ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
決定版!サプライヤーマネジメント 11
~新規サプライヤーに関する情報収集方法
前回は、どのようにして新しいサプライヤーを見つけ出すのかを、様々な情報源へのリンクを含めてお知らせしました。今回は、見つけ出したサプライヤーに関する②情報収集についてお伝えします。
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前回は、新しいサプライヤーを見つけ出す方法について述べましたが、大きく分けると2つの方法に大別されます。
1. ネットや専門紙、電話帳で見つける
2. 商談会で見つける
大別した2つの方法の違いは、サプライヤーの担当者に、実際に会っているかどうかの違いです。「会うこと」で、最初の実在確認が完了しているかどうかが異なるわけです。
実在確認とは、普段皆さんも日常的におこなっていますね。個人の場合は、住民票や住民基本台帳カード、運転免許証の写しを提示することで確認できるとされています。法人の場合は、「現在事項全部証明書(登記簿謄本)」によって確認できます。
私は新規にサプライヤーを採用する場合に、「現在事項全部証明書(登記簿謄本)」の提出を求めたことはありません。これは、これまでおこなってきた新規サプライヤーを採用するプロセスで、調達購買担当者、設計担当者、そして品質保証担当者といった複数の人間が、サプライヤーの所在地を訪問し、様々な確認をすることで、実在を担保しているためです。また、「現在事項全部証明書(登記簿謄本)」は、日本国内の企業には有効ですが、海外のサプライヤーにはまったく適用できません。事実、私はメールや電話でやりとりをおこなった上で、実際に海外のサプライヤーを訪問してみたら、実在していなかったとの経験をしています。従って、調達購買担当者が、サプライヤーの担当者と会う、サプライヤーを訪問する事は、開拓の初期段階において意義があるのです。
実在確認が完了して後、サプライヤーの実態に迫ります。次のステップでは、ほんとうに欲しい製品やサービスを納入できるかどうかを確認します。極論すれば、まったくリソースを持たずとも、リソースを持っている企業を知っていれば、外注することで納入実現の可能性はあります。そもそもの生業が商社であれば、供給ソースを知っていることが自社のリソースになるわけです。今回はサプライヤーが製造業である場合を想定して考えてみます。
見積依頼をおこなう製品の、想定される製造工程をあらかじめ理解しておきます。バイヤーとしての担当製品であれば、必要な製品知識ですね。その上で、購入対象製造にとって「重要」と判断される工程に目星をつけます。その上で、どの程度サプライヤー内に製造するためのリソースが存在するのかを確認するわけです。
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上記の例は、次の通りです。
1. 発注予定の製品XYZの製造工程を、6工程に分類
2. 分類した工程のうち、3つの工程を重要工程に分類
3. 見積依頼をおこなうサプライヤーを確認したところ、
(1) 工程1と3は、協力会社へ外注
(2) 工程2と4~6は内製 と確認
上記のケースでは、重要と判断したすべての工程かつ、全行程の過半数以上が、取引相手であるサプライヤーの内部にリソースが存在することで、主体的に製造可能であると判断できます。ここで、上図中にある「専門工程」「重要工程」をどのように見分ければ良いかをみることにします。
「専門工程」とは、設備的な制約により、専門会社によっておこなわれることに妥当がある工程です。具体的には、
・材料加工(材料取り、切断)
・金属の表面処理及び原材料等を製造する資本集約・設備産業的工程
が挙げられます。また、労働集約的な工程を、より労務賃レートの低い企業へ外注するケースも含まれます。
「重要工程」とは、購入対象の仕様・性質等、そのサプライヤーから購入することを決定する「根拠」となる工程です。いうなれば、この重要工程を持つから見積依頼をおこなうわけです。「重要工程」と判断する基準は、次の3点です。
(1) 最終的な購入する品物の「出来」を左右する工程であること
(2) 対象サプライヤーに、他のサプライヤーにない優位性が存在する。または、他のサプライヤーには存在しない工程であること
(3) 対象工程に関するノウハウを持っていること(ノウハウそのものの内容で判断もしくは、品物の「出来」で判断)
このような内容を持って、サプライヤーに果たして見積依頼した製品を製造可能なのかどうかを見極めてゆくわけです。このようなお話をするのは、基本的に長期的なサプライヤーとの取引を志向しているためです。そのためには
「なぜ、そのサプライヤーに発注しているのか」
を、バイヤーとして理解し、かつ社内に対して妥当性を証明する必要があります。このサプライヤーに発注することは妥当であるためには、バイヤー企業に不足しているリソースをサプライヤーが持っていることが必要です。既存のサプライヤーは、これまでの取引の積み重ねが、そういった妥当性を担保しているともいえます。しかし新規サプライヤー開拓の場合、目の前の営業パーソンの「できます」「可能です」との言葉だけを信じることにはリスクがあります。次の図をご覧ください。
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私の十数年のバイヤーでのキャリアの中で、二度経験しました。サプライヤーの営業パーソンの「できる」という言葉によって見積依頼をおこなった結果、既存のサプライヤーとの関係に問題が生じた事例です。私がコンタクトしたサプライヤーには、先ほどの例にある「重要工程」に当たるリソースを持っていませんでした。しかし口頭では「製作可能」との回答。結果、既に取引のあるサプライヤーに情報が達します。このようなケースは、2つのお新・既存サプライヤーが、同じ地域だったから発生したのではありません。私にとっても「まさか」の経験でした。そして、このような事を二度と起こさないために、サプライヤーの持つ「リソース」に注目し、リソースに対するアプローチを考え始めたのです。