バイヤーの意義(牧野直哉)

年頭に「2010年を読み解くバイヤーの集い」というイベントがありました。僭越ながら、私もパネラーを務めさせて頂き、2010年を語らせていただきました。他のパネラーから提示されたキーワードの中で、一番印象に残り、そして今、もっともその内容の陳腐化が激しい言葉がLCB(Low Cost Buyer)だと感じています。

「どんなお仕事をしているのですか?」

こんな質問を受けるとき、私には当たり前の「バイヤー」という職種も、一般的ではないことを思い知らされます。そして私は、こう説明します。

・ 業務上必要なモノやサービスを買う仕事
・ 機械メーカーで、組み立てるための部品や材料を購入する・仕入れる仕事
・ 仕事で使うモノやサービスを買う仕事
・ 上手に買う技術を持ち、活用して買う
・ 上手に買うとは、希望通りの納期で、できるだけ安く、必要最小限に買う

質問の主は、わかったようなわからないような釈然としない顔をしています。日々「買う」ことは、生きていく上であまりにも一般的な行為です。よくよく考えてみれば、営業と呼ばれる売る人が存在すれば、買う人が存在するはずですよね。しかし「上手に買う」なんていうと、キョトン?とした顔をされる方が多い。買うという行為があまりにも一般的で、当たり前の行為故でしょう。

そんな存在感の薄いバイヤーという職業。リーマンショック以降の不況の中では、過去とは比べものにならないくらい注目されているとの見方がありました。確かに、売上が拡大しない経済情勢では、買い方の工夫によって損益改善が可能です。最後の砦としてなのか、満を持してというか、それ以外に選択肢はなく、やむを得ずといったところでしょうか。少なくとも、昨年から今年前半にはそのような機運がありました。

ところが、欧米各国そして新興国も黙認する、喜ばしくない為替の一人勝ち、円高状態が、バイヤーに大きな影を落としつつあります。LCB(Low Cost Buyer)を通り越して、もう日本人のバイヤーはいらない、バイヤー不要、との話を耳にする機会が多くなりました。LCB(Low Cost Buyer)では、給料が下がるかもしれない……といった話でした。しかし、バイヤー不要論となると事は深刻です。

読者の皆様には、なかなか非現実的かもしれません。会社へ行けば、欲しくても高かったり、納期が遅れたりといった調達に関する問題が山積しています。多くの問題が有るが故に、その解決を探るためにバイヤーが必要。そう確信を持っていらっしゃるでしょう。

このページを活用すると、各国の人件費を容易に掌握することができます。現在のデータは2009年のものです。バイヤーが海外調達を行なう場合に、現地の管理費他もろもろの費用がどの程度なのかを判断するためには、格好のデータです。

海外調達を行なうのであれば、日本と比較して安価な国での見積金額の査定に活用できる資料です。しかし、今回はちょっと違う観点で見てみます。

残念ながら「バイヤー」のデータはありません。なので、中間管理職でみてみます。管理職でいらっしゃる方は自分の事として、そして課長と呼ばれる人の配下で、日々奮戦されている方は、その上司を思い浮かべながらお読みになってください。

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中間管理職がいる職場、多くの場合間接部門ですね。メーカーの製造部門でも、管理者は間接人員へカウントされます。ホワイトカラー、事務の職場ですね。我々バイヤーも、扱っている品物は現場にあるかもしれません。しかし、バイヤー業務の多くは机上で処理されます。中間管理職=間接部門=事務・机上として話を進めます。

机上とは「机上の空論」なんて言葉が示すとおり、ある意味では何でも有りですね。思いはどんどん馳せればいいし、際限なく考えれば良い。そんなことに意味があるのかというご指摘もあるでしょう。私は思うんです、そこに意味を持たせるのがバイヤーではないかと。机上の空論を実現させるのが、これから生き残ってゆくバイヤーの姿ってことです。

買うのは誰でもできます。お金と欲しいモノ、少しのコミュニケーション能力があれば可能です。買い物とは現場で行なわれます。今の日本の低められたバイヤーの地位とは、普段皆が行なう買い物と同じレベルでしか買っていないから「誰でもできる」なんて揶揄される。事実そうですよね。お店に行って、値札を見て、可能であれば、少し値引き交渉して買う。営業マンがやってきて、見積を貰って、少し負けろ!って言って、毎回見積金額から5%値引いて買う。これでは、普通の買い物と変わりないですね。

なので、バイヤーと呼ばれる、自称する人は、平凡な世の中で数多行なわれている買い物と同じ事を行なってはいけないんです。バイヤー以外から、普段俺がやっている買い物と同じだ、とみなされているから、地位が軽んじられる。軽んじられるくらいなんでもないよ、とは言わないでください。先ほどのグラフでは、間接部門の一セクションを取り仕切るマネージャークラスでも、発展途上国と日本では、人件費に大きな差があります。お店に行って、値札を見て、可能であれば少し値引き交渉して買うことは、どこの国でも日常的に行なわれています。ということは、そういった普段の買いという行為とは異なる方法であったり技術であったりを駆使して買うことが必要になります。普段行う買う行為以上に、何が、どのようにできるのか。頭で考えて思いをめぐらせ、机上の空論の中から前よりも良い買い方を見出して行く。それが、発展途上国よりはるかに高額な費用支出を会社に強いている我々に求められているのです。

とっても難しいですね。私は、いつも考えています。でもこれっ!という回答を得るには至っていません。ずっと考え続けます。我々バイヤーが、日本国内メーカーを人件費が高いからという理由で海外メーカーに活路を見出す。それとまったく同じ理由で、多くの企業のマネジメント層が、日本でのオペレーションを根本から見直し、製造現場だけではない間接部門の海外への移転を検討している。皆さんには、それぞれの環境によって、月単位か、年単位の猶予という期間的な違いがあるに過ぎないのです。今のまま、普段の買い物と、企業購買活動に明確な差別化が行えなければ、より安価な人件費の国や地域に資材部・購買部をおくことは、決してよその国や、特別な会社の話ではない、我々に差し迫っている、いまそこにある危機なのです。

では、生き延びるためにどうすればいいのか。そんな想いから生まれた企画を、今度大阪で開催します。

これからの「調達」の話をしよう
――いまを生き延びるための坂口孝則/牧野直哉のバイヤー論

1社と取引をやめれば自社が助かる状況があったとしたら、あなたはその1社と取引をやめるべきか?

儲かっている事業向だからといって、市況よりも高い金額で購入し、厳しい事業での購買の際に市況よりも安価で購入しトータルでバランスするのは公正なことだろうか?

前の世代が残したサプライヤーとの関係を、経験したことがない難局に直面する私たちが継続の義務はあるのだろうか――。

つまるところこれらは、「調達」をめぐる哲学の問題なのだ。

バイヤーとして生きるうえで私たちが直面する、正解のない、にもかかわらず決断をせまられる問題なのである。

調達は、机上の空論では断じてない。供給過剰、人件費格差、製品逼迫、不具合への補償といった、現代調達を覆う無数の困難の奥には、つねにこうした問題が潜んでいる。この問題に向き合うことなしには、よい調達部門をつくり、そこでバイヤーとして生きることはできない。

他社のバイヤーはこれらにどう取り組んでいるのだろう。衆知の考えを吟味することで、見えてくるものがきっとあるはずだ。

私は、こんなことをテーマにします。

1. バイヤーが不要になる日
2. 「美化力」について
3. 30年間営業しなくてもよかった時代にバイヤーは何をしていたのか
4. サプライヤーマネジメント論
5. 生き残るバイヤーの失敗論

今回は、より双方向を意識して、ぜひ皆様にも話をしていただこうと考えています。ご参加お申し込みはこちらから

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

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