バイヤーの「超」基本業務(牧野直哉)
バイヤーの超基本業務お伝えする第2回目。今回は「1、見積依頼業務」の2回目です。前回は、バイヤー企業が受け取る場合には同じ製品でも、サプライヤ側の作業範囲は異なる場合があって、見積依頼の「範囲」の見極めの重要性をお伝えしました。
そして今回は、引き続き見積依頼の重要性と、ポイントについて解説を加えます。見積依頼とは、購入業務の1つの起点です。重要性のポイントは2つあります。
(1)適正な価格提示の根拠
見積金額が少しでも安価な方が良い、それは言うまでもありません。私は、見積金額に対し絶対に「高い」とは言いません。「高い」に変えて使う言葉は「どうしてこの金額なのですか」です。まず、見積金額の内容を正しく理解する。続いて、みずからおこなった見積依頼内容が正しく反映できているかどうかを確認する。その上で、根拠のある基準となる数値に対して見積金額が上回っていた場合に、根拠と共にはじめて「高い」を使います。
バイヤーであれば、まず見積金額が要求内容に合致しているかどうかを判断しなければなりません。要求内容は次の5点で、この内容は明文化しなければなりません。
① 購入仕様
これは、仕様書や図面といった形で、購入要求部門によって作成されます。調達購買部門が直面する困った状況で、見積書を入手して価格情報を得なければならないけれども、仕様書や図面が未完成といったケースが想定されます。ひどい例(といっても、私の勤務先では日常的ですが)では、仕様書や図面を作っている暇がないから、既存の仕様書や図面に対して、変更点のみを赤字修正した内容での見積依頼。また、図面のみをPDFやFAXでサプライヤに送付するケースも多いでしょう。そもそも、仕様書は暇のあるなしで作ったり作らなかったりといった内容ではありません。しかし、購入仕様の明確化の重要性を認識していない購入要求部門はとても多いのが実情です。
私は、見積依頼の内容で対応を変えます。なんでもかんでも仕様書、図面を送れ!と購入要求部門に求めても、それはそれで非効率な面も存在します。したがって、実現性(商談であれば確度と規模、試作であれば社内予算の状況)によって、購入仕様の作成を求める場合と、既存資料の修正流用で対処する場合に分けています。
ここでは、見積依頼をサプライヤにおこなう当事者として、どんな内容を見積して欲しいのか、バイヤーとして見積依頼内容の最低限の理解も必要です。見積内容を理解していなければ、そもそも見積を受け取ってから、価格の妥当性が判断できません。もし、バイヤーが理解できない内容であれば、サプライヤが理解して金額を算出できるでしょうか。そういった視点で、体裁もありますが内容(コンテンツ)の確保との視点が、バイヤーには必要です。
②購入量
モノであれ、サービスであれ、購入量の大小によって、価格は変わります。これは、量産効果・経済曲線効果の問題だけでなく、量の多い、少ないによって、バイヤー企業の要求事項のサプライヤにおける実現方法が変わってきます。見積依頼時には数量を多く条件設定して、少しでも安い単価を引き出すといった取り組みが存在します。しかし、数量によって購入単価は変動するとの前提に立つと、購入が実現する可能性が少ない、多めの数量でおこなう見積依頼は、おこなうべきではありません。数量多めの見積依頼を続けると、サプライヤもその辺は察知して対処します。したがって、バイヤーとして情報収集した結果で、もっとも可能性の高い数量を設定しなければなりません。
③希望納期(リードタイム)
具体化している、あるいは具体化する可能性が高ければ、具体的な時期を明記します。まだ時期的には不確定であれば、発注後のリードタイムを見積回答に求めます。これは、見積依頼の実現性をサプライヤ側で測る1つの指針になります。実現性が低い場合は、私は、背景をしっかり説明するように心がけています。というのも、本来的に確度が少なくても、サプライヤは見積依頼に回答しなければならないと考えるためです。ただ、サプライヤ側の繁忙も考慮し、納期についてもメリハリをつけてお願いしているのです。
④品質条件(保証期間)
顧客のニーズを盛り込んだ、バイヤー企業として求める条件を明示します。高い品質の追求は、もちろんバイヤー企業とサプライヤ双方で取り組まなければなりません。しかし、私は闇雲な高品質=過剰品質を一方的にサプライヤにだけ求めるのは、問題と感じています。高品質は、企業の従業員の姿勢によってのみ実現されるのでなく、従業員の動いた分発生するコストによって実現されます。コスト削減と高品質の同時成立は、もっとも実現困難な課題です。しかし、一方的にすべてサプライヤに押しつけるのでなく、適正な品質レベルを決定し、サプライヤに実現させるのが今、バイヤー企業に求められているのです。
⑤支払い条件(期日・手段)や、特別な要求
日常的にビジネスをしているサプライヤであれば、あえて明記する必要はないかもしれません。またサプライヤとの取引基本契約で網羅されている部分かもしれませんが、どのように購入代金を支払うかは、調達購買部門として必ず意識しなければならない重要なポイントです。
ここまで、5つのポイントを述べました。もちろん、経験豊富なバイヤーには当たり前の内容です。しかし、長年の取引関係によって、こういった基本的な事項が明確化されなくても、実際に見積依頼をおこなって、見積書が提示されてしまいます。それは、バイヤーにとって2つの面を持っています。1つめは、業務効率化への貢献です。多くを語らずとも、双方合意済みの詳細条件に基づいてビジネスできる環境はすばらしい。特に上記④とか⑤の内容は、「取引基本契約による」と明記すれば済むわけです。しかし、こういった多くを語らない調達購買部門は、新しいサプライヤへの対処や、経営環境の変化へ対応が苦手です。多くを語らなくとも、見積依頼には上記5つのポイントがなければ成立しない、基本契約として締結しているのであれば、その内容を正しく理解すべきだし、見積依頼に必要な基本はしっかり押さえておくべきなのです。
(つづく)