調達・購買担当者としてこれだけは知っておくべき契約書の基本~その1(坂口孝則)

調達・購買担当者として、最低限、知らねばならない内容についてお話していきます。これを話そうと思ったのは、某社から契約に関する研修の打診があったからです。とはいえ、研修というほどの大げさなものにする必要はありません。

調達・購買担当者の仕事として、サプライヤと契約書を締結します。ただし、契約書の雛形を利用するがゆえに、その意味をさほど把握していないのが実情でした。違うでしょうか。ただし、私たちは調達・購買担当者であって、法務担当者ではありません。したがって、あまりにマニアックな細かな項目の学習は不要でしょう。ただ、勘所と肝要点のみは把握しておく価値があります。だから、研修会にわざわざ参加しなくとも、契約について「だいたいわかる」必要があるのです。

そこで、ここから数回にわけて説明していきます。

ポイント①:前文

まず、ご覧頂きたいのは、標準的な契約項目条文です。私が新人のとき、正直にいって、こういう文章が契約書に必要なのかわかりませんでした。

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だって、いかにも大げさな文言ですよね。「信義誠実」ってなんだろう、と。でも、これは英文契約書にも似たような表現があります。こういう文言はなぜ必要なのでしょうか。

【ここでの注意書き】
・当然、こう書いた以上は、取引において当然ながら相手の立場を尊重しつつ、誠実に接する必要があります(そう書いて締結していますからね)
・親事業者は下請事業者に優越的地位を乱用してはなりません。それに、下請事業者も義務を、これまた当然ながら履行するものとします(おなじく、そう書いて締結していますからね)
・ただ、より実務的には、この項目は、”訴訟対応”の意味もあります。これが大きなポイントです。

なぜかというと、契約を少しでも逸脱してしまったら、すぐ訴訟になりかねません。ただ、この信義誠実を結んでいるということは、裁判がメインではなく、法の力を借りずに両社が両社の責任において、解決することを規定しているのです。こう結んでいれば、裁判所からしても和解を前提とした仲裁ができます。

これは英文契約時もおなじなのです。

ポイント②:個別契約の成立

次にご覧いただきたいのは、契約の成立についてです。

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【ここでの注意書き】
・申し込みについて、サプライヤからどのように承諾してもらうかというと、三つの方法があります。
1.「請書を提出してもらう方法」
2.「一定期間内に異議がなければ承諾とみなす方法」
3.「承諾は自由に任す方法」
この三つです。
・請書等の文章を使った場合は(印紙)を貼らねばなりません。3.の場合、意思表示が認められたら(材料手配や生産手配)契約成立とされます。

なお、私の経験では、1.は建築建設の業界や、エンジニアリング業界です。電機や輸送機器など、メジャーな業界では2.が多く、おそらく7日で規定されています。(一度、自社の契約書をご覧ください)。ということは、7日間にわたってサプライヤから注文書に関する異議がない場合は、納期条件についても合意したとみなされますので、それ以降サプライヤは納期について「早過ぎる」とか「短納期すぎるから納品できない」といえないことになります。

もちろん、それは意地悪な言い方で、リードタイム未満の発注が当然となっている場合は、いちいちサプライヤも異議を唱えないかもしれません。ただし、解釈上はそうなっていることを覚えておいてください。

ポイント③:発注と内示について

そして次に、よく調達・購買関係者で話題になる、内示についてです。

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【ここでの注意書き】
・情報は、単なる計画と、確定的な計画がある。両方とも内示と呼びます。
・親事業者がギリギリの発注段階まで発注数を明示せず、内示情報のみを示す場合は、名称が内示であっても発注と考えられます。なお、上記の判断は、下請事業者の生産リードタイムによります
・内示によって下請事業者が生産を開始したとき、先行着手について依頼文章をもらうことが望ましいとされる。発注をやめたケースは費用を補償せねばならない

これは注意が必要でしょう。よく、調達・購買担当者は「自社の生産数を開示したが、あくまであれは情報であって、内示ではない」といいます。しかし、それはどちらも内示とみなされます。もちろん、内示だからといって、生産を指示したことにはなりませんし、また補償の対象ではありません。

しかし、注意いただきたいのは、次に書いた。「ギリギリの発注段階まで発注数を明示せず、内示情報のみを示す場合は、名称が内示であっても発注と考えられます」という点です。下請中小企業振興法の進行基準でも、民法・商法でも、実態が重視されます。したがって、内示といっても、実際は生産をはじめなければならないタイミングであれば、発注なわけです。

では、「ギリギリ」とはどういう基準で、そうみなされるのか。それが生産リードタイムによるわけです。実際の生産リードタイムを割り込んでいるのであれば、内示であって発注となってしまいます。

実際のビジネスの現場では、このような解釈は無視し、サプライヤに押し付けているケースがほとんどです。ただ、契約の解釈上は、上記のようになることは覚えておいてソンはしません。けっこう。調達側からみても不利な解釈になってしまうのですね。

続きはまた次回。

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