ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
コストテーブル論 3
前回は、実際に作成し、活用したコストテーブルを例に、厳格に活用すべきでもないし、だからといって蔑ろにすべきでもないことをお話ししました。理由は、コストテーブルがいろいろなバイヤーの仕事の起点となる可能性を秘めているからです。バイヤーは適正な価格を追い求めるのが仕事です。しかし、そもそも適正な価格とは日々変化します。一見、決まっているように見える価格にしても、そう見なしているに過ぎないことは、前々回にお話ししましたよね(有料会員の皆様は、バックナンバーをご覧下さい)。
最近、特に無料で提供されるパソコン用ソフトに「ベータ(β)版」が多いです。この現象は、変化が激しく、また大きすぎて、完成まで到達している時間がないんです。多少不完全な部分があっても、大勢、この場合はユーザーの使い勝手、セキュリティ等々に問題なければリリースしてユーザーに使用して貰うということになります。そもそも日々刻々と進化することを前提にすれば、完成することがないのかもしれません。これは、今回お話ししているコストテーブルにも通じる部分があります。
コストテーブルは、更新を続ける限りにおいて、完成することはありません。従い、たとえサンプルが一つのコストテーブルであっても、同じか近い原価構成要素を持つ製品の価格を決める段階では、活用すべきなのです。サンプルが少ない場合は、もしかするとコストテーブル的に全く整合性がない見積かもしれない。ここで重要なのは、サンプルが少ないときには、新たに入手した見積金額が高額であろうと、安価であろうと問題点を見いだすということです。コストテーブル対比で、新たに入手した見積金額が高価であれば、今回高くなった理由を追及する。逆もそうです。そのような探求は、時に過去の購入価格を否定することに繋がります。そうなったら、コストテーブルの意義が証明できた証でもあるのです。価格差はどのように発生するのか、その理由を探求することが重要なのです。たとえサンプルが一つのコストテーブルであっても、発想・創造の源という観点では、十分に活用の路はあるのです。
それでは、具体的なコストテーブルの作成方法についてです。
前回提示した例は「面積」というファクターを元に、価格との関係をグラフ化しました。作成方法の最初は、価格に影響がある(であろう)ファクターを図面や、仕様書から読み取ることから始めます。この段階で参考になるのは、過去に作成されたコストテーブル達です。
多分……コストテーブルに示された、価格関連のデータは役立たないでしょう。いつの時代に作成されたコストテーブルにもよりますけど、価格データはあくまで参考です。参照すべきポイントは、コストテーブルとして成り立っている考え方であり、ロジックです。
コストテーブルであるからには、そこに何らかの価格を決定するためのファクターが網羅されているはずです。そして、そのファクターは「数値」であるはずです。ファクターの数値によって、もう一つの数値である価格が決定される、これがコストテーブルの基本的な構成です。まずは、そのファクターがなんなのか、を読み取る必要があります。
先に提示した例では、「面積」の他にも、外形寸法・重量であったり、フィルターの根幹を為す濾紙のスペック(透過させる穴の寸法)であったり、流体の想定流量であったりといった様々なファクターが登場します。これは、当然現在購入している製品の図面や仕様書からも読み取る事が必要です。理由は、どんなにローテクな製品でも、時の流れによってイノベーションが起こっている可能性を否定できないためです。
以下の表は、先に提示したグラフの、おおもとになったデータシートです。
<クリックすると拡大して表示されます>
この表では、図面・仕様書から読み取るファクターの他に、サプライヤー情報や、価格、購入数量まで含んだデータになっています。これらデータの元は以下の通りです。
<クリックすると拡大して表示されます>
コストテーブルとは、過去どのように買ってきたのか、という記録でもあります。過去の記録には、図面や仕様書から読み取るものもあります。そして日々バイヤーとして活用している調達・購買のシステムにも、膨大なデータとして過去の蓄積が行なわれているはずです。そして、それらデータは抽出も可能であるはずです。上記図表の場合には「部品番号」を基点として、購入価格や購入数量に関する情報と、製品個別のデータの統合を行なっています。この作業によって、製品の使用のみならず、数量背景が価格にどのような影響を与えるのか、といった分析もできるようになります。このような作業は、エクセルを代表にした表計算ソフトを活用します。
私は、あるカテゴリーが定まれば、いろいろなデータをとにかくエクセルの1シート上にすべてインプットしてしまいます。最新のOffice2010では、扱うことができるデータ量も多くなり、データ分析機能も強化されています。バイヤーが扱うコストテーブルとしては、エクセルで十分です。データの取り扱いではもう一つ、Accessというソフトがあります。しかし、違うソフトの使用方法を覚えるのであれば、Excelの使用方法を深く学んだ方がメリットは大きいはずです。上記のような表さえあれば、随分と簡単にいろいろな分析も可能だし、様々な説得力を持つ資料を完成させることが可能なのです。
次回は集めたデータを元に行なう分析についてです。
<つづく>