短期連載・坂口孝則の大企業脱藩日記(坂口孝則)

世間一般で“流通コンサルタント”という印象が強い私。みなさんはご存知のとおり、調達・購買の専門家として多方面で働いています。しかし、自動車メーカーを辞めてから、さまざまな模索時期がありました。当時の話は、さまざまなところで紹介しましたが、あまりホンネをまじえて述べたことはありません。そこで『大企業脱藩日記』と題し、現在までを短期連載としてメルマガに掲載することにしました。

【第5回】
それまで月に二回ほどのセミナー講師の仕事以外はしていた。しかし、それ以外は悪戦苦闘するだけで、なんら売上につながる仕事をできていなかった、と前回まで述べた。おそらく、大企業を辞めて、10ヶ月くらいは経っていたのだと思う。10ヶ月ほど、自分の付加価値を社会に示せないわけだからこれは精神的につらい。私の場合は、テレビに出ていたけれど、それも一回5万円だったと記憶している。だから足しにはなるけれども、それだけで大丈夫な額ではない。

独立しようとするひとは、次のような場面を想定するといい。中小企業診断士などの資格をもっていても、もっていなくてもおんなじだ。あなたが事務所を開く。そして「坂口調達改善研究所株式会社」を設立する。チラシを配ったり、ホームページの宣伝を載せたりする。しかし、問い合わせも、ウェブからの連絡もないのだ。そうすると、人間とは面白いもので、ホームページに問題があるんじゃないか、とか、電話線に問題があるんじゃないか、と思いはじめる。たとえば、外の公衆電話からアクセスしてつながるか確認してみたり(実話)、またはスマホからウェブにアクセスしてみて自社の「お問い合わせフォーム」が作動しているか確認してみたり(実話)。

重要なのは、そこではじめて「社会のひとは自分を注目していない」と冷徹な事実に気づくことだと、私は思う。かつて「嫌われる技術」という本が流行ったときに(きわめて面白い本ではあるものの)、抱いた違和感は、「でも多くのひとは、嫌われる以前に、気にもされていないぞ」といったものだった。まあ、どうでもいいのだ。だから、その他人から求められない「どうでもいい」期間が10ヶ月ほど続いても耐えられるだろうか。

そのとき、前回に述べたように企業コンサルティングの話がやってきた。このころは、ほとんど覚えていないくらい忙しかった。しつこいが、お金にならないさまざまな宣伝広報活動があった。くわえてセミナーで資料を作成したり、ちっちゃなメディアで出演するために調べ物をしたり、書籍の執筆をしたり、原稿を書いたり、あるいは営業活動に同行したりだ。しかもそのなかでメールマガジンとかを書いていたので、どうやって時間を捻出していたのだろう。面白いのが、このころ書いた内容が、あとから振り返ると密度が濃い。おそらく、時間があるから面白いものが書ける、というのは間違いだろう。

さて、コンサルティングではさまざまな障壁にぶつかった。想像してほしい。訪問すると、「とりあえず、こういうことを解決してほしい」といわれる。「はい」と応える。どうすればいいだろう? なんの答えもないし、誰も何をやったらよいか教えてくれない。具体的には「どのサプライヤに、いくらぐらいの発注額がMAXと考えるべきかルールがほしい」だった。みなさんだったらどうするだろうか。書籍や会社の過去実績にも答えはない。

おそらく「誰も考えなかったこと」に答えを追い求める行為を面白いと思うかどうかでわかれるだろう。私は面白いと思った。しかし、答えを見つけるのは難しく、毎回、訪問しては15冊くらいの関連書籍(繰り返すが、そんなことを書いた書籍はないから、ヒントとなりそうなやつ)を読んで、会社でウンウン唸って資料をつくり、説明する。もちろん、深夜の作業となる。仕事はやっと発生したけれど、そうやって苦悩しはじめた。

 <つづく>

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