の料理が同時に並べられていますよね。それぞれの手間、食材の違い、順番というものがなく、それぞれフラットに並べられているんです。先ほどの欧州の料理と比較してもらいたいんですが、ここには前菜だとかメインだとかの明確な区切りはありません。繰り返すと全てが並列に並んでいるわけです。

欧米人からすると信じられないくらい涼しい顔をして日本人というのは物事を均等に見る性質があるんですね。例えばこれは世界で一番有名なおばさんの絵ですが、このおばさんの絵を見ていただいても分かる通り、絵というのは奥行きがあって目の前に主役というものが存在している。

これは当たり前と思うかもしれませんが、これは実は当たり前ではなく一つの描写スタイルに過ぎないのです。しかし今の僕たちは時として、この手法が全てだと思ってしまう。しかし一方で同じような時期にかかれた日本画を見てもらいたいんですが、ここには奥行きがなくかつ全ての対象が均一に並んでいると言うことがわかります。どれが主役かと言うのは分からない、そして横方向に動くことはできるが奥行き方向には動くことができない。でこれが先ほど言った日本文化の特徴と言っても良いですし、欧米文化と比較した際の大きな違いということができるかと思います。

先ほどまで紹介した違いが、実は産業構造にも影響を与えているのではないか。これが私の仮説です。そこで西洋と日本という対立をあえて見いだしましたがここではアンダーラインの部分だけご覧ください。

区分と階級と書いています。それに対して日本は全てがフラット。そして西洋では二項対立と書いていますが、要するに何かと何かの違いを明確につけることです。それに対して日本は、境界が曖昧であると。ただ私がもう一度、重要点を繰り返すと、これが文化側面だけではなく産業構造の違いにも大きな歴史的な違いを与えてるのではないかという点です。

例えば東芝さんは、このところ続いている不祥事で、記者会見の冒頭に「株主などのステークホルダーの皆様には心からお詫びいたします」と述べています。どうでしょうかこの文章を読んでもらっておかしいなと思う人はどれくらいいるでしょうか。おそらく多くの人はあまり違和感を抱かなかったと思うんです。

しかしこれはアメリカ人などの感覚からすると完全に間違ったセリフとなります。というのもコーポレートガバナンスの基本では株主はステークホルダーではありません。株主とは企業そのものです。株主が取締役を指定し、そして彼らが執行役員制度やあるいは社員を採用育成して業務を行うわけです。株主の利害関係者がステークホルダーなのです。

先ほど申し上げた通り、日本では境界があいまいです。会社とは誰のものかというナイーブな議論をこれほどやっている国はありません。コーポレートガバナンス的には企業は株主のものであるという答えしかありません。しかし全てがフラットな日本においては、このような言葉を自然に取り入れてしまう風土があります。

では、先ほど言った産業構造はどのような違いが出てくるのでしょうか。ここで見ておきたいのがトヨタ自動車とゼネラルモーターズの違いです。両者(社)ともたまたまですが、年間グループで1000万台ほどの自動車を作っています。恐ろしい数です。

しかし、この1000万台に大きな違いがあるんです。トヨタ自動車とゼネラルモーターズを比べると、本体には7万人ほどの従業員と22万人もの従業員という違いがあるんです。これは極めて面白いと思うんですね。

もちろん歴史的背景があります。しかしここで強調したいのは、トヨタ自動車は多くのサプライヤがいて、大げさに言えば、自社とそのサプライヤの境界を曖昧にしながら生産活動を続けてきたと思うんです。ゼネラルモーターズは自らを巨大化しそして内側領域を肥大化させてきたということができるわけです。

私はこれまでアメリカ人から「サプライヤの利益をもっと考える」などと発言を聞いたことがありません。しかしながら日本人の上司からは「そんな安い金額でサプライヤさんは大丈夫なのか」とか「サプライヤさんの経営のことも考えなさい」と何度も言われました。

ただ、これはこの構造の違いを考えるとは当たり前なのではないでしょうか。我々が調達しているものというのは付加価値のある製品を大いに含んでいるんです。それに対して欧米の企業は基本的に非付加価値領域を調達しようとします。

しかしトヨタグループを想像していただいても良いですし、あるいは他の自動車グループを想像して頂いても構いませんが、本体でやってるのは極めて少なく、後は系列といっても良いですし、下請けと言ってもいいですがサプライヤに基本的には任せているわけです。日本の技術としてよく「擦り合わせ」といわれますが、それが発達した理由もこの構造から見ればわかります。

そして大胆なことを言っておきたいんです。トヨタも欧米ではシナジーとかM&Aで事業を加速するいわれてきましたが、むしろ日本企業はそんな言葉を使わずとも同じようなことをやってきたんじゃないか。しかもその主体は調達部門だったんではないか。したがって日本の調達部門の仕事と欧米の調達部門を比較するのは間違っているのではないでしょうか。

むしろ日本の調達部員の仕事と比べるべきは、欧米の人事だとか労務管理の部門と比較すべきだと思うのです。

これまで70年代に強かった米国を80年代から90年代のバブル期に日本は抜いたとされていますが、構造で考えると内作を極めて小さな比率とし、そしてサプライヤシステムの活用にあったということができます。これは私だけの意見ではなく多くの学者が述べている意見です。

それに対して2000年代はEMSすなわち組立外注を使うモデルで日本勢が負けましたが、それは異質なものと対決しているいるのではなく、むしろ日本的構造をより進化させたモデルという評価が妥当ではないでしょうか。そして今では「ポストものづくり」と呼ばれる企業は、工場を持たず開発や企画だけをして、そしてiPhoneの製造自体は鴻海に任せる仕組みをとるメーカーが増えてきています。

しかし、これも同じような文脈で考えれば本体に内作領域を小さくして、そしてあえて欠落させることによって強みを発揮しているんだと理解する方が実際は正しいでしょう。では日本企業はここからどうやって戦えばいいのでしょうか。可能性は2つあると思っています。先ほど提示したように、実際のものづくりを捨ててしまうのか。あるいはものづくりの強みを活かしつつ新たなフィールドで戦うということです。

私は後者をお勧めしたいと思います。というのも現場という情報を持っているのは何よりも強いからです。そこでポストものづくりと日本のものづくりを比較した観点から言うと、まさにサプライヤシステムを持っているか持っていないかの大きな違いがあるのではないでしょうか。もちろんポストものづくりもサプライヤという意味では持っています。

しかしながら、日本は自社でものづくりをしながら下請けに任せているわけです。そのなかでサプライヤ選定のノウハウが溜まってきています。それに対しポストものづくりの世界では、企画しかしていませんのでサプライヤの選定の ノウハウというのは、基本的には価格情報で決めるしかありません。

私は日本の調達部員は「潜在的なコンサルタント」になるという大胆な仮説を持っています。現場情報をデータ化し、そして自社業務をやるだけではなく、どのようにサプライヤを選定すれば良いのか、というコンサルティングを外部に向けて行うのです。

もっといえば、「ビッグデータではなく、ディグデータ(深掘りした情報)」なのです。

ここで思い出せるのが武蔵野という会社の取り組みです。武蔵野はダスキンの代理店ですが、あまりにも成績が良かったもので日本中から会社見学を希望する人が殺到したそうです。武蔵野は何をやったか。お金を取って会社見学をさせるビジネスを開始しました。そしてお金を払ってくれた人には自社のノウハウをコンサルティング教育産業としても成功していたのです。

その後、武蔵野は教育事業をさらに商品にしDVDにし水平展開を図りました。新旧の勝者たちがもし入れ替わるとすれば最大の強みは同業者へのコンサルティングとなるはずです。これが私の考えるすごい購買3.0概要となります。

まとめます。日本の調達・購買の強みは、サプライヤとの密接さにあります。そこで、ビッグデータではなく現場情報を含めたディグデータが積もっているはずです。そのノウハウをいまこそ集結すべきときです。調達部門は外販として、調達ノウハウをコンサルティングする部門となっていく。先鋭部員として、調達・購買部門のトップ何人かがコンサルトして海外企業に派遣される、というのは夢がある将来ではないでしょうか。

重要なのは、「ビッグデータではなく、ディグデータ(深掘りした情報)」なのです。

<了>

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