出版業界の明日(坂口孝則)

出版業界がこのところ振るいません。書籍と雑誌をあわせて販売金額は約1兆3700億円です。1996年とくらべると実に半減しています。調子がいいのは、雑誌『MONOQLO』を販売し、隣のビルのワンフロアまで借り切っている晋遊舎くらいでしょう。

雑誌には公表されている部数があります。何十万部とか謳っているのに、廃刊になっています。正確な数を示していないからでしょう。出版社のひとに「この部数はほんとうに売れているのですか」と訊くと、「回読率(美容室などでまわし読みすること)っていう指標が重要ですからね」と話をそらされてしまいます。

音楽ソフト業界は、1998年にピークを迎え、半減以下になった”先輩”です。若い読者はご存知ないでしょうが、フジロックの初回が1997年ですから、おおむねそのころが音楽ソフトの栄華として頂点だったことになります。音楽業界としては、インターネット配信がまだまだとはいえ盛り上がって来ました。これは雑誌におけるdマガジンといっていいかもしれません。ただ音楽でいうともっと大きいはライブで、2014年あたりから売上はソフトを抜くようになっています。室内で聴くから、経験へシフトしています。残念ながら、出版業界は、音楽でいうライブのような集金システムをまだ確立できていません。

注目すべきは、ひとびとのメディア接触時間比率です。このわずか10年で、テレビ・新聞などの主要メディアへの接触時間が減り、携帯電話やスマホの時間が増えています。携帯電話やスマホなど、たったの数パーセントだったものが、現在では総接触時間の20%強を占めます。そして、テレビ・新聞、そして雑誌などの時間が侵食されています。

私は、某有名書店の近くに住んでおり、ひんぱんに雑誌を手に取ります。仕事柄、できるだけ多様なジャンルを読むため、女性誌も手に取ります。私はかつて、富裕層女子をターゲットにしている雑誌の表紙はロング・黒髪のモデルを採用し、中所得層はショート・茶髪のモデルを採用しており、その差異はカイ二乗検定的に有意差といえるのか、と研究をしたことがあります。それはいいとして、あまりに女性誌が重いので、長時間の立ち読みができませんでした。しかし、隣には平気で読んでいる女性がいる。女性が強くなり、女性の社会進出を実感した瞬間でした。すみません。これこそ、どうでもいい話でした。

音楽業界の流れが、他にも広がっていくとすれば、何を雑誌は教訓とすればいいでしょうか。音楽は現在、定額制でフリーになっています。これがdマガジンだとすれば、この流れは加速していくでしょう。音楽は、そこから、アーティストに会いに行く、という出口が用意されています。また、ライブという非日常空間は、ひとびとを軟禁することに成功しています。もちろんスマホはあるでしょうが、他のメディアからは隔絶できます。

雑誌に応用すれば、すでに半ばそうなっていますが、媒体はなんであれ記事は無料公開、あるいは定額制読み放題になるでしょう。そして、すべての記事から、なんらかのイベントへ誘導する形にせねばなりません。もっというと、記者がどんなひとなのか、なぜそんな記事を書いたのか、なぜそんな職業に就いているのか。そして、おなじ記事を読んで感銘を受けたひとと「つながり」たい。もう内容よりも、人間そのものに投資したいのです。

<了>

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