調達・購買担当者の意識改革ステップ・パート6「サプライヤ戦略」その2(坂口孝則)
・サプライヤ戦略とは(前回の再掲)
解説:サプライヤ戦略とは、公平公正なサプライヤ評価結果をもとに、不公平にサプライヤを扱うことです。サプライヤ評価結果が優れていれば、アライアンス・戦略パートナーと位置づけ、発注量を増やしていきます。さらに、両社でサプライヤの弱点を減らし、強みをより伸ばしていきます。いっぽう、評価結果にすぐれないサプライヤは、取引量を削減し、日々のパフォーマンスを向上していかねばならないと、インセンティブを与えていきます
・調達戦略書作成について
意識改革のために:前回までに、意味と意義のあるサプライヤ戦略を構築するためには、まず調達戦略書を作らねばならないとお話しました。自社の調達理念や調達目標から、その調達品をどうしたいかがなければ、それを実現するサプライヤ戦略もありえないからです。そこで、私は前回、私の考える調達戦略書をお見せしました。
繰り返しますと、重要な点は、その調達戦略書が目指すべき地点を明確にすることでした。よって、上記に示した調達戦略書での最大ポイントは左上の箇所「1.戦略ポジション」です(これに関しては、説明を省きますので、バックナンバーをご参照ください)。
その地点に達するために、調達戦略書の左の下以降である
・市場・製品分析 :世の中はどうなっているか、製品はどのようなものか
・自社分析 :自社内シェアや要求事項はどのようなものか
・今後の技術動向 :業界・社内ではどのような技術が求められるのか
があると思ってください。情報収集の目的は、戦略上のゴールを達成するためです。ここは、各項目についてこれ以上のご説明は不要かもしれません。ゴールを達成するために寄与する情報ならば集めればいいからです。そして、この調達戦略書の左側の情報をもとに、右側の「これからどうするか」を作ります。
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あとは、その目標を具現化するための基本的方向性や施策を埋めていくことになります。ただ、ここもみなさんにとっては蛇足にすぎません。これらは施策のための施策ではなく、ゴールを達成するための施策になっておかねばならないからです。そこで先々週もお書きしたとおり、調達戦略書を書き上げたら、「この戦略書どおりにやったら、目標とするポジションは獲得できるのか」との単純な質問に答えられねばなりません。
ここで、決まってから、やっとサプライヤ戦略の出番です。
・サプライヤ戦略書作成について
特定の調達品をどう導いていくかが決まったら、ここでやっとサプライヤ戦略が生きてきます。サプライヤに失礼ながら、サプライヤをジグソーパズルのピースとしますと、創りあげたい絵がなければ、そのピース戦略がありえないからです。
そこで、私は冒頭に<サプライヤ戦略は、端的にいえば「いかに使うか」「いかに改善させるか」「いかに安定させるか」の三つです>と書きました。サプライヤ戦略とは、
・「いかに使うか」:特定製品領域のシェアを、どのような手段で増減させるかを記載
・「いかに改善させるか」:QCDのどの項目をどうやって改善させるかを記載
・「いかに安定させるか」:経営的安定度をいかに保つか・向上させるかを記載
にわかれます。具体的にはどのような「サプライヤ戦略書」が良いのでしょうか。そこで、今回も、私が考える「サプライヤ戦略書」を掲げます。
これまた繰り返しになるのですが、pdfでの提供は申し訳ございません(セミナーなど、例: http://www.future-procurement.com/semi/adov.html ではエクセル版をお渡ししています)。この戦略書では、同じく左に情報類があり、右側にそのサプライヤをどうしていくか記載するものです。
「1.基本情報」とあります。重要なのは「採用根拠」「ネガポイント(ネガティブポイント=社内関係者が不満に思っている点)」と「趨勢分析」です。
この「採用根拠」とは、簡単にいうと「ぶっちゃけ、なんでこのサプライヤを採用しているの?」ってことです。その一つ上にある「総合評価」がサプライヤ全社的なものだとしたら、ここで関連部門の本音を表現します。くわえて、「ネガポイント」も本音です。総合評価はあくまでも、全体的な評価です(サプライヤ総合評価については、バックナンバーは64号を参照ください)。そこに、「採用根拠」「ネガポイント」の本音を記載することで、サプライヤ戦略を実務的な内容にするわけです。
そして、今回の記事では「趨勢分析」までご説明します。これは、サプライヤの近年の経営状況をわかりやすく表現するものです。
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趨勢分析では、基準となる年度(起点年度とも呼ばれ、たとえば3年の経過を見たいのであれば、3年前)を100とします。上記例では、「売上高」「依存度」「粗利益」の3年分推移を見ています。2010年、2011年、2012年の、起点とする2010年の「売上高」「依存度」「粗利益」を100とし、その伸びや減少をグラフ化するものです。売上高については説明は不要と思いますけれど、依存度とは、そのサプライヤの売上高にたいする自社発注額の比率です。粗利益とは、サプライヤ損益計算書上の「売上総利益」という項目を拾えばわかります。
上記例(左)でいえば、依存度が伸び、それ以上に粗利益が伸びています。右に表現しているとおり、「すぐれていない例」は、依存度が高まっている=自社の取引額が増えている、にもかかわらず売上高伸びにたいし、粗利益がさほど伸びていない例です。下にある「すぐれている例」とは、売上高伸び以上に粗利益が伸びています。
サプライヤ戦略では、こうやってサプライヤの現状を記述します。そこから前述の
・「いかに使うか」:特定製品領域のシェアを、どのような手段で増減させるかを記載
・「いかに改善させるか」:QCDのどの項目をどうやって改善させるかを記載
・「いかに安定させるか」:経営的安定度をいかに保つか・向上させるかを記載
フェーズに入っていきます。これまた連載は続きます。よろしくお願いします。