ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

8.調達購買部門の納期管理

8-8 調達購買部門に関係する在庫管理

在庫管理は、多くの企業で「在庫管理の責任部門はどこですか?」との質問に、明確に回答できないといった、管理責任者がおらず、管理技法もないといった無管理状態が指摘されています。組織的には、具体的な部門が設定されていたとしても、あくまでも現品の管理の域にとどまっているケースが非常に多くなります。「あの在庫は、営業責任、この在庫は品証責任」といった形で、在庫の現品は管理しているものの、その処置について権限を持たずにそのまま放置されており、あるタイミングで一括した処理を繰り返すのが典型的な無管理状態です。

リードタイムの短縮化の要求はどんどん強まります。一方、短納期要求にサプライヤーを含めたサプライチェーン全体の効率化のみで対応するのは、結果的にリードタイム以外の部分に大きな負荷を生みます。また、前々号でも述べているとおり、闇雲な在庫ゼロ化を目指して、在庫の存在に盲目的になるよりも、適正な在庫量と管理方法を検討します。

在庫活用を考える場合、バイヤー企業内に、3つの管理の「空白」を想定します。3つの空白の撲滅は、在庫を積極的に活用するために、調達購買部門も積極的に関与し、サプライヤーと調整します。

☆需用と供給の「空白」を埋める

在庫管理の位置付けを「あってはならないモノ」から、「市場における需要動向に合わせて過不足なく製品供給をおこなうための在庫の維持」と定義して、販売機会の逸失を防ぎ、短納期を優位性とする可能性を模索します。

☆在庫管理の「空白」を撲滅する

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在庫を活用するには、適正に保管し、使用時に保管前と同じ品質確保しなければなりません。しかし、上図のとおり、在庫管理の責任部門が不明確だと、在庫の維持管理のはざまに「空白」が存在しています。調達購買部門ではまず①の空白があるかどうか。空白を埋める協議を関連部門とおこない、在庫の品質維持の取り組みをおこないます。

在庫の維持管理に際して、調達購買部門は、在庫期間中の品質維持に必要な環境条件をサプライヤーから入手します。特別な条件(温度や、湿度の管理)が必要な場合、保管環境の確保を、社内の生産管理や、製造、物流管理部門と協議します。ポイントは

(1)現状の自社倉庫で、保管ができるかどうか
(2)保管できない場合、在庫管理手段を明確化
(3)明確になった在庫管理手段の実現に必要な費用を算出

の3点です。(3)の発生費用は、在庫を活用する場合に発生するデメリットです。もし、在庫管理に費用や投資が発生する場合は、費用対効果を見極め、在庫を持つ妥当性の検証を行いましょう。

☆保証期間の「空白」を埋める

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在庫を持つ場合、もう一つ検討しなければならないのが、「保証期間」の取り扱いです(上図参照)。サプライヤーが提示する一般的な保証条件は「納入後1年」です。サプライヤーから受領した後、顧客へ納入するまでの期間が長期化すれば、サプライヤーの保証期間が切れバイヤー企業が顧客に提示した保証期間が残り、リスクはバイヤー企業が負う結果となります。

バイヤー企業が強く望み、サプライヤーの意向に関係なく在庫化したのであれば、製品補償費用(ワランティコスト)をあらかじめ発生する期間分積み増して対応します。在庫を持つ根拠によっては、サプライヤーと発生するリスクをシェアして、バイヤー企業側の負担を少しでも減らす取り組みを行います。

☆サプライヤーと協議して決定する

上記「空白」への対応は、いずれも「なぜ在庫を持たなければならないのか」を明確にして、サプライヤーに応分の負担を求められる場合は、協議をおこないます。在庫の品質維持は、サプライヤーに管理するノウハウがあるはずです。保証期間にしても、顧客ニーズの実現によってサプライヤーもメリットを得られるのであれば、相応の負担を申し入れます。

☆物流部門との連携

在庫管理は、物流管理と密接に関係しています。今回述べた在庫は、広義の構内物流(保管委託先倉庫を含めた自社責任範囲)での移動と保管を繰り返す存在です。理想的には、物流管理部門が、同じく在庫管理をおこなって、総合的な物流管理をおこないます。調達・購買部門にそういった部門が含まれる場合は、もちろん主体的に、含まれない場合でも、サプライヤーからの納入と確実にサプライチェーンをつなげる調整をおこないます。

<つづく>

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