ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

購買戦略のつくり方 1

今年も早いもので一ヶ月が過ぎました。日本の多くの企業は、これから本決算へむかって一年でも忙しい時期に入ります。今年度の決算へ向けた追い込み、そしてこの時期は、来年度の購買戦略、または調達戦略を具体化させる時期でもあるためです。

今回から数回にわたって購買・調達戦略をどのようにつくっていくべきかについて述べることにします。このメールマガジンの読者の皆さんは、実際に現役バリバリのバイヤーとして最前線で活躍されている方、そんなバイヤーをマネージメントする管理者の方がおられると思います。今回は、まず購買・調達戦略の会社全体の経営戦略の中で占めるポジショニングについて述べます。そして、バイヤーとしての購買・調達戦略、管理者としてそれを順番に述べてゆきます。

●戦略とはなにか

まず「戦略とは」なんでしょう。戦略とは、その言葉の通り、戦争にいかにして勝利するかを考えて策をめぐらせることです。戦略とは、との質問には様々な回答が、これまでにたくさん語られています。この場では、この時期にやる意義を強調するために「戦いの前に勝利するために行うべきあらゆる行動を決定するための指針」と定義づけます。そして、戦略としての正しさを測る条件を次の通り5つ設けることにします。

1. 現実的であること

最近、先の日本が負けた戦争について、従来とは異なった史実が明らかになっています。私がこれらを見ていて一番に感じることは、現実を直視せず国民が生死を賭けるにも関わらず極端な精神論に終始しつつ、現実から目を背けている当時の指導者たちの姿です。市場において企業がおこなっている戦いにおいても、実際に実現できるかどうかについてはこだわることが必要です。現実化させるのは誰でもなく自分であるとの当事者意識を醸成させるのにも、現実的であることは不可欠です。

2. 数値化でき、かつ検証できる定量的な指標

この部分が目標とは異なる部分です。また1で述べた精神論を排除する意味でも、数値として評価・検証できなければなりません。企業の存在意義が、一義的に利益をもたらすことに照らし合わせても、数値し検証可能であることが絶対条件です。

3. 具体的に実現可能な行動を集合であること

2にて提起した数値化を達成するためには、従業員の具体的な戦略に基づいた行動が不可欠です。抽象的なものであってはダメなのです。

4. 継続性と展開性があること

企業は一年限りのものではありません。その戦略にも継続性が必要です。そしてめまぐるしく変わる経営環境への対処、また企業としての規模そして質的な成長を考える上でも、展開できることが必要です。

5. 全体最適

調達・購買部門において、他部門との整合性を取りつつ、戦略を掲げることが一番難しいのではないかと考えています。また各部門の戦略を寄せ集めただけでは経営戦略の体を成しません。戦略の実行には、関連部門の協力は不可欠です。また同一企業内であればどの部門も、究極的なゴールは同じであるはずですね。調達・購買部門の戦略構築では、一番重要な条件です。

続いて戦略の根幹についてです。私は新規サプライヤーの開拓に際して、いろいろなサプライヤーの会社案内を見ます。どんな会社にも必ずあるものが、理念でありビジョンです。先ほど、戦略の成立条件には極力精神論を避けるべきとしました。唯一、関わりを持たざるを得ない抽象論は、この理念でありビジョンです。理念やビジョンを中心に、各事業や各セクションの戦略が整合性を持って囲み、かつ整合性を兼ね備えている形が、戦略としてもっとも好ましい状態です。

●戦略の階層

そして、調達・購買部門のポジショニングを踏まえて、戦略の階層を考えてみます。企業の経営戦略には階層構造が存在します。次の図表をご参照ください。

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これまでの話を踏まえると、上記の図表に示された各戦略が企業戦略として統合され、整合性を持っていなければなりません。そして、調達・購買戦略をつくる上で悩ましい問題。それは、企業の業務フローの下流部門に位置するがゆえに、他の戦略がある程度固まらないことには、調達・購買部門の戦略構築がおこなえないこと。そして、戦略構築の自由度との点で、どうしても上流部門の戦略が、調達・購買部門の戦略を制約する要因、さまたげになるのです。

上流工程の戦略を調達・購買部門の戦略の「さまたげ」とさせないためには、2つの対処法が存在します。

一つ目は、調達・購買部門が接しているサプライヤーが存在する市場から、的確な情報収集をおこない、問題意識を独自に構築しておくことです。前回までの「ほんとうの調達・購買・資材理論」では、バイヤーとしての情報力について述べました。情報力を4つに分類し、バイヤーに欠けている情報力の要素をお伝えしました。問題点を明らかにするために昨年3月に発生した東日本大震災後の対応を例として提示しました。しかし、情報収集は常日頃から行うべきものとしました。まさにバイヤーとしての情報力を示す瞬間です。

二つ目は、独自に構築した問題意識をベースに、上流部門の構築した戦略との整合をとるプロセスを必ずもうけることです。ともすると、つべこべ言わずにコスト削減だけしていれば良いとされてしまうかもしれませんね。コスト削減とは、数値そのものです。戦略を具体的な行動へ移すべく、バイヤーが業務に邁進するためにも、上流部門からの「押しつけ」による戦略らしきものとの状態は、なににも増して避けなければならないのです。戦略は、お飾りではなく具体的に実行して成果をえるものです。押しつけで実現できるかどうかわからないけどやむを得ないとの事態は、なんとしても回避すべきなのです。

整合性の確保、これは日本の企業内で、調達・購買部門のしかるべき地位を得るためには必要なプロセスです。毎年のように押しつけられた実現可能性の乏しい戦略を書類上だけで作り、期末には未達成。そのことが、調達・購買部門の地位を低くおとしめています。一般的に調達力があると言われる企業では、戦略決定に際して、関連部門と対峙の瞬間が存在します。そのような場面がない企業では、まずそんな話し合いを持つことから始める。それが確固たる調達・購買戦略構築の第一歩なのです。

<つづく>

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