超オススメ本(牧野直哉)

最近、久々に時間を忘れて一気に読みとおし、かつ読んだ後に、大きな発展があった本に出会いました。

 「日本の経営」を創る 三枝 匡 (著), 伊丹 敬之 (著)

この本のすばらしい点を3つ、挙げます。

1.実務と理論の「バランス」

著者である三枝さんは、数々の企業を再生し、ミスミグループを現在の姿に押しあげた経営者です。伊丹さんはいくつかの大学で教べんをとりつつ、企業経営にも、監査役、取締役でたずさわっています。お二人の共通点は、経営について、理論と実務の両面から、深い洞察力をお持ちの点です。

経営全般、そして調達・購買/サプライチェーンの領域でも、大学の先生による著作はたくさんあります。同じように、コンサルタントの本もあります。どちらの立場からも面白い本はあります。具体例として、ある調達・購買本から引用します。調達・購買部門におけるカテゴリマネジメント実践に際したマネージャーの責任を示しています。

担当の調達カテゴリに関して高度な知識を有するカテゴリーマネージャーは、関係部門の調達要件を収集し、社内の所要量、需給状況、コストトレンド、技術動向などを加味しながら、特定の事業部門の利害を優先せずに全社的な視点において調達戦略を立案する。かつ、事業部門の事業企画部門、技術部門、生産部門などと対時しつつ、その戦略を実践していく(「強い調達」アクセンチュア 46~47ページ)

複数事業を抱える調達本部に所属するカテゴリーマネージャー。異を唱える内容ではありません。しかし、こういった能力を兼ねそなえた人いますか?現実的に存在するかどうか。そして、仮にこういった素養を兼ねそなえた人が、調達・購買部門のカテゴリーマネジャーとのポジションに留まるのかどうか。理想的な姿として設定するのは良いのです。しかし、では実態との乖離(かいり)をどのように埋めるのか。実務者が知りたいのは、どうやって理想に到達できるのか、その方法論です。

1冊の本に、経営のなんたるかと、その方法論すべてを盛りこむのは不可能でしょう。著者のお二人は、実務と理論の双方に言及され、その「つなぎ方」について言及され、実務と理論の間の「溝」を埋めようとしています。その過程が、対話のなかで「あるべき姿」を設定する、あるいは「あるべき姿」に近づける方法論を考える上での「ヒント」であり、以下の2、3の通りたくさん盛りこまれています。

2.日本経済に関する「常識の否定」

「失われた××年」といった表現は、皆様も良く御存じですね。バブル経済崩壊後、日本は長い停滞期に入ったと言われています。停滞の原因はバブル崩壊、そう考えていました。しかしこの本には、少し違った考え方が示されています。日本の企業内のみならず、外部環境を含めた、バブル崩壊よりも前から顕在化していた構造的な要因です。

バブル崩壊が、景気循環の一局面であれば、その循環によって、好況となる局面もあったはずです。バブル崩壊以降に、好況がどれ程実感できたでしょうか。景気循環以外の要素に日本企業停滞の原因を見いだしている点が、非常に興味深い、そう感じるのです。

同時に「失われた××年」といっても、そんなトレンドにまどわさずに業績を伸ばした企業も存在します。なぜ、厳しい経営環境の中で、業績を拡大できたのか。これが今、弱まりつつも依然として存在する、日本の大きなトレンドに逆らった結果とされています。驚きかつ、痛快です。

3.参考文献の「量」

著者の出会いは、1970年代の中盤までさかのぼります。そして、二人の歩んだ人生の中で影響を受けた1980年代からのさまざまな文献が、紹介されています。この本に書かれている内容が、より深く理解できる好著、そして、私が知らなかった史実が書かれた本ばかりです。

私は、人から勧められた本は必ず購入して読みます。そういった機会が非常にすくないので、せっかくの機会を失いたくないのに加え、知る楽しみ、自分の興味を深く理解できる満足、そして新たなテーマの発見の3つが目的です。紹介された文献で、一気読みしてしまった本に「アメリカ人の日本観―ゆれ動く大衆感情 シーラ ジョンソン (著), 鈴木 健次 (翻訳)」があります。アメリカ人の日本人観の変遷が描かれている本です。アメリカ人の対日感情は、憎悪→好意→理解→非難へと移り変わったとされています。ご紹介した本のみならず、たくさんの参考文献が示され、どの本も面白い。こんな本、ほんとうにめずらしい。

私は、かなり多読していると思います。しかし、それだけ読んでいても、これだけ深く読みこんで、読書の後、より深い理解を求める本はありません。既に発売から7年が経過した本ですが、内容は1980年代以降の日本企業がテーマです。多くのビジネスパーソンにさまざまな示唆を与えてくれる、そんな本だと思います。まちがいなく、オススメです!

<了>

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