バイヤー現場論(牧野直哉)
4.記念式典への出席するとき
創立○○周年や、新工場、新社屋の落成といった機会に、記念式典への招待を受ける場合があります。オーナー企業の社長にとっては、これまでの経営努力が報いられる晴れがましい場です。近年ではこういった催しもめっきり少なくなりました。担当するバイヤーにも「面倒くさい」と思わせる面もあるでしょう。しかし、サプライヤマネジメントの観点では、サプライヤへ「恩を売る場」として捉えます。招待を受けた場合は、戦略的に出席すべきかどうかを判断し、自社の優位性を確保するための関係性構築に役立てます。
①なぜ、セレモニーを開催するのか
最近では、創立記念や新工場、新社屋の落成があっても、社外の関係者を呼んで開催するイベントは減少しています。筆者の経験でも数年に一度あるかないかの頻度です。減少した背景には、事業と直接的に関係ない出費を避ける目的があります。また派手なイベントの開催は、やはり顧客、購入側である調達・購買部門から見れば「もうかっているな」と、晴れがましい席へ出席しても複雑な心境に駆られる場合もあります。そういった主催者にとって逆風傾向がある中で、あえて開催する場合は、サプライヤ経営者のかなり強い意志が働いていると判断します。だったら、そういった意志を尊重しつつ、どうやったら自社に有効な活用が可能か?を戦略的に検討しなければなりません。
またこういったイベントには、調達・購買部門として非常に興味深い内容が盛り込まれている場合があります。披露するだけの価値のある設備の導入、例えば業界で最新鋭の設備を導入している場合は、バイヤーに必要となるサプライヤの能力掌握には格好の場面となるでしょう。
②セレモニーの利用方法
サプライヤは、なぜ顧客を招待するのでしょうか。セレモニーの会場が閑散としていたのでは、せっかく開催した意議がありません。費用を投じて開催したにも関わらず、かえって自社の置かれた状況を、参加した関係者に悪いイメージとして残してしまいます。したがって、セレモニーの会場を満員にして多くの関係者に祝福されている場を演出するために、一人でも多くの出席者を確保します。あなたが受け取った招待状には、できるだけ多く出席者を確保したいサプライヤの意図があります。だからこそ、私は招待を受けたら必ず出席するべきと考えています。サプライヤに恩を売る、貸しを作るまたとないチャンスです。
また、依存度の高いバイヤー企業、大手・有名企業の場合は、「主賓」として扱われる場合もあるでしょう。その場合の出席者は、だれでも良いのではなく、しかるべき職位から出席を望まれていると判断します。
こういったセレモニーの出席では、サプライヤマネジメント実践の基礎的条件である双方担当者の良好な人間関係の構築を念頭に置いて対処します。担当バイヤーのみならず、複数の人間が時間を費やす代償を、まず良好な人間関係の構築に求めます。自社の上位者とサプライヤの上位者に、たあいのない世間話に終始させるのではなく、取引上の問題点を自社の上位者に正しくインプットして、サプライヤの上位者への申し入れをお願いします。晴れの舞台ですから、厳しい内容であっても、伝え方には配慮を持って、対応には別の場を設定する点だけを申し入れます。
出席するからには、お祝いの気持ちだけでなく、将来的なビジネスへつながる認識の共有化を自社内でおこなって、その上で足並みをそろえてサプライヤへ対応します。
③出席準備
出席に際して必要な準備は、次の3点です。
(1)適切な出席者の選定
こういったセレモニーは、サプライヤに希望する出席者を確認します。担当者で良いのか、それとも上位者が良いのか、どの程度の職位が妥当かといった話を率直に確認します。サプライヤ側に希望がなければ、担当部門の長(ちょう)として課長クラスを基本に、購入額や将来性といった重要度から判断して、出席者を決定します。
(2)最新状況と将来展望のまとめ
担当者として自ら出席する場合も、上位者が出席する場合はなおさら、最新の購入状況と、将来展望をまとめます。サプライヤの上位者が一堂に会する貴重な場ですから、ありきたりの挨拶ではなく、取引における具体的な点を含めたお礼と、要望事項があれば、的確に伝える準備をしましょう。設計や技術部門には、将来的な展望、品質保証部門には、品質維持への敬意とお礼、製造部門には、納期順守への感謝の気持ちを、具体的に伝えます。サプライヤ側は、非常にたくさんの招待者と挨拶を交わすでしょうから、少しでも相手の印象に残る言葉を加えて、その他大勢に埋もれずに、バイヤーとしての自分、そして自社の存在感をサプライヤへ売りこみます。
(3)出席準備
出席に際した実務的な準備です。招待を受ける場合は、出席して祝意を示し、合わせてお祝い金や、お祝いの品を準備します。お祝い金は一万円から、重要度に応じて三万円程度を準備します。また、お祝い金ではなく、相応の清酒を贈って代用も可能です。重要なサプライヤの場合は、調達・購買部門の総意として祝電を送り祝意を示します。こういった対応は、めったに機会がない分、失礼があるとサプライヤ側の意識のなかにいつまでも残り続けます。サプライヤからお礼を言わせるための、失礼のない対応を心掛けます。
<つづく>