シングルソースサプライヤに対処する方法(牧野直哉)

⑤バイヤーのモチベーション

シングルソースサプライヤによって、バイヤーのやる気、モチベーションにも影響を受けます。発注するサプライヤを自由に選べない様々な制約要因が、バイヤーに諦めの感情を生み、結果的にシングルソースの問題点が解消されない状況に陥ってしまいます。

これまでにも述べているとおり、シングルソースサプライヤによって引き起こされる問題は、多岐にわたります。しかしシングルソースサプライヤ状態から複数のサプライヤから購入可能な状態にしても、根本的な問題の解決に至らない場合があります。「根本的な問題」とは、自社(バイヤー企業)にとって有利な購入条件がサプライヤから引き出せない状態を指します。

ここで一つ、質問です。シングルソースサプライヤによって生じる問題は、2社以上の複数社からの購買が可能になれば、それだけで解消するのでしょうか。今、現在進行形で、1社からしか購入できないアイテムを抱えるバイヤーの皆さんは、今一度、この点をよく考えてみてください。「1社からしか買えない」と一言で言っても、実際の状況は、バイヤーごと、製品ごと、サプライヤごとに大きく異なると考えています。そして、今の状況によっては、複数社購買は事態の改善につながらない可能性も忘れずに心にとどめていただきたいのです。

確かにシングルソースのサプライヤと劣勢のなかでの交渉を強いられ、なかなか自社(バイヤー企業)の希望条件が受け入れられない状況の下では、モチベーションも下がるのはやむを得ません。しかし、モチベーションが下がったから、今自社(バイヤー企業)にとって唯一の購入先であるシングルソースサプライヤに興味を失ってはなりません。まして、シングルソースサプライヤと正面から対峙(たいじ)するような対応は、絶対に避けなければなりません。

シングルソースサプライヤへ対応する場合のモチベーションを維持するには、サプライヤの対応方針に関する考え方の転換が必要です。まず、自社の希望条件が受け入れられないといった全体論、総論でのサプライヤの評価ではなく、QCD+αの自社(バイヤー企業)の評価基準では、具体的にどの部分に問題があるのかを明確にします。シングルソースサプライヤとの間で生じる問題の多くは、価格の高値硬直性でしょう。複数社購買だったら、競合して価格が下がるのに、多くのバイヤーはそう感じるはずです。一方、サプライヤの営業パーソンの視点では、自分達に変わる供給ソースの有無をよくわかっています。わかっているからこそ、価格面での要求には応じないし、価格以外の要求内容も、サプライヤの提示した条件寄りで決着してしまう、サプライヤの強さの源泉になるのです。

では、QCD+αで、購入価格=C:コスト(厳密にはイコールではありませんが)以外の要素はどうなっているでしょうか。受け入れ検査や、クレームの発生状況、納期順守率、価格以外の評価ポイントの状況はどうなっているでしょうか。シングルソースサプライヤ攻略のカギは、購入価格が提供されるモノやサービスの対価として妥当かどうかです。これは、シングルソースであっても、複数社購買でも変わらないセオリーです。

もし、Q:品質やD:納期の面で問題があれば、その是正をサプライヤに強く申し入れます。そして、良好な関係を持つサプライヤと同じように、自社(バイヤー企業)からも協力姿勢を示して改善活動に協力します。サプライヤがシングルソース化した原因は、弁舌滑らかな営業パーソンの話術だけでしょうか。そんなことはありえません。サプライヤの営業の背後にいる社内関連部門の過去からの蓄積したノウハウと現在の業務によってシングルソースが実現しているのです。しかし、どんな企業でも100%完全な事業運営は難しいはずです。どこかに、サプライヤの弱点があるはずです。弱点によって、自社(バイヤー企業)に何らかの悪影響がある場合、それは、シングルソースサプライヤに苦しむ自社(バイヤー企業)の事態改善のきっかけになる可能性があるのです。

加えて、シングルソースになっている理由が、自社(バイヤー企業)の要求仕様にある場合も、調達・購買部門には悩ましい事態です。悩ましい状況に至るからには、可能性のあるサプライヤには、既に見積依頼や何らかの打診をおこなったものの、他のサプライヤから断られた結果で、シングルソース化している事態です。こういった事態は、敵はサプライヤではなく、社内の購入要求部門です。技術的な検討を終えた製品は無理でも、将来的な製品には、サプライヤを限定するような、購入仕様を設定しない働き掛けを「要求元マネジメント(Demand Management)として実行します。

ここまで、シングルソースサプライヤによって引き起こされる問題を見てきました。これだけ様々な問題があれば、解決の糸口もたくさんあるはずです。調達・購買の現場で奮闘する皆さんに、シングルソースの個別の事情を踏まえて、適切な解決方法で対処してほしいと思っています。シングルソースサプライヤの様々な解決策の実行が、もっとも優秀なバイヤーの最短距離かもしれません。次週は、なぜ日本の調達購買部門やバイヤーが、シングルソースサプライヤに苦しんでいるのかを明らかにします。

<つづく>

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