連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2022年②>

「2022年 総エネルギー需要がピークへ。省エネ・コンサルティングが次なる売り物へ」
CO2排出が問題になるなか、省エネルギー技術を世界に喧伝するタイミング

P・Politics(政治):エネルギー調達での各国連携を強める。原子力発電から火力発電に移行した関係でCO2排出抑制は難しい。代替エネルギー政策が強化される。
E・Economy(経済):新興国が経済成長を果たし、エネルギー需要は高まる。エネルギー利用効率の高い日本発の商品やサービスに注目が集まる。
S・Society(社会):少子化の影響もあり日本では総エネルギー需要が頭打ちに。また過疎化によってエネルギー効率が低下するおそれ。
T・Technology(技術):新発電技術や省エネルギー技術が進展。

2022年には日本の総エネルギー需要がピークになると予想される。エネルギー調達量が減少し、世界での発言力の低下が懸念される。しかし、省エネ・効率化技術を世界に訴求するチャンスでもある。 日本はGDPあたりエネルギー使用効率がもっとも高く、また皮肉なことに東日本大震災後の原発不稼働によって代替エネルギーの開発も進んできた。

・豊かさとエネルギー需要

エネルギー消費量と、各国の豊かさは、明確な正の相関関係にある。もし新興国が省エネに舵を切ると、その国の恵まれないひとたちが、政局を不安にするかもしれない。だから中国が、先進国に同調して、エネルギー消費の総量抑制を認めることはないだろう。

http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2016html/data/221-1-2.xlsx
新興国が総エネルギー需要を抑制しないいっぽう、日本は日本で、火力発電の比重を高めているためCO2排出量を増やしている。ほんらいならば、京都議定書を先導した日本は、世界のなかで省エネルギー政策を主導せねばならなかった。しかし、先進国がエネルギーを使いまくって成長したあと、新興国にのみエネルギーとCO2排出抑制を説得できないでいる。また、やむなく火力発電の活用によって困難な状態に置かれている。

・日本を襲う、過疎化というやっかいな問題

同時にCO2だけではなく、エネルギー使用効率化の阻害で、日本国内の過疎問題がある。内閣府が「平成25年度年次経済財政報告」で述べた通り( http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je13/h05_hz030317.html )、人口密度が低くなると、非効率になるため、配電費用が高くなる。実際に規模の経済性は需要電力量の多寡に大きく影響を受けている。スマートシティー実現のために効率的な都市づくりが急務だ。

・政府やエネルギー関連企業が講じる対策

冒頭で総エネルギー需要が下がることを、ややネガティブに書いたが、もちろん省エネによってもたらされる側面もある。効率的になるため、ポジティブでもある。実際に日本のGDPあたりのエネルギー消費効率はトップクラスにある。一人あたりの一次エネルギー消費のグラフ(散布図)を確認するとわかるように、一人あたり名目GDPの効率では、そうとうな優位性をもっている。

また、エネルギーの自給率を高め、諸外国からのエネルギー調達量は減るのでプレゼンスは低下するかもしれないが、そのぶん効率化技術を高め、諸外国に技術を売ることは考えられる(↓エネルギーの効率性)。

したがって、考えねばならないのは、エネルギー調達が少なくなるなかで、とはいえ安定したエネルギー調達のために各国と連携すること。そして、クリーンな発電技術と世界トップの効率化技術を、ハードとソフトの両面で海外にアピールすることだ。それにより各国も省エネルギーでも成長を実現できる。

そこで国家レベルでは、中東と友好関係を築いているし、石炭についてもオーストラリアとの関係強化を推進している。また積極的に資源を掘りに行く事業者を支援するために、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構が、海外の資源開発会社の買収を支援したり、油田開発などを支援したりする基盤を作った(JOGMEC法の改正)。

クリーン発電技術としては、紹介した地熱発電等以外では、バイオマス発電がある。これは、食品や汚物などの廃棄物からバイオガスを発生させるものだ。また土着藻類、竹、間伐材、木片……といったものを利用した発電技術も進んでいる。
火力発電もまだ向上の余地がある。タービンの高効率発電技術に予算がついている。排出したCO2についても、それを回収し、有効利用していく技術開発がはじまっている。

また、企業の取り組みでも、このところ「グリーン調達」が出てきた。これは行政や民間企業が、取引先を選定するときに、環境負荷軽減にすぐれた企業を選ぶ取り組みだ。サプライチェーン全体のカーボンフットプリント(CO2排出量)を監視し、その持続可能社会の実現に向けて取り組んでいる。

かなり話のレベルは低下するものの、たとえば、日本の住宅断熱材は世界トップクラスだ。家庭内から放出される熱損失を大幅にカットできれば、その効果は大きい。著作「エネルギー問題入門」で、氏も「秘密の投資機会をお教えしましょう。あなたの家の屋根裏に断熱材を入れるのです。(中略)屋根裏に断熱材を敷設する費用が一〇〇〇ドルかかったとしましょう。(中略)五・六二年後には(福利でない場合は)エネルギー費用を一〇〇〇ドル節約したことになります」といっているくらいだ。

エネルギー効率のトップ日本、という触れ込みで各種の省エネ商品が開発されている。それを次は海外に売り込む番だ。

・エネルギー不変の法則と利益

あるとき、大学の講師がいっていた。「エネルギーは不変の法則というのに、おなじエネルギーを使って生み出すはずの利益は、会社によってだいぶ異なりますね」。面白い発言と思った。エネルギーは、ジュールという指標で表現できる。しかし、会社の商品がもつ意味については定量化できない。

かつてインドネシアでポカリスエットは売れない商品だった。その後、同社が、ポカリスエットを、ムスリム教徒がラマダン後の乾きを潤す飲み物として意味を変えた。同商品の売れ行きは上昇し、国民飲料と呼ばれるほどになり、地方の小売店にもかならずあるようになった。さらに、割高に売れるようになった。商品はおなじで、作るエネルギーも同じ。しかし、利益が異なる。

電気はどうだろうか。おなじく意味を変えた例がある。電池だ。単四電池が一本100円としてみよう。すると、単四電池のコストは実に通常電気代の1万倍にもなる。単四電池の実力として、1.5ボルトの電圧で1アンペアの電流を1時間流して、だいたい100円としよう。すると1ワットアワーで計算すれば、100÷1.5=67円となる。だから、キロワットに修正すると67×1000=67,000円だ。いっぽうで、電気代は1キロワットで20円だ。だから、3350倍になる。

ここには、ものを動かす電気そのものから、持ち運べる便利な電源というあざやかな意味の転換がある。エネルギーそのものではなく、それにまつわる意味に介入すればいい。

私は常々、中小企業の戦略を一言でいうと「値上げだ」と答えている。その意味からも、日本国を中小企業にたとえるならば、日本の技術を高く売る、商品の意味を変えることに注力すべきだろう。

以前、ガソリンが排出する二酸化炭素は、植物の成長にとって、むしろ好ましいとされていた時代もあった。しかし、現在では温暖化の元凶とみなされるようになった。おそらく読者のなかには二酸化炭素による温暖化説に反対のひともいるだろう。私は、冷静に文献を読み込む限り、地球温暖化は間違いがなく、かつ深刻なものだと認識している。ただ、断言はしない。

あるのは、この50年間で陸地温度が0.9度は上昇している事実だ。そして日本の省エネ技術はたしかに世界トップレベルにある。

省電力というソフトで日本は世界のコンサルタントを目指すべきだ。

・考察

日本の「もったいない」が世界の流行語になった。現在では、ロハスやエシカルの名でシンプルな生活を志向する人びとが増えた。この運動の特徴は、消費を抑えることに力をかけるのではなく、むしろ、ロハスでエシカルな商品を積極的に購入・消費することが世界の改善につながるとする点にある。

省エネルギー化にシフトする世界では、きっと日本が先取りしていたエコライフが必要となってくる。また、現在は「頭で消費する時代」だ。商品が、どのように生産されてきたか、CO2排出は少なかったか、省エネルギーだったか。そういった商品情報が選定時に重要になってくる。生産現場でのノウハウは、こういった流行の前から日本企業はTQM(トータルクオリティーマネジメント)として改善活動に勤しんできた。最終製品ではなく、そのノウハウを世界に提示すべき時代だろう。

また、電気も、電気というサービスから、電気を使う経験を販売するようになる。きっと将来の電力会社は、個々人の家庭が使用するエネルギー消費をコンサルティングし、最適な家電を提供し、家計の中から再生エネルギー投資を勧める等のファイナンスアドバイスもするようになるに違いない。どのような生活様式がもっとも、エネルギー効率が良いかも助言してくれるはずだ。電力会社は、エネルギープロバイダーから、ノウハウプロバイダーになるのだ。

電気も定額サービスになるかもしれない。電気自動車が勝手に発電し、使いたいときに街中で拾えるようになる。家電が勝手に、電気を買って、選んで、使ってくれる仕組み。現在、電気自動車のバッテリーが高価で、その定期的な入れ替えまで含めると経済性には疑問がある。しかし、電気プロバイダーとして売電できるようになれば、収益性は向上するだろう。

<つづく>

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