ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

コストテーブル論 2

前回は、厳格な扱いから蔑ろにされるまでのコストテーブルの運命。そして、厳格すぎても、蔑ろにしてもダメなコストテーブルの悩ましい取扱い、しかしながらもコストテーブルとは、引き続きバイヤーにとって有用なツールであることを述べました。

そして今回、いきなりコストテーブルを作ってしまいます。皆様がこの記事をお読みになる前でも、直後でもいいです。一番身近にある見積書か、注文書をベースにコストテーブルを作成してみてください。

では、私も書いたとおりに、一番身近にある見積書・注文書でコストテーブルを作成してみます。

製品は、ディーゼルエンジンの構成部品です。価格を決めるファクターに「面積」を採用します。 この場合、面積は金額の根拠として見積書に記載されています。面積が大きくなれば、購入価格は高くなります。

面積 1
価格 ¥1,650.-

さっそくエクセルのグラフ作成機能を活用して、コストテーブルを作成します。作成されたグラフは以下の通りです。

<面積1、価格1650円のとき>

さて、完成しました。近似曲線を活用することによって、面積が1以外の場合の価格の傾向を読み取ることができるわけです。問題は、面積が1以外の場合に、コストテーブルから読み取った価格が正しいかどうかとの点です。正しいとは、バイヤーとして購入するに値 として判断できるかどうかです。そういった判断をするには、データが一つでは妥当性を主張するのに少し弱いかもしれません。では、どうするか。

次のグラフは、先のグラフを作成した後に、購入実績を紐解いたり、新たに購入したアイテムを追加したりして、データを追加して作成したものです。

<データ追加後>

このグラフを見たら、データが増えても果たして正しい価格とは何なのか、と思いたくなります。とても妥当性を語れるデータではありません。しかし、面積を基準にしているアイテムの購入状況を如実に表しているものです。

なぜ、このような数値の分布になってしまったのでしょうか。

この製品は、流体に含まれる不純物を取り除く機能を持つフィルターという製品のものです。車のお持ちの方は、オイルを交換する際に必ずフィルター交換の要否を聞かれますね。アレです。エンジンが動くために必要な流体とは、

・ 潤滑油
・ 燃料(ガソリン、軽油、重油)
・ 水(冷却水)

の3種類があります。それぞれの流体の特性の違いが、不純物を除去するという機能を確保するために必要な仕様に影響を与えていることが考えられます。

そして、一言エンジンといっても、一台あたりの出力や、各機種の生産台数は大きく異なります。エンジンを使用する製品で一般的な自動車も、月あたりの生産台数は、数万台から数台まで大きく幅があります。モノづくりにおける一定期間での生産数量は、その段取りから工法に至るまで大きな影響を与え、その全てが生産コストに大きな影響を与えます。今回の例示では、そういった面積以外のファクターに関する考慮がまったく行われていません。しかし、これらは面積と価格といった非常にシンプルな2つのデータを元にして、とりあえずコストテーブルを作成した結果で得られた示唆といえます。

ここで、前回そして今回の冒頭で提示した「厳格と蔑ろ」をもう一度考えてみます。

今回提示した2つのグラフによって示されるものを厳格に適用することができるでしょうか。近似曲線を使用した価格のトレンドにしても、この状態で正しいとは言えません。この状態で、いくらデータ数を増やしたところで結論は同じです。たまたま自社に有利な価格をコストテーブルが示す場合もあれば、サプライヤーに有利な数値を指し示す可能性も大いにありうる。従い、厳格なものではない 、自社に有利なデータでも主張する論拠は弱い、相手の主張を突き崩す根拠にもならないわけです。

では、コストテーブルは意味のないものとして、データを収集してエクセルへ数値をインプットしたことが無駄なもの。故に、このコストテーブルを蔑ろにすべきでしょうか。

2つ目のグラフなど、矛盾の塊です。売買における最たる矛盾とは、どちらかが一方的に儲けている/損している状態です。そして、矛盾点を全て「サプライヤーが儲けている(かもしれない)」とした場合、これは現時点での購入価格へ 、たくさんの疑問を呈しているものなのです。コスト削減への取り組みで、最初のつまずきは「コスト削減のネタが無い」ではないでしょうか。そりゃ、バイヤーはその時々で全力を出して適正な価格での購買を行います。しかし、個別最適の和がイコール全体最適とはなりません。二つ目のグラフが如実に示しています。しかし、この矛盾こそが、コスト削減活動の原点となる可能性を秘めています。問題点を詳らかに解き明かすことが、コスト削減活動に他ならないのです。

今回は、見積書・注文書一枚からコストテーブルを作成してみました。私は、コストテーブルとは、腰をすえて作るものではないと考えています。確かに過去のコストテーブルを見て、手書きのグラフを見せられるとき、作成時の手間と苦労はどれほどか、とコストテーブルの本質とは異なる点に着目してしまいます。しかしパソコン・エクセルといったIT技術は、コストテーブルの作成方法を大きく変えています。作画・作表による手書きでは、確かに一気に作成するほうがいいかもしれません。しかし、デジタルデータでは、その時々で簡単に 、都度グラフ作成も可能です。いろいろな加工方法があります。そういったツールを活用した試行錯誤の起点がコストテーブルとなるわけで、決して蔑ろにすべきではない 、同時に厳格なモノでもないのです。

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