ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)
・2012年のはじめに調達・購買部門が考えておかねばならないこと
いよいよ2012年が本格稼働した。そこで今回はショッキングな事実からご説明したい。4月から新しい期が開始する会社が多いと思う。できれば、今回の記事が刺激になれば幸いだ。
私はショッキングな事実といった。それは日本の各社の状況であり、調達・購買部門の状況でもある。
まず、これを見ていただこう。これは、全規模の製造業を抽出したものだ。なにを抽出しているかというと、売上高だ。
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もちろん、2008年の金融危機は全規模の製造業の売上高を大きく下げた。それ以降、回復基調にあるものの、完全にそれ以前の水準にあるとはいいがたい。ただ、それでもなお、1990年初頭からすると、まだ右肩上がりの傾向だ。
グラフを見ていただいたらわかるとおり、2002年ころから、売上高が増加している。その理由はなんだろうか。もちろん、各社によってばらつきはあるものの、各社の海外輸出がメインだった。それは各社の有価証券報告書を見ても確認できる。
ほとんどの会社が「成長するアジアマーケットで、さらなる売上高増加を見込んでおります」と書き、アジア(や他の海外諸国)への輸出を本格化していることがよくわかる。ちなみに、この「さらなる」という表現はそもそも誤用なのだが(正確には「さらに」しか存在しない)、それは置いておこう。日本市場だけでは限界があると判断した各社は、こぞって輸出を増やそうとしていた。
ただ、知られていないのは、次の図である。これは、その売上高にたいして、各社の付加価値の増減を示したものだ。
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何かの間違いではないか、とすら思える。売上高が増え続けているあいだ、なんら付加価値は増えていなかったのだ。ただ、売上高が減った金融危機時は、付加価値が減っている。
付加価値とは、売上高―変動費で表現される。正確な定義ではないが、売上高から外部調達費を引いたものと考えていいだろう。つまり、売上高から、調達・購買部門が調達するコストを差し引けば、その付加価値はなんら増加することはなかったのである。
これでは何のために海外事業を展開しているのだろうか。クールにいえば、その意味はないことになるだろう。もちろん、海外事業を展開しなければ、より付加価値が下がったとする見方もあるだろう。それには反対しない。それでもなお、海外に進出したものの、海外でも儲からない、そして日本でもジリ貧が続く状況には変わらない。
ここでもう一度、自問したい。何のための売上高増加だったのだろうか。そして、付加価値を増やすことのできなかった調達・購買部門とは何なのだろうか。
その結果が下の図だ。
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企業は、製品に占める付加価値率を下げたものの、売上高営業利益率を確保(横ばい)するために、売上高に占める従業員の給与を減らすことで対応してきた。
昨今、各企業の調達・購買部門がさかんに「調達・購買改革でXXX億円のコスト削減」と叫んでいる。新聞等の報道も多い。ただ、皮肉ながら実際には、調達・購買部門は付加価値を減らし、従業員の給与減という形でツケを払っているのである。
そこでもう一度、問おう。自社の「XXX億円のコスト削減」とはほんとうだろうか。見せかけのコスト削減や、「材料費の高騰除く」等の高度な詐欺手法を使ったものになっていないだろうか。効果のないコスト削減を声高に叫ぶオオカミ少年になっていないだろうか、と。
最後にお見せしたいのが、以前に調査した日本の完全失業率だ。
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2010年から2011年は5%近辺の完全失業率だった。最近は若干の改善があったとはいえ、4.5%とまだまだ高い。ただ、この完全失業率にたいして、「欧米諸国よりも低いからまだマシだ」とする論がある。
ただし、それはほんとうだろうか。
下は雇用調整助成金の申請状況を見たものだ。
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すなわち、実際に雇用され続けていても、その給与はまるまる国の税金を使っている比率がかなりある。それは、具体的に2%から4%ほどの潜在失業者の存在を明らかにする。要するに、「欧米諸国よりも低い」とされていた完全失業率は、けっして低くなく、実質は7%~10%で、絶望的な状況にあることがわかる。余談でいえば、この申請者の比率で製造業が多い。
まず状況をみなさんにお知らせした。この状況把握から、私たち調達・購買部門はなにを行えばいいのか。それを次回以降に考えていきたいのだ。